89-29 軍事演習
7月7日、『仁ファミリー』が蓬莱島でミロウィーナの誕生日のパーティーを開いていた日。
旧レナード王国で軍事演習が行われていた。
かつてないほどに平和な諸国家であるが、魔物という脅威があり、また極稀に『遺跡』から出現する過去の怪物あるいはゴーレムなどもいる。
盗賊をはじめとする犯罪者もいるし、反社会組織も存在する。
そのため、各国は治安維持のための軍を持っている。
そしてそうした『軍』には実戦を踏まえた訓練が必要なのだ。
* * *
そういうわけでこの日、旧レナード王国南端に近い『ニューレア集落』近くの平原で軍事演習が行われているのである。
今回参加しているのはクライン王国・エゲレア王国・セルロア王国。
旧レナード王国と国境を接している3国である。要するに合同軍事演習だ。
さらに『アヴァロン』からも『世界警備隊陸戦隊』がサポートに来ていた。
平和を享受する今の時代、各国の『職業軍人』は減少傾向にある。削減されていると言ってもいい。
その代わりに練度が求められており、今回の演習はそのための訓練でもあった(もう1つの目的は国家間での連携)。
『世界警備隊』から参加しているのは世界警備隊アヴァロン勤務第2陸戦隊隊長ハリー・モンドス。焦げ茶色の髪を短く刈り上げた武人である。それに配下が10名。
クライン王国からは近衛騎士団長ダン・キッシェ以下近衛騎士団100名が。
エゲレア王国からは第1近衛軍隊長イリング・チョターク率いる第1近衛軍80名が。
セルロア王国からは近衛騎士団長テニン・カネワンとその配下の近衛騎士団120名が。
以上の、総勢214名が参加している。
この他に各国、30体ほどの戦闘用ゴーレムと10体ほどの汎用ゴーレムも連れてきていた。
ゴーレムはイニシャルコストこそ掛かるものの、品質がよければ維持費は少なくて済む。
兵としてみれば水・食料を必要とせず、睡眠の必要もなく、1体で兵士5人から10人に匹敵する強さを誇る。
今後の軍の編成には必要不可欠の存在になっていた。
とはいえ命令を出し統括する指揮官は、今のところ人間でなくてはならない。
各国とも、そうしたノウハウはまだまだ少ないため、『アヴァロン』から『世界警備隊陸戦隊』が派遣されて、指導に当たるというわけだ。
* * *
「本日は晴れてよかったですね」
「いや、まことに」
「地面の状態も良好。絶好の演習日和ですぞ」
「予定どおりに始められますね」
演習場の端に仮設された天幕の中で指導者たちが演習の打ち合わせをしている。
「それでは予定どおり、『仮想敵役』として『アヴァロン』所属の戦闘用ゴーレム30体が展開しますので、それを攻撃してください」
「了解だ。わがクライン王国軍は右翼を」
「我々エゲレア王国軍は左翼に展開します」
「セルロア王国軍は中央にあって1拍遅れて進軍する、でよろしいな?」
「それで結構」
「使う武器は模擬剣と模擬槍、魔法も最弱の威力のみ」
「わかっております。ですが、本当に『世界警備隊』のゴーレムは大丈夫なんですかな? 模擬戦とは言えそれなりの威力での戦闘になると思いますが」
「そこは大丈夫です。結界もありますから」
「なるほど、そこも本日お見せいただけるというわけですな」
「そうです。そして最近開発された大型ゴーレムもお披露目いたします」
「楽しみにしていますぞ」
そして演習場に展開される兵士、騎士。
3国連合軍は西側、仮想敵軍の『アヴァロン軍』は東側に布陣。
その中核は、初お披露目となる身長12メートル、重量10トンの大型ゴーレムである。
『アヴァロン』の『土木研』が『ゴー研』と共同で開発していたゴーレムで、本来は土木工事用だ。
それを模擬戦用として今回借りてきたというわけである。
臨時の戦闘ということで、巨大なタワーシールドを持っている。
タワーシールドの全高は14メートル、まさにタワーだ。
その周囲を、これまた2メートルのタワーシールドを構えた『アヴァロン』のゴーレムが取り巻いている。
これからこの防御陣を崩し、大型ゴーレムに攻撃を加えるという実戦形式の模擬戦である。
「準備はよろしいか?」
「こちらは問題なし」
「こちらも大丈夫だ」
「では予定どおり始めるとしよう」
合図代わりに、空へ向けて『音響爆弾』が放たれた。
これは主に水中で使われる魔法で、水中の生物や魔物にダメージを与えられる。
空中では単に大きな破裂音がするだけであるが、今回はそれを合図に使ったわけだ。
「左翼、進め!」
「右翼、進軍!」
左右の陣が足並みを揃えて進み始めた。
少し遅れて中央の陣も進み始める。
「うむ、いい感じだな」
全体を見て評価する役目は『世界警備隊第2陸戦隊隊長』のハリー・モンドス。
今のところ突出した隊もなく、3国の軍の連携は上々である。
「左翼最前列、魔導士隊、攻撃魔法放て!」
「右翼最前列、弓士隊、放て!!」
左翼からは『風の弾丸』が放たれる。体勢を崩すことに使われることが多い風属性魔法だ。
右翼からは『模擬矢』が。これは鏃にゴムを用いた非殺傷用のもの。
いずれも、ゴーレムに対してはほとんどダメージを与えることはない。
打ち合わせどおりに演習は進む。
タワーシールドに一定数以上の魔法もしくは矢を受けたゴーレムは退場する。
もちろんボディに受けた場合も同じだ。
開始して10分、3体の『アヴァロンゴーレム』が退場していった。
が、まだまだ仮想敵は健在である。
「左翼最前列、下がれ! 第2列第3列、抜剣! 3名1組で敵に当たれ!!」
「右翼最前列、下がれ! 第2列第3列、槍、構え! 突撃!」
距離が詰まってきたため、近接戦闘に向かない魔導士と弓士を後方に下げ、代わって近接戦闘を行うべく、剣士と槍士を前方に配置。
仮想敵の敵陣への攻撃を開始した。
迎え撃つ『アヴァロンゴーレム』は、3分の2を陣地防衛に残し、3分の1で迎え撃つ。
とはいってもタワーシールドを構えて進軍するだけだが。
向かってくるタワーシールドの壁目掛け、模擬剣と模擬槍で突撃する左翼と右翼。
数の差は10倍以上だが、ゴーレムと人間の力の差も10倍くらいはあるのでこの戦いはほぼ互角と言えた。
だが、一拍遅れて中央の軍が到着することで流れが変わる。
模擬戦の第3段階が始まろうとしていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20221014 修正
(誤)そしてそうした『軍』には実践的な訓練が必要なのだ。
(正)そしてそうした『軍』には実戦を踏まえた訓練が必要なのだ。




