90-12 改良完了、そして次へ
18日夜、午後7時に、ゴウとルビーナが手掛けた『アスティノ』の改良が終了した。
「調子はどうだい、『アスティノ』?」
『はいゴウ様、素晴らしい調子です。これまでに比べ、41パーセントの性能向上が見込まれます』
「それはよかった」
「よくやったな」
「ああ。俺はただ見ていただけで終わったよ。成長したな」
「ありがとうございます、ジン様!」
「マキナ様、ありがとうございました!」
仁からは労いの言葉、マキナからは褒詞をもらい、喜ぶ2人。
「接続はまた後日だな。今日は帰ってゆっくり休もう」
「はい!」
というわけで、『転移魔法陣』を使い、仁たちは『アヴァロン』へと戻ったのである。
* * *
『アヴァロン』に戻った仁たちは、まず疲れを取ろうと、風呂に入ることにした。
時差はマイナス1時間20分ほど、『アヴァロン』は今、午後6時である。
夕食時なので風呂は空いていた。なので居室のシャワーではなく、大浴場へ行った。仁も一緒だ。
「ふわあ……」
「ああ、のんびりするな」
湯船でのんびりと身体を伸ばす仁とゴウ。
「ゆったりして疲れが取れるよ」
「ですね」
* * *
「ああ、いいお湯」
ルビーナは女性用浴場で寛いでいる。
今のところ女湯は貸切状態である。
「泳ぐ……のは駄目よね……」
『仁ファミリー』の一族だけあって、ゴウもルビーナもお風呂は大好きであった。
* * *
風呂から上がり、少し遅い夕食を摂った仁たち。
仁はゴウとルビーナの疲れを気遣い、早めに寝るように言ってからアーノルトたちの所へ行った。
第3の魔導頭脳『アスピーダ』の設計をしているプロジェクトは、中会議室を借り切って行われている。
この日は午後8時になってもまだ白熱した議論が交わされていた。
「やあ、こんばんは」
「おお、ジン! そっちは順調かい?」
プロジェクトリーダーのアーノルトが仁に尋ねた。
「ああ、『アイオーン』と『アスティノ』の性能アップは終わった。『アイオーン』は36パーセント、『アスティノ』は41パーセントの性能アップとなったぞ」
「それはすごい。なら、こっちも頑張らないとな」
「それはいいんだが、残業は9時までだろう? あと1時間もないぞ」
平常時の『アカデミー』では、事前に申請しておかない限り、午後9時以降の残業は許可されないのである。
『アヴァロン』は、ホワイトとは言わないが、少なくともブラックではないのだ(ごく一部の管理職除く)。
そもそも管理職は残業手当が付かない、という企業が多い……はず。
……などと仁が昔を思い出しながら忠告すると、アーノルトはわかっているよ、と頷いた。
「構想は終わって、フローチャートまではできているんだ。あとは設計図に落とし込むだけさ」
「そうだったのか。……見せてもらっていいか?」
「もちろん。意見を聞かせてもらえるとありがたいよ」
そこで仁はテーブル上のひときわ大きな紙に描かれたフローチャートを見ていった。
そして一言。
「うーん、見事だな」
「そうかい?」
「ああ。全体の流れも、補助ユニットの割り込みも、記憶セクターのプロテクションも、堅実でゆらぎがない」
「ありがとう。ジンにそう言って貰えると安心だよ」
「これなら『アイオーン』と『アスティノ』の2基とバランスを取ってやっていけるだろう」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
あとは設計どおりに作れるか、そして思いどおりの性能を発揮してくれるか、だとアーノルトは言った。
「……で、こいつの思考パターンはエイラのものをコピーするんだな?」
仁がエイラを見てそう言うと、言われた当人は珍しく顔を赤らめた。
「なんか、そういうことになったみたいだな」
「まあ、気にすることはないぞ。人格が残るわけじゃないからな」
「わかってはいるんだけどな」
「考え方の道筋というか、論理の組み立て方というか、そういうものを転写するだけだから」
「まあ、その辺は説明してもらったけどね」
「俺としては完成が楽しみだよ。……で、やっぱり管理者はアーノルトに?」
「そうみたいだ。エイラさんでもいいと思うんだが……」
「やだよ、あたしは」
「……と、嫌がるものでね。思考パターンを使わせてもらったので、管理者については仕方なく僕が……」
「そういうことか。……しかし、改めて考えてみると、異論も異議も反発もなしに、ゴウとルビーナが管理者であることがよくも受け入れられたものだ、と思うよ」
『アカデミー』の学位持ちとはいえまだ成人前の2人である。
批判する者が出てきてもおかしくない。
「そこはそれ、仁が後見人だし、『フェニーチェ』という実績はあるし。それに今更変えられないだろうし」
「そうかなあ」
「まあ、仁が後見人で、マキナにも認められているというのが大きかったんだろうさ」
「そういうものか」
「そうさ。『魔法工学師』というネームバリューはそれだけ大きいんだよ」
そんな話をしているうちに、時刻は午後8時45分。
「そろそろ片付けるとするか。……皆、今日はご苦労さまでした。明日は午前8時から詳細設計をします」
アーノルトはこの日の業務の終わりを宣言した。
「皆、今夜はゆっくり休んでください」
書類はチェルが確認しながらファイリングしている。
この段階で紛失したらいろいろとまずいことになるからだ。
そうした後片付けをぼんやりと眺めながら、
(小説とか映画だと、内部にスパイが入り込んでいて、設計図が盗まれたりコピーされたりするんだけどな)
……などと益体もないことを考える仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20221101 修正
(誤)『アヴァロン』に戻った仁たちは、まず疲れと取ろうと、風呂に入ることにした。
(正)『アヴァロン』に戻った仁たちは、まず疲れを取ろうと、風呂に入ることにした。
(誤)……しかし、よく考えてみると、ゴウとルビーナが管理者であることが受け入れられたものだ、と思うよ」
(正)……しかし、改めて考えてみると、異論も異議も反発もなしに、ゴウとルビーナが管理者であることがよくも受け入れられたものだ、と思うよ」
(誤)そもそも管理職は残業が付かない、という企業が多い……はず。
(正)そもそも管理職は残業手当が付かない、という企業が多い……はず。




