90-11 『アステール』
7月18日。
仁は『アイオーン』のところへ。
ゴウとルビーナ、マキナは『アスティノ』のところへと、それぞれ移動した。
もちろん転移魔法陣を使って、である。
つまりは『パールス島』へ。
ゴウとルビーナがインフラを整備してあるため、問題なく作業ができるようになっていた。
「……『アイオーン』、そういうわけで、この後もう1基の魔導頭脳と接続し、『三位一体』の魔導頭脳システムを構成しようと考えているんだ」
『よろしいかと存じます』
「それに先駆けて、お前の性能をもう少し引き上げたい」
『はい、よろしくお願い致します』
そんな短いやり取りのあと、仁は『アイオーン』を停止した。
そして礼子を助手に、改良に取り掛かるのであった。
* * *
同じ頃、ゴウとルビーナも『アスティノ』に対し、仁と同じような宣言を行っていた。
「そういうわけだから、一旦停止させて作業を行うよ」
『はい、ご存分に』
こちらも仁のところ同様に作業を進め始めた。
* * *
そして半日。
仁の方、つまり『アイオーン』は作業を完了した。
情報伝達用のケーブルを一新し、情報処理用のユニットを高品質の魔結晶と交換した。
本体の制御核はそのままだが、周辺装置の魔結晶も新しくし、魔法制御の流れを見直して命令数を3分の2に減らした。
魔導回路も見直し、余計な結線は削除。
各魔導装置の配置も最適化。
これだけの改良を加えたことで、最終的に36パーセントの性能アップとなった。
「どうだ、『アイオーン』?」
『はい、ジン様。非常によい調子です』
今の『アイオーン』は『至上の主人』である仁を『ジン様』と呼ぶ。
「それなら結構だ。これからもよろしくな」
『はい、お任せください』
と、こちらは問題なし。
* * *
ゴウとルビーナの方はというと。
「ええと、ここはこうした方がいいかしら」
「いいと思うよ」
「こっちは、こう」
「うん」
2人で相談しながら、どうにかこうにか進めている。
それを見守るマキナも、2人がゆっくり(仁基準)ではあるが確実に実力を付けてきているのを感じ取っていた。
「こっちはどうだ?」
作業が7割くらい進んだ頃、礼子を連れて仁がやって来た。
「あ、ジン様」
「もう終わったの?」
「ああ、終わった」
「……早い……」
「お前たち、それはしょうがないだろう? ジンと比べるな。お前たちも十分早いぞ」
マキナに宥められる2人。
「うん? どうした?」
「……ジン、お前が早く終わらせすぎて、この2人が落ち込んでるんだよ」
「あー……それはなんかすまん。だから手伝いに来たんだが」
「それはフォローになっていないぞ、ジン」
「わかってるよ」
仁にも、2人の焦りのようなものが感じられる。
至らなさ、歯がゆさ、もどかしさ……。
理想と現実の乖離、イメージが再現できない苛立たしさ。
それらは技術者としての大きな壁だ。
「天才が殻を破ろうとする時の障壁みたいなものだな」
だからそれをなんとかしてやりたいのだ。
「俺にはそういうの、なかったからな」
それは、仁が『魔法工学師』だからではない。
仁が天才ではないからだ。
現代日本の知識を持ち、初代『魔法工学師』に認められ、そのすべての技術を受け継いだ『技術者』であり『職人』なのだ。
ゴウとルビーナは違う。
独特のものの見方ができ、古いものを組み合わせて新しいものを作り出すことができる。
仁は、どこまでも『作り手』であるが、2人は『創り手』なのだ。
「アーノルトたちも今、『アスピーダ』を作っている頃だ。頑張れ」
「もちろん、頑張るわよ、ゴウ!」
「ルビーナ、わかってるよ!」
彼らには、お決まりの言葉などではなく、目標を示してやればいい。
1人ではないのだから。
* * *
さて、その『アスピーダ』の進捗状況。
「既存の2基は老人と若者の思考パターンということだった。3基目はちょっと変えてみたい」
アーノルトは、プロジェクトメンバーの前でそう宣言した。
「と、いいますと?」
「老人と若者の中間の年齢ですか?」
「それとも少年とか?」
「いや、性別を変えてみたい」
「あっ……」
ここで、皆の視線がエイラに向かった。
「え? あたし?」
「そう、君だよ、エイラ君」
アーノルトはエイラを名指しした。
「君の発想力や思考力を魔導頭脳に使わせて欲しい。もちろん、人格をコピーするようなことはない」
「それはいいけど、あたしよりカチェアの方が向いているんじゃあ?」
「確かにカチェアくんの論理思考や計算能力は魅力的だ。だが魔導頭脳は元々そうした能力を備えているからね」
「まあ、確かに」
「だから、型にはまらない発想力がほしいと思ったんだよ」
「ええと……どんな魔導頭脳になっても知りませんよ?」
「そこは任せてほしい」
「うー……わかりました」
こうして、『アスピーダ』にはエイラの思考パターンが採用されることになったのである。
「こうした3つのユニットで構成される『アステール』の完成が楽しみだ」
そしてアーノルトは、次のステップとして、『システム構成』について説明していくのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日10月31日は14:00に
『蓬莱島の工作箱』を更新します。
https://ncode.syosetu.com/n0493fy/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20221031 修正
(誤)「アーノルトたちも今、『アステール』を作っている頃だ。頑張れ」
(正)「アーノルトたちも今、『アスピーダ』を作っている頃だ。頑張れ」
(誤)さて、その『アステール』の進捗状況。
(正)さて、その『アスピーダ』の進捗状況。




