90-13 見学と手伝いと
7月19日は、アーノルト率いるプロジェクトチームは朝から大忙しであった。
朝食後すぐにアーノルトは『アカデミー』学長セイバン・イライエ・センチと共に、最高管理官トマックス・バートマンに面会。
このあと、魔導頭脳の建造に取り掛かると報告した。
「うむ、朝一番でジン殿とマキナ殿も報告してくれている。アーノルト君、よろしく頼む」
「はい」
必要な報告を終えたアーノルトは学長セイバンと別れてプロジェクトチームの待つ中会議室へ行った。
そこには既にメンバーが揃っており、討論を始めていたのである。
「あ、主任だ」
「おはようございます!」
「おはよう。ゆっくり休んだかい? 最高管理官に報告してきたから、早速始めよう」
「はい!」
「おー!」
「おはよう」
「おはようございます」
「おはようございまーす!」
そこへ仁とゴウ、ルビーナもやって来た。
『アイオーン』と『アスティノ』の管理者としての立場から協力するのだ。
「お、客人も来てくれた、さあ頑張ろう」
仁たち3人は、当面は積極的な口出しはせず、プロジェクトチームのやり取りを見学だ。
「ここはこうした回路に……」
「そこはもう少し太い導線にした方が……」
「ここの魔結晶は小さくてもいいが品質の高いものを……」
メンバーがいろいろな意見を出し、
「よし、ここのフローはこう直そう」
「使用するミスリル銀の純度を上げればいいだろう」
「わかった、ランクAのものを使おう」
アーノルトがそれを設計に反映させていく。
その様子を、ゴウとルビーナは興味津々で眺めていた。
「ああ、こういう風にして大勢の意見をまとめていくのか」
「意見を昇華させる、というのはこういうことをいうのね」
2人にとって、こうした『チームワーク』を目の当たりにする機会は少ないので、貴重な経験になるだろうと仁は考えていた。
そして2人は、そうした場合のまとめ方を肌で感じ、吸収していく。
ただし……。
「ねえジン様、あたしたちも参加しちゃ駄目?」
30分でルビーナは飽きたようだ。
「そうだな、あと30分我慢しろ」
「はーい」
その頃には、設計も佳境を迎えており、再びルビーナも興味を示し始めていた。
「よし、これでここはいいだろう」
「こっちのデバッグ終わりました」
「もう1つルーチンを追加してくれ」
「ふうん……こういう形式になるのね」
「面白いね。『魔導大戦』当時の方式を色濃く受け継いでいるのかな?」
「ゴウの言うとおりだ。今回の魔導頭脳は知ってのとおり『アイオーン』『アスティノ』と並び立つ仕様だから、こうしているのさ」
「ああ、やっぱり」
「意味があるのねえ」
そして1時間、設計は終了した。
「ジン、もしよかったらデバッグしてもらえないか?」
「いいとも。……礼子も手伝ってくれ」
「はい、お父さま」
仁は設計図を読み取りつつ魔結晶に書き込んでいく。
礼子はそれをチェックする役目だ。
2分で巨大な設計図は1個の魔結晶に書き込まれた。
「ここまででバグは見つからなかった。念の為、礼子にもデバッグしてもらったが、大丈夫だな」
「はい」
加えて、蓬莱島の老君にも内容は送信されており、既に内容をエミュレートしてチェック済みである。
「そうか、なら安心だね」
「ジン、助かったよ」
「いや、これからが本番だぞ」
「そうだね。……うん、キリがいいからここで午前中は終わりにし、また午後から頑張ろう」
アーノルトが宣言した。
時刻は午前11時40分。
少し早いが、人間が集中力を発揮できる時間は短い。
一旦昼食とし、英気を養ってからまた頑張ることになったのである。
* * *
「見学はどうだった?」
「いろいろ勉強になりました」
「正直、ちょっと中だるみしちゃったけど」
昼食後、お茶を飲みながら仁は2人に感想を聞いた。
「まあそうだろうな。少し退屈なのはわかるが、それも含めて技術者の仕事だからな」
「はい」
「はーい……」
「自分たちで何か作っている時の方が楽しいのは同感だけどな」
「ジン様も?」
「まあな。でもそういった、気の進まない仕事もしなきゃならないのが大人なんだよ。残念ながら、な」
自分に言い聞かせるように語る仁であった。
* * *
昼休みの後は再び魔導頭脳の製作である。
午後は、いよいよ基本構成の組み立てになる。
これにはゴウとルビーナも加わることになる。実技だからだ。
「ゴウ君、そこの線を繋げるのちょっと待ってて……こっちを繋げてから頼むよ」
「ルビーナ君、その魔結晶はきっちりと嵌め込んでおいてね」
「ちょっとここの導線に魔力を流してみてくれるかな」
2人とも、プロジェクトチームの面々とはすぐに馴染んで作業を行っている。
こうした作業では、もうゴウとルビーナはトップクラスだ。
途中で仁も手伝ったので、午後5時にはほぼメインユニットが完成したのであった。
「いやあ、捗った捗った。ジン、ゴウ君、ルビーナさん、ありがとうよ!」
テンションの上がったエイラは仁、ゴウ、ルビーナの順に背中をばしばしと叩いて喜びと感謝を表した。痛い感謝だなあとゴウとルビーナが思ったどうかは定かではない。
「ジン、ゴウ君、ルビーナさん、ありがとう」
アーノルトは真摯に3人への礼を述べた。
「これで7割は終了した。明日には完成できるだろうね」
仁から見たらかなり遅いが、『アカデミー』の基準で見れば3倍くらいの速さである。
「お三方のおかげだよ」
グローマや他のメンバーも上機嫌……というかテンションが高いままだ。
こういう雰囲気もいいな、と仁は思った。
そしてゴウとルビーナも、
「こちらこそ、いい経験をさせてもらいました。ありがとうございました!」
「とっても楽しかったわ! ありがとう!」
と、感想と礼を口にしたのである。
『アヴァロン』の将来を背負って立つ、そんなメンバーがここに集っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20221102 修正
(誤)2人にとって、こうした『チームワーク』を目の当たりする機会は少ないので
(正)2人にとって、こうした『チームワーク』を目の当たりにする機会は少ないので




