89-28 野良ゴーレム
セルロア王国南部、コーリン地方の北端にある『グラファス鉱山』で暴走ゴーレムを鎮圧して以降、事件は収まったように見えた。
そして7月7日、この日はミロウィーナの誕生日である。
ミロウィーナは旧レナード王国最後の一人だ。プラチナブロンドの髪に、スカイブルーの瞳をしている。
今はホムンクルスとして若返り、普段は月にいて、魔導頭脳『ジャック』と暮らしている。
とはいえ『転移門』があるので、1日に何度もアルス(蓬莱島)へ行ったり、ヘールに遊びに行ったりしている。
そして今日は、蓬莱島で彼女の誕生日のお祝いが行われていた。
「お誕生日、おめでとう、ミロウィーナ」
「ミロウィーナさん、お誕生日おめでとう」
「おめでとうございます」
「お誕生日、おめでとうございます」
「皆さん、ありがとうございます」
誕生日祝の花束を受け取り、ミロウィーナは幸せそうに微笑んだ。
かつては月で唯一人の人間だった。
孤独に生き、孤独に死んでいくのだと思っていたその人生を救ってくれたのが仁とその仲間たちだった。
そして今、こんなに温かな仲間たち、いや『家族』に囲まれている。みんな『仁ファミリー』一家なのだ。
人造人間という仮初の生命ではあるが、彼らの魂は正真正銘彼ら自身のもの。
『仁ファミリー』の絆は温かだった。
* * *
「そう、まだ終わったわけじゃないのね」
誕生会の後、皆でのんびり雑談の時間。
『森羅』のシオンが3日前のことを話す。
「あの時はランド隊を送ってもらって助かったわ。とはいえ『暴走ゴーレム』は弱かったけどね」
「そうなんだろうな。暴走しているがゆえに、行動が単純になっているようだし」
「見た感じそのとおりね」
仁とシオンの意見交換を、ラインハルトたちも聞いている。
そのラインハルトは、
「手に入った『暴走ゴーレム』の残骸を解析してみたけれど、得るものはなかった。だが、どうして暴走したのか、その理由は見当がついたよ」
と語る。
「それは?」
「データ保存系のシステムがハード的に不安定なため、定期的な上書きが必要だったのさ」
「というと……ああ、使われている『魔結晶』の品質が悪かったのか」
「さすがジンだね、そのとおりさ」
ラインハルトの説明によると、資材不足の時代に作られただけあって、データ保存用の魔結晶の品質が特に悪く、定期的に上書きをしていないとデータが読み取れなくなってしまうほどだったという。
「なるほど、それで『中間指示装置』がデータの上書きをしてやることで正常動作できるようになっていたのか」
「そういうことさ。だから一定期間上書きされないでいるとデータが虫食い状態に消えていくんだ」
「そりゃあ暴走するなあ」
時間がとれずに自分では解析をしていない仁としては、ラインハルトの解析結果はなかなか参考になった。
「……で、『リノウラ・モギ』が全部作ったゴーレムは……見ていないが、おそらく自分でデータのバックアップを取り、上書きをしているんじゃないかな?」
「俺もラインハルトの意見に賛成だ。記憶媒体が脆弱ならそうするのがベターだからな」
コンピューターでいうなら『RAID』、『Redundant Array of Independent Disk』のようなものか。
これは複数のHDDをひとつのドライブのように認識・表示させる技術で、その利点は色々あるが、この場合はHDD故障時にもデータ復旧・アクセスを可能にするという特性が似ていると言えよう。
つまり1つの記憶媒体が故障しても、同じデータを保存していた別の記憶媒体がバックアップをすることで致命的なデータ破損を予防するわけだ。
「情報収集用のゴーレムなら有用な方式だと思う」
「その場合、記憶媒体への書き込みが遅くなるというデメリットもあるけどな」
「単純な用途であれば問題ないんだろう」
そんな話をしている仁とラインハルトのところに、ミロウィーナがやって来た。
「ちょっと聞こえちゃったけど、困ったゴーレムね」
「ああ、ミロウィーナ。そうなんだよ」
「それでちょっと思い出したことがあるんだけど」
「何かな?」
「昔……私がまだ小さかった頃、月のライブラリで見たことがある記録なんだけど」
「うん」
「かつてのレナード王国には、『野良ゴーレム』がいたそうよ」
「野良ゴーレム?」
「ええ。要は『主人』をなくしたにもかかわらず『主人消失症候群』にならず、かといって目的ある行動も取らず……といった感じかしら」
それってなかなかシュールな存在だな、と仁とラインハルトは思った。
「だが……」
仁はその現象を解析してみる。
「まず第1に、『固定された主人』がいないこと」
「なるほど、軍用のゴーレムにはよくあることだな」
ラインハルトが補足説明を述べる。
「第2に、やや漠然とした『役目』を持っていること」
「ガチガチの使命でもなければ、ゆるゆるの課題でもないということか」
「第3に、自己判断能力が上でもなければ下でもないこと」
「高レベルでもなければ低レベルでもないってことか」
「……まあ、そんなゴーレムだと、もしかすると『野良ゴーレム』になるかもしれないなあ」
「なるほど、なんとなくわかる気もする」
「……狂う程には繊細ではなく、どうすればいいかわからなくなって停止するほど単純でもない、ってこと?」
「お、エルザ、うまい言い方だな」
「ん」
ラインハルトとミロウィーナだけでなく、エルザも話に加わったのだった。
「でも、リノウラのゴーレムが『野良ゴーレム』になっていると、ちょっと、面倒」
「だな」
「だけど、あまり悪さをしないなら、慌てなくてもいい、のかも」
「まあエルザの言うとおりかもしれないが、やっぱりきっちりとケリは付けたいんだよ」
「ん、それも、わかる」
「だから『野良ゴーレム』になっている可能性を考慮して探してみよう」
その時、老君から緊急連絡が入った。
『御主人様、皆様、ご歓談中失礼致します。旧レナード王国に『ギガースの派生』と思われるゴーレムが出現しました』
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