89-26 閑話149 『リノウラ・モギ』のゴーレム
『ローリスゴン山』と『グローセル島』の施設。
『ローリスゴン山』へは『ランド』151から155、それに『職人』257、258が送り込まれた。
『グローセル島』へ送り込まれたのは『ランド』185から190、『職人』259、260。
魔力反応を追って『中間指示装置』の設置場所を突き止め、『魔力模倣機』によって追加の指示を入力する。
どちらの『中間指示装置』も、まだ辛うじて暴走してはいなかったため、制御下にあるゴーレムたちの暴走は事前に防がれたのである。
……ように見えた。
問題となったのは、『リノウラ・モギ』が作ったゴーレム群である。
こちらは『中間指示装置』によらず、独自の行動理念によって活動していた。
* * *
その1体はエリアス王国南部の都市『フロレンツ』付近で活動していた。
そして、『アイオーン』からの指示が途切れたことで、動作が不安定になる。
『主人消失症候群』とは少し違うが、魔導頭脳内部の処理が異常を来たすという点では似ている。
このゴーレムは『情報収集』が役割の個体であった。
情報収集の拠点としてフロレンツは、大き過ぎず小さ過ぎず、また『アヴァロン』にほど近い、という立地条件もあって、『アイオーン』がここに送り込んだのである。
そのボディは100パーセント『リノウラ・モギ』が作ったもの。
魔導頭脳の『基礎制御魔導式』も『リノウラ・モギ』によるもの(正確には魔法探求者の技法)。
ゆえに『中間指示装置』の支配下にはなく、『アイオーン』と直接やり取りをしていた。
その『アイオーン』からの指示が途絶え、24時間。
ゴーレムは自己判断を迫られていた。
『リノウラ・モギ』の技術が特に抜きん出ていたわけではない。魔法探求者で学んだ内容が優れていただけだ。
そんなゴーレムの『基礎制御魔導式』は、指示を受け取れなくなると不安定になってきた。
小さな子供が、親がそばにいないと不安になるようなもの、と言えば近いだろうか。
定期的に親を呼び、返事があると安心する。
似たような現象が『制御核』の中でも起こっていたのだ。
《……指示が途絶えて24時間が経過した。まだ指示は来ない》
《……自己判断し、行動すべき時である。だが、それには情報が足りない》
《……情報が足りないということは、行動の前提条件が不確かであるということになる》
《……不確かな前提で行動した場合、失敗する可能性が高くなる》
《……失敗してしまっては、製作者様の課題を達成できない》
《……その一方で、行動しなければ成功しないが、失敗もしない》
《……失敗したときのリスクは絶対に避けるべきである》
《……結論。行動せず、指示が下されるまで待機すべきである》
と、『引きこもる』理由をひねり出し、フロレンツ郊外の廃屋に身を潜めたのであった。
世にも珍しい『引きこもりゴーレム』の誕生であった。
* * *
また別の個体はショウロ皇国にまで足を伸ばし、情報収集を行っていた。
現在訪れているのはセルロア王国との国境の町、『バンム』。
かつて仁がラインハルトと共にショウロ皇国宮城を目指した旅で訪れた町だ。
付近は砂岩質の岩が多く、風化しており砂っぽい土地である。
町の郊外には風化しかけた岩が点在しており、身を隠すのに苦労しない。
そうした岩場に隠れて、リノウラ・モギのゴーレムは情報を収集していたのだった。
ショウロ皇国とセルロア王国を結ぶ街道が通るこの地は、それなりに情報収集は捗った。
《なるほど、今の世界情勢は……》
《……さらに西に新たな公国が……》
《うむ、『魔法工学師』の3代目が……》
《デウス・エクス・マキナ3世が『アヴァロン』に……》
そうした情報から仁やマキナについても把握していったのだが、その情報自体、正確ではなかったことには気が付けなかった。
嘘ではないが、全てが語られてもいない。それが仁とその仲間に関する情報の性質であったから。
《……重力魔法を駆使すれば、『魔法工学師』と『デウス・エクス・マキナ3世』にも手が出せない場所へいけるだろう……宇宙へ》
それが間違いであることを指摘してくれるような情報はなかった。
そして、宇宙の危険性についても……。
『アイオーン』が一旦停止し、仁Dが修理して再起動すると、その発する魔力パターンは変化してしまい、このゴーレムにとっては意味がなくなってしまった。
《……指示が途絶えた。このようなときは自己判断せよということになる》
こちらのゴーレムには、そうした場合の対処法も入力されていたようだ。
《自己判断……難しい》
しばらく沈思黙考した末に、このゴーレムが出した結論は……。
《指示が途絶えた原因を究明しよう》
というものであった。
《それには、『中間指示装置』がある場所へ行ってみるのが早道かもしれないな》
《それでも駄目なら転移魔法陣で球形基地へ戻ってみることになるだろう》
このゴーレムは慎重に思考し、適切な判断を行った。
問題があるとすればただ1つ。
《何日掛かっても原因を究明してやろう》
移動速度が遅いことであろう。
重力魔法を使うことはできないので空を飛ぶこともできず、地上を走っていくことになる。
人目につかないように、という前提で移動しているので、移動は主に夜間のみ。
また、人通りの多い街道は避けていく。
目指すのは陸続きで行ける場所。
すなわち『ローリスゴン山』である。直線距離でおよそ700キロ。
その結果、目的地へ着くまでには1ヵ月近く掛かるだろうと自己判断している。
……その判断が誤りであることに気が付くのはまだずっと先である。
『中間指示装置』はもう正常に……いや、『アイオーン』と『リノウラ・モギ』が設定したようには機能していないのだから。
* * *
『リノウラ・モギ』自身が作ったゴーレムは、比較的穏やかな行動をとった。
だが、『X基地』にあったゴーレムを『リノウラ・モギ』が改造したゴーレムは、そうではなかったのだ。
場所はクライン王国、イナド鉱山。
そう、カイナ村の南東にあり、その昔仁に所有権が譲られた鉱山である。
領土としては『ジン・ニドー永世中立領』に含まれている。
そして鉱山は、細々とではあるが採掘されている。
魔結晶が主である。
といっても坑道は地下500メートルくらいまで延びており、作業をしているのは全部ゴーレムである。
それらのゴーレムは全てカイナ村に属し、鉱石の所有権もカイナ村、そこから上がる利益もカイナ村のものである。
そしてそういったゴーレムを管理しているのは『庚申』。
同時にカイナ村周辺の防衛も担当している。
その『庚申』が、異常を探知したのは7月4日の昼過ぎであった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20221011 修正
(誤)ショウロ皇国とセルロア王国を結ぶ街道が通るこの地は、それなりに情報収拾は捗った。
(正)ショウロ皇国とセルロア王国を結ぶ街道が通るこの地は、それなりに情報収集は捗った。




