89-33 事件収束へ向けて
鉛の砲弾を受けた巨大ゴーレム『ジャイガント』の胴体は半ば吹き飛んでいた。
が、そこは『ギガース』の派生、周囲の瓦礫を吸収し、元に戻ってしまう。
「……やっぱりその機能も健在か」
とはいえ、撤退する兵たちから1キロメートル近く引き離すことに成功した。
「これで、もう少し強力な攻撃ができるぞ」
仁は『ハリケーン』の武装の中から、『ギガース』に効果がありそうなものを見繕う。
そしてその中から、『アヴァロン』でも扱えるものを選び出した。
それは『熱線収束砲』。
以前『アヴァロン』に供与した技術であり、マキナの『アリストテレス』にも搭載済み。
「熱線で溶かしてしまえば動けなくなるだろう」
というのが仁の考えであった。
『ハリケーン』の船室下部から折りたたみ式のパラボラがせり出し、形状をなす。
パラボラ……反射鏡の材質は『巨大百足の甲殻』。耐熱性抜群である。
反射率が最も高い金属である銀の融点はおよそ摂氏962度。
対して『巨大百足の甲殻』は摂氏2500度以上。
よって、その焦点部の温度をより高く設定することができるのだ。
その『熱線収束砲』が放たれた。
「どうだ!?」
『制御核』など、魔導装置の根幹をなす魔結晶の融点は、摂氏3000度以上のものも多い。
だがそれ以外の部品の耐熱性はそこまで高くはない。
魔力を伝達するための部品は金属製で、耐熱性を強化されてはいても融点はせいぜい摂氏2000度止まり。
通常の火属性魔法ならそれで十分耐えられただろう。
だが『ハリケーン』の熱線はそんな部品の耐熱性を上回る温度であった。
ボディが溶け落ち、内部の重要な魔導装置が剥き出しになる。
巨大ゴーレムは避けようとするが、『ハリケーン』の照準技術は正確無比。
この兵器は焦点合わせが何より重要であることを知る仁が調整した装置なのだ。
腕で庇えば、その腕が溶けていく。
飛翔して逃げようとしたが、時既に遅く、『重力魔法装置』は高熱により魔力伝達系に異常をきたして動作しなくなっていた。
「よし、止めだ」
胴体のどのあたりに主要な魔導装置があるかは見極めた。
その箇所目掛け発射される『魔力砲』。
今度は鋼鉄製の徹甲弾がマッハ3で撃ち出された。
轟音とともに、巨大ゴーレムの腹部中央に穴が空く。
そして巨大ゴーレムは停止したのだった。
* * *
「おお!」
「やった!」
「さすが『魔法工学師』、ジン殿だ!」
撤退しかけていた部隊も引き返してきて大歓声を上げた。
『ハリケーン』は発光信号を放ち、現場上空をゆっくりと3度旋回した後、飛び去っていった。
「巨大ゴーレムの解析は我々に任せてくれる、ということか」
発光信号の意味は『捕虜』『任せる』であったのだ。
これは『アヴァロン』が提唱した意思伝達の手段で、モールス信号のように点滅の周期を変えて特定の単語を意味するようにしたものである。
その性質上、複雑な内容のやり取りはできないが、視認できる距離であれば意思疎通ができ、しかも早い。
『捕虜』とはこの場合、停止した巨大ゴーレムのこと。
『任せる』ということは、解析してその技術を学んで欲しい、という意味である。
「ありがたく解析させてもらおうではないか」
これにより、また少し各国のゴーレム技術が発展することになるのだろう。
* * *
『ハリケーン』の中では、仁が老君と話し合っていた。
「老君、『覗き見望遠鏡』でやつの解析をしたんだろう?」
『いいえ、御主人様。『ギガース系』のゴーレムはその性質上、体表面に魔法障壁に近い結界を持っていますので、『亜自由魔力素波式覗き見望遠鏡』を使いました』
「なるほどな、それもそうだ。で?」
『はい、御主人様。人間でいうと鳩尾に当たる付近に魔導装置が集中していました』
「制御核もそこか?」
『はい、御主人様。あの徹甲弾で4分の1ほどが破損しました』
「そうだったか」
『ですが、解析すれば得るものは多いでしょう』
「それならまあいいか」
『はい、御主人様。あの巨大ゴーレムは、過去の遺産です。解析すれば、『魔導大戦』時の技術を知ることができるでしょう』
「だといいな」
『はい。過去から現代に、技術を伝えてくれた、というわけです』
無駄にはしたくないと老君は言い、仁もその意見には賛成だった。
「これで一連の騒動は終わりかな?」
『いえ御主人様、『リノウラ・モギ』が自分のバックアップを残していないかの調査がまだ終わっておりません』
「1週間から10日調べて何も見つからなかったら終了にするんだったな」
『はい。そもそも『リノウラ・モギ』はそこまで完璧な『知識転写』を使えなかったはずですから』
バックアップなど見つかるはずがない可能性の方が大きいのだ。
それでも、記憶の一部や人格の一部が遺されているなら突き止めてみたいという思いがあった。
『アイオーン』にしても『アスティノ』にしても、『リノウラ・モギ』の最期について知らなかったという事実もある。
もし『リノウラ・モギ』の記憶もしくは人格が遺っていたとしても、発見は困難であろう……。
* * *
『巨大ゴーレム撃破』の報は、即『アヴァロン』に知らされた。
「さすがジン殿、これでまた1つ懸念事項が減ったというもの」
最高管理官トマックス・バートマンは胸を撫で下ろしたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。




