89-31 苦戦……
旧レナード王国南端『ニューレア集落』。
そのそばに広がる軍事演習場では今、演習ではなく本物の戦闘が始まろうとしていた。
襲い来たのは全高25メートル、重量200トンという巨大ゴーレム『ジャイガント』。
もっとも、その名を知る者はこの場には誰もいない。
迎え撃つのはクライン王国・エゲレア王国・セルロア王国の3国連合プラス『世界警備隊陸戦隊』という混成軍。
混成軍の指揮官はセルロア王国近衛騎士団長テニン・カネワン。参謀として『世界警備隊第2陸戦隊隊長』ハリー・モンドス。
『ジャイガント』が重力魔法で海上を飛び越え軍事演習のど真ん中に降り立った時、不幸中の幸いにして、人間の兵士は後退した後であった。
突然の襲撃に戸惑った人間たちであったが、ゴーレムたちは逡巡せずに『ジャイガント』を取り囲んだのだ。
そして『ジャイガント』は1体を握り潰し、1体を破壊、そして4体を吹き飛ばしていた。
この時点で『ジャイガント』は敵認定されたのである。
「しかし、あれほどの巨大ゴーレムが、どこからやって来たのか……」
セルロア王国近衛騎士団長テニン・カネワンが呟いた。
「空を飛んできたのはおそらく重力魔法によるもの。つまり先日来問題視されている『X基地』関係の暴走ゴーレムだと思われます」
『世界警備隊第2陸戦隊隊長』ハリー・モンドスが推測を述べた。
そしてそれはほぼ正解である。
同時にハリー・モンドスは『アヴァロン』へ『魔素通話器』で報告を行っていた。
* * *
「ハリー・モンドスから緊急連絡。全高25メートルという巨大なゴーレムが旧レナード王国の演習場に出現、無差別攻撃を掛けてきているそうです」
「何だと!? ……マキナ殿を呼んでくれ」
最高管理官トマックス・バートマンは、『アヴァロン』に滞在中のデウス・エクス・マキナ3世を呼ぶよう、秘書自動人形のシモーヌに命じた。
すぐにマキナがやって来る。
「トマックス殿、あらましはシモーヌに聞いた。不幸中の幸いといえばいいか、付近にジンがいるようだ。俺から彼に連絡するから、救援はすぐだろう」
「おお、有り難い! マキナ殿、よろしくお願いする」
「引き受けた」
事態は一刻を争う、ということで、短いやり取りの後マキナは身を翻し、乗機『アリストテレス』へ向かった。
そこにある専用の『魔素通話器』で仁に連絡をする……という建前である。
が、その実は、既に内蔵魔素通信機によって蓬莱島に連絡がなされており、老君は行動を開始していた。
仁も蓬莱島におり、報告を聞いて即決断を下す。
「『ハリケーン』で現地へ向かうぞ」
『御主人様、護衛をお付けください』
仁の安全第一と、老君は護衛として『ヘルクレス』『アキレウス』『ペルセウス』をお連れください、と言った。
「そうだな、任せる」
3隻とも直径10メートルの球形宇宙艦である。
小型とはいえその装備は破格、仁の護衛として相応しい。
仁は礼子とともに『ハリケーン』に乗り込む。操縦士はホープ。
そして上空に待機していた『ヘルクレス』『アキレウス』『ペルセウス』と共に、『ハリケーン』は転送機により旧レナード王国南部の東海上へと転移したのであった。
* * *
「前後左右から攻撃しろ!」
一旦後退したゴーレムたちは模擬戦用の武器から実戦用の武器に持ち替え、巨大ゴーレム『ジャイガント』に立ち向かっていた。
だが巨大ゴーレムは前後左右からそれぞれ15体ずつ、計60体のゴーレムに攻撃されても痛痒を感じていないようだった。
「ううむ……なんて奴だ」
「だが、これなら少しは堪えるだろう、『攻城兵器』起動!」
セルロア王国の秘蔵ゴーレムと戦闘用ゴーレムには『攻城兵器』が備え付けられていたのだった。
「おお、これは……」
参謀役を務める『世界警備隊第2陸戦隊隊長』ハリー・モンドスは瞠目した。
巨大ゴーレムの正面から攻撃を仕掛けている15体のゴーレムたちが『同調魔法』を放ったのである。
『同調魔法』とは魔法の種類ではなく魔法技術の1つである。それも非常に高度なもの。
複数の術者が同じ魔法を行使するわけだが、この時に発動タイミングを同調させるのである。
これにより魔法の威力が『足し算』ではなく『掛け算』になるのだ。
とはいえ完全な同調ができるはずもなく、10人で行った場合、最大で50倍程度の威力止まりとなる。
それでも単純な足し算結果である10倍よりも強力だ。
放たれたのは火属性魔法『火の弾丸』。
15体が同調して放ったそれは、『弾丸』というよりも『砲弾』である。
直径2メートルもの火の砲弾。
それがまともに巨大ゴーレムに炸裂した。
「やったか!?」
さしもの巨大ゴーレムも少しぐらついたように見えた。
だが、着弾時の火花と煙が晴れてみると、巨大ゴーレムは依然として立っていた。
その胸部から腹部に掛けての装甲は半ば溶けて地面に滴っている。
だが巨大ゴーレムの動きは鈍ってはいなかった。
動力システムは『ギガース』ベースなのだから当然といえば当然である。
欠損しても、周囲の瓦礫や金属片を集め、自分の体組織にしてしまえるのだから。
しかも『ジャイガント』は元になった『ギガース』よりも完成度が高かった。
僅かながら『工学魔法』も使用して自己修復しているのである。
「続けてもう一発放て!」
直径2メートルもの火の砲弾がもう一発、巨大ゴーレムに命中した。
……だが。
「平気、だと?」
外装は溶け落ちたものの、内部はいわば『発展型ギガース』である。
『制御核』が無事であれば、ボディは再生してしまうのだ。
そして元になった『ギガース』に比べ、判断力は格段に上。
連合軍の苦戦は必至であった。
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