90-08 『インディゴ島』
エイラたちとの話し合いの後、仁は最高管理官トマックス・バートマンの執務室を訪問した。
手が空いたら来てほしいと声を掛けられていたのである。
「おお、ジン殿、よく来てくだされた」
「何か御用が?」
「実は、例の『インディゴ島』の居住施設設置に関してなのですが」
「ああ、それでしたら配下のゴーレムにもう指示をしてありますよ」
「なんと!」
老君を通じ、『職人』50体が作業を始めているのだ。
「それが終わりませんと『ジャイガント』の解析もできませんからね」
「いや、そのとおりです。誠にかたじけない」
「いえいえ。……お話というのはそれでしたか」
「よろしくお頼み申します」
* * *
『インディゴ島』では、『職人401』率いる50体が作業を開始していた。
作業内容は以下のとおり。
1.地下施設を少し拡張し、居住施設の設置場所を確保する。
2.壁面など、内部を補強する。
3.空調設備を整える。
4.上下水道を整備する。
5.居住設備を整備する。
となる。
作業を開始して3時間が過ぎ、既に施設は拡張済み。
壁面の補強も、既存の部分込みで終了している。
今は空調設備を設置しているところだ。
元々の空調設備は貧弱すぎたので廃棄。
地上へ向けて縦坑を4本穿ち、2本を吸気、2本を排気に設定した。
その縦坑は真っ直ぐではなく、途中で曲げたりゴミ溜まりを設けたりしてあり、ストレートにゴミが入り込むことを防いでいる。
もちろんゴミよけのフィルターもあるし、固体・液体を防ぐ物理結界も設置する予定である。
上水道は元からあった湧き水を浄化して使用する。
下水道は魔導具による汚水の浄化、汚物の分解を経て海へ放出。
居住設備は『アヴァロン』の居住区を参考に整備する。
作業開始から24時間で、これらすべての作業を終了する予定だ。
* * *
「そういうわけで、居住区に関する要望をお聞かせ願えればと思います」
『総務局』『医療局』『食料局』『設備局』の関係者を前に、仁が言った。
既に指示した整備内容は伝えてある。
「お聞きした限りにおきまして、こちらから要望することはありません」
「同様です」
『総務局』と『設備局』の代表が言った。
「ええと、『食料局』からは調理設備、それに食料庫及び食料の備蓄がどうなっているのかお聞かせ願えればと思います」
「ああ、そうですね。簡単な調理施設は設けますし、貯蔵庫も設置し、保存食のストックは2日分としますが、通常は転移魔法陣で送ってもらうことを考えています」
「な、なるほど……」
この方法なら、調査隊だからといって貧相な食事に甘んじる必要はないわけだ。
むしろこれまでこの方法を取らなかったのが不思議なくらいである。
「屋内だから使える方法ですけどね」
「いやいや、いい方法だと思います」
『食料局』代表は笑って意見を収めた。
次に発言したのは『医療局』である。
「『医療局』からは常備薬について伺いたいと思います」
「わかりました。……薬につきましては……」
こちらも説明していく仁。
併せて『治癒魔法』を使えるゴーレムもしくは自動人形も配備したいと説明。
さらに急病人・怪我人は転移魔法陣を使い、『アヴァロン』へ送る手はずを整えておけばいい、とも補足する。
「それでしたら安心ですね」
ブラックな職場、作業環境は仁が最も嫌うところなのである。
* * *
そうした打ち合わせを経て、詳細が決まったので、仁は早速手配する、と言って『ハリケーン』で『アヴァロン』を発った。
実際には魔素通信機で老君に連絡済みなのであるが、そこは形式美というか建前、である。
基本的な作業はほぼ終えていたので、『職人』たちは仁から指示された拠点整備に取り掛かった。
特筆するようなトラブルもなく、3時間ほどで追加の工事と機器の設置は終了したのである。
仁はといえば、『ハリケーン』内で一泊。
蓬莱島へ帰ってもよかったが、時差があるので寝づらいだろうと、『ハリケーン』を選んだのだ。
こちらも十分な宿泊設備があるのでまったく問題はない。
* * *
さて、日付は変わり、7月17日。
『ハリケーン』内で一泊した仁は『アヴァロン』へ戻る。
時刻は午前11時。
拠点へ行って来ましたよという体を装い、すぐにトマックス・バートマンに報告。
「『インディゴ島』の居住環境は整いました。これが報告書です」
「も、もうですか!? さすがジン殿ですなあ……」
報告を受けたトマックス・バートマンは驚くと同時に喜んだ。
「今日からでも調査団を送り込めますよ。施設の詳細は報告書を見てください」
「ジン殿、ありがとうございました」
これで『インディゴ島』における調査に弾みが付くはずである。
調査団のメンバーについては決定している。
アーノルトを筆頭に、エイラ、グローマら元ゴー研のメンバー。他にも『アカデミー』のエリートたちが参加する。
といっても全員が一度に、ではなく、おおよそ10人が施設に留まって調査を行い、1日交代で別のメンバーと入れ替わることになっている。
できるだけ多くの研究員に、過去の技術に触れてもらおうというわけだ。
今回は『広く浅く』ということになってしまうが、その点については、参加者はみな了承している。
とにかく貴重な過去の技術に触れてみたい、という者が多いのだ。
参加できなかったメンバーも、今は報告書で読むしかないが、いずれ行われる公開時にその目で見ることができるであろう。
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