90-10 『アスピーダ』
さて同じ17日午後、アーノルトは『アイオーン』『アスティノ』に対する3つめの魔導頭脳について構想を練っていた。
そんな彼の下を仁が訪問したのは午後4時半。
技術指導主任室にはアーノルトとチェルだけであった。
「お邪魔するよ」
「やあ、ジン。よく来てくれたね」
「いらっしゃいませ、ジン様」
「魔導頭脳の構想がどうなっているか気になってね」
「ちょうど第1段階が終わったところさ。見てくれるかい?」
「喜んで」
さっそく、テーブル上に構想を書きとめたメモが広げられた。
「これが今のところ最終的なシステム案なんだ」
「うん、なるほど」
そこには情報の流れや処理の手順、思考のルーチンなどが書かれており、一目見た仁も感心する出来栄えであった。
「ぱっと見には問題点は見当たらないな」
「それはよかった。……ただ1つ、決めかねている点があるんだ」
「それは?」
「この魔導頭脳が他の2つとバランスが取れるかどうかということさ」
「そういうことか」
今回の計画は、3つの魔導頭脳が互いに監視し合い、暴走を防ぐという面もある。
その点から言うと、3つのうち1つが突出するのはうまくないのだ。
「魔導頭脳の規模を落とすか、リミッターを掛けるというのはどうだ?」
「やっぱりそれかなあ?」
「手っ取り早いというか、確実だろう」
「そうなんだがな」
ここで、仁がもう1つアイデアを出す。
「あ、それじゃあ、他の2つを性能アップすればいいかもな」
「え?」
「結果的に世のためになるだろうし」
「いや、それはそうだが、できるのかい?」
問題はそこである。
「できると思う。『アイオーン』を修理した時にそのシステムを簡単に見直したけど、もっとちゃんと見直せば3割アップは堅い。多分『アスティノ』も」
「なあるほど」
新たに作る魔導頭脳のスペックを落とすのではなく、既存の2基の性能を引き上げる。
「盲点だったな……」
「アーノルトは魔導頭脳に詳しいから、かえって視野が狭くなっていたんじゃないか?」
「そうかもな……」
アーノルトは、かつて自身が『魔導頭脳』だったこともあるくらい、魔導頭脳については熟知しているのだから。
とまあ、そういうわけで、第3の魔導頭脳の構想は固まったのである。
* * *
その日の夕食時。
「これからしばらく『アヴァロン』は忙しいな」
ゴウ、ルビーナ、エイラ、グローマ、カチェアらと同じテーブルで食事をした仁は、食後のお茶を飲みながら呟いた。
「そうだなあ。嬉しい悲鳴といえばいいのかもしれないが、ちょっと負担が一部に偏りすぎかな」
苦笑いを浮かべながらグローマが言った。
「あたしとグローマはアーノルト主任と一緒に『アスピーダ』の建造をすることになったよ」
「ん? アスピーダ?」
「ああ。『アスピーダ』っていうのは、これから建造予定の魔導頭脳さ」
「なるほど、そうだったか。3基とも『ア』ではじまる名前にしたんだな」
『アスピーダ』は古いノルド語で『盾』という意味がある。
『アイオーン』は『永遠』、『アスティノ』は『お目付け』。
意味はバラバラであるが、『アスピーダ』『アスティノ』『アイオーン』と、響きはいい。
「で、3つの魔導頭脳を合わせて『アステール』と呼ぼうと主任は言っているよ」
「アステール……ってなんだっけ」
「『星』を意味する『旧ディナール語』らしいよ」
「『ア』でまとめたんだな」
『旧ディナール語』や『ノルド語』は始祖の言葉に近い言語である。
蛇足ながらアルスで使われている言語は、『ヘール語(始祖の言語)』に始まり、現地住民に伝わって『古ノルド語』に変化し、『ノルド語』『旧レナード語』『旧ディナール語』といった方言ができた。
その後、『ノルド語』はそのまま伝わり(ノルド人の寿命が長いため、変化も僅かであった)、『旧ディナール語』が『現代ローレン語』となったようだ。
また、『ミツホ』『フソー』『ニューエル』では、『賢者シュウキ・ツェツィ』、日本名筒井修基の影響で、日本語の単語が混じっている。
ちなみに『旧ディナール語』や『ノルド語』で『明かり、灯火』のことをエレナ(Elena)という。
閑話休題。
「俺とゴウ、ルビーナは、明日はそれぞれ『アスティノ』と『アイオーン』の性能アップをする予定だ」
「はい」
「ええ」
ゴウとルビーナにはマキナが補佐に付くことになっている。
「そっか。『アステール』の設置が済んだら、あたしとグローマも『インディゴ島』の調査に加われるよ」
「そうなるわけか」
『インディゴ島の調査』、すなわち『巨大ゴーレムの解析』である(もちろんその他にも調査対象は多いが)。
それはそれで、エイラとグローマは楽しみにしているわけだ。
「頑張れよ」
「もちろんさあ!」
やる気満々のエイラとグローマであった。
* * *
その後、仁は『アカデミー』の小会議室を借り、ゴウとルビーナ、マキナと共に翌日の打ち合わせを行った。
実際のところは、マキナは老君経由で仁の動向を知ることができるのだが、そこは形式美である。
「……というような感じで、俺は『アイオーン』の性能アップを行うからな」
「わかりました」
「あたしたちもほぼ同じことをやればいいのね?」
「そうだ。マキナが付いていてくれるから安心しろ」
「ああ。俺が見ていてやる。が、前回同様、トラブルがない限り手は出さないからな」
「はい、それで結構です」
「任せてちょうだい!」
ゴウとルビーナもやる気満々であった。
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