89-27 閑話150 暴走ゴーレム鎮圧
大陸暦3902年7月4日午後1時20分。
カイナ村を守護する仁謹製の魔導頭脳『庚申』は、管轄地域であるイナド鉱山に、かねてより注意喚起されていた型のゴーレムが現れたことを察知した。
〈こちら『庚申』。老君に報告。例の『暴走ゴーレム』2体、イナド鉱山に出現〉
『老君了解。周囲に人は?』
〈おりません。周囲10キロ圏内は無人です〉
『了解。それでは地形を大きく変えない程度に撃滅しなさい』
〈『庚申』了解〉
そんなやり取りがなされ、『庚申』は配下の戦力を繰り出した。
対象は2体の暴走ゴーレムである。
迎え撃つ『カイナ村』の戦力は『ランド』K、L、M、N、O、P、Q、Rの8体。
4体1組で暴走ゴーレムを迎え撃つ。
暴走ゴーレムの戦闘能力は高くない。そのスペックは、せいぜいが人間の5倍程度。
いや、5倍という値は決して低くはない。
走れば時速100キロメートルを超え、ジャンプ力は3メートル。
握力は200キログラムを超えるし、重量挙げなら1トンを記録する。
そんなゴーレムを弱い、とは言えないだろう。
だが、蓬莱島の戦力と比較してしまっては大人と子供、いやそれ以上。
1対1でも過剰な戦力差なのに、その4倍である。
仁の第2の故郷ともいえるカイナ村を守るために、『庚申』は出し惜しみをしなかった。
最初の一当てで暴走ゴーレムはバラバラに弾け飛んだ。
その破片と部品は余す所なく集められて蓬莱島に送られ、研究材料となったのである。
* * *
ほぼ同時刻、パズデクスト大地峡の北、すなわちゴンドア大陸南東部、『森羅』氏族領。
鉱山もなにもないそこに、暴走ゴーレム3体が現れた。
「来たわね」
だがそれは観察衛星『ウォッチャー』により1時間以上前に発見されており、その進路から『森羅』氏族領が危険であると予想されていた。
当然ながらとうの昔に連絡がなされ、蓬莱島の戦力が派遣されている。
指揮を執るのは『森羅』のシオン。
氏族長の奥方であり、『仁ファミリー』の一員でもある彼女のところには、ランド隊30体が派遣されていた。
「暴走ゴーレムは策も何もなく真っ直ぐ突っ込んでくるだけね。……こちらも迎え撃ちましょう」
30対3。
これだけの戦力差があれば、小細工は必要なく、ただ蹂躙するだけである。
これは正々堂々の戦いなどではなく、理不尽な攻撃から民を守る防衛戦なのだ。
「あっけないわね……でも、これでいいのよね」
暴走ゴーレム3体は、ランド隊30体の前にあえなく沈黙したのだった。
* * *
同日、現地時間午後3時、フランツ王国北東部、ドンカ鉱山。
ここはフランツ王国有数の貴金属鉱山である。金、銀も採れるが、特に多いのが白金族元素、すなわちプラチナ・イリジウム・パラジウム・オスミウム・ルテニウム・ロジウムの鉱石である。
400年前、仁が『科学』を広めた際に、『使えない銀』と言われていた白金族元素の合金を工学魔法で分離することに成功。
以降、宝飾品・工芸品・工業用品に使われるようになったのだ。
その鉱山で2体のゴーレムが暴走して、鉱山作業用ゴーレム1体を破壊し、坑道を1つ半壊させていた。負傷者も出ているという。
『緊急魔素通話器』により連絡を受けた『世界警備隊』からはデウス・エクス・マキナ3世が乗り出した。
『力場発生器』を使って、『アリストテレス』の非常用最高速である時速600キロを超える速度を出し、1時間足らずで現場に到着。
「あれが暴走ゴーレムだな。レイ、頼む」
「はい、お任せください」
今現在は鉱山作業用ゴーレム4体が相手取っていた。
おかげで、連絡を受けたとき以上の被害は出ていないようである。だが、4体の鉱山作業用ゴーレムは明らかに劣勢で、満身創痍。
そこへ、従騎士レイが白銀色の軽鎧を閃かせて参戦した。
「おお!」
残っていた鉱山の関係者から感嘆の声が漏れた。
レイが纏う軽鎧は巨大百足の甲殻と64軽銀を貼り合わせた複合構造。
軽く、強靭。
暴走したゴーレム程度の攻撃では毛ほどの傷も付くことはない。
そしてレイが振るうはショートソード『白露』。
最近新たに与えられた専用武器で、マギ・アダマンタイトでハイパーアダマンタイトをサンドイッチした3層構造。
刃厚はわずか1ミリで、超高速振動剣の機能も備えているため、通常物質で斬れないものはない。
あっという間に暴走ゴーレムの四肢は切り飛ばされ、行動不能となった。
マキナはそんな暴走ゴーレムを回収し、鉱山関係者の感謝と賛辞を背に、『アヴァロン』へと戻ったのである。
* * *
セルロア王国南部、コーリン地方。
その北端にある『グラファス鉱山』でも暴走ゴーレム2体が暴れていた。
デウス・エクス・マキナ3世の情報網によってもたらされた情報である。
「『世界警備隊』、出動だ」
最高管理官トマックス・バートマンは世界警備隊アヴァロン勤務陸戦隊隊長レヴェラルド・ダーテスに出撃命令を出した。
レヴェラルド・ダーテスは試作輸送機『ストーク』を使用し、陸戦隊10名と戦闘用ゴーレム6体を引き連れて現地へ急行した。
『ストーク』の速度は、高度6000メートルで時速480キロ。
『グラファス鉱山』まで1時間弱で到着した。
「戦闘用ゴーレムを前に出し、陸戦隊出動」
「了解!」
『世界警備隊』の戦闘用ゴーレムは、蓬莱島勢には劣るが『X基地』のゴーレムよりも遥かに高性能である。
5分足らずで暴走ゴーレムは鎮圧された。
「動力を切ってしまえ」
と指示を出したレヴェラルド・ダーテスは、暴走ゴーレムが完全に停止したことを確認すると、回収して『アヴァロン』へと持ち帰ったのであった。
* * *
そして、これら以外の『暴走ゴーレム』は、『ここに集まれ』という新命令を与えられた『中間指示装置』のところへ馬鹿正直に集まった。
そこを一網打尽に回収され、『暴走ゴーレム』騒動は終わりを告げた……はずであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20221012 修正
(誤)迎え撃つ『カイナ村』の戦力は『ランド』K、L、M、N、O、P、Q、Rの8体。
(正)迎え撃つ『カイナ村』の戦力は『ランド』K、L、M、N、O、P、Q、Rの8体。




