89-21 対処と後始末
蓬莱島の頭脳である老君は、『リノウラ・モギ』に関するデータを受け取るやいなや、解析を開始した。
そして2秒後、第1の結論が出た。
内容は『ヴァルカン』が出したものとは少し違う。
『やはり、リノウラ・モギは『魔導頭脳による管理支配』……そうした世界を望んでいたのだと思います』
わからなくもない、と老君も少しだけその思想を認めた。
人間による管理・支配は不完全すぎるからだ。
感情に左右され、自分の利益を優先し、地位を守るために汲々とする。
地球の歴史を見ても、『名君』と呼ばれるような支配者がいたのは神話・伝説の時代だ。
現実には、名君と呼ばれてはいても失敗もある。
そして、よい君主による支配は大抵1代限りで、2代目3代目は暗君になるというのがほとんど。
『魔導頭脳なら、感情や損得抜きに判断できますからね。しかも人間より遥かに寿命が長い』
だが同時にそれは、ひどく人間離れした社会になってしまうだろうことも想像がついた。
『人類はまだ、理想の社会を築くには未熟なのでしょうね』
とはいえ、未熟=低レベル、ということではない。
『未完成ということは、伸びしろがあるということでもありますからね』
老君はそう考え、『リノウラ・モギ』の遺したデータの分析を再開した。
『おや?』
データが一部破損していたものの、看過できない情報を老君は見つけた。
『独立して動けるゴーレム部隊がまだ地上に……? これは由々しき問題ですね』
そこで老君は、『老子』経由で仁に知らせることにした。
* * *
『アドリアナ』の司令室で、仁はその報告を聞いた。
「うーむ、そうすると、これまでどおり各国の鉱山では横取りが続くということか?」
『はい、御主人様。それだけではない可能性もあります』
「それは?」
『データが破損していたので補完した結果、一部のゴーレムは統率者を失った結果、暴走する可能性があります』
「それもまずいな」
『はい。暴走の可能性が高いのは『リノウラ・モギ』の手が加えられたゴーレムです』
「手を加えたゴーレムでそれなら、リノウラ・モギが作ったゴーレムだとどうなる?」
『ほぼ100パーセント暴走します』
「それはまずいな……とにかくマキナにも知らせておいてくれ」
『わかりました』
「とんだ置き土産だな」
『はい、御主人様』
* * *
情報を得たデウス・エクス・マキナ3世は、すぐに『アヴァロン』へ飛んだ。
そして即、最高管理官トマックス・バートマンと面談をする。
「なんですと!?」
「ジンから連絡があった。それで急いでやって来たんだ」
「今のところ報告は入っていませんが、警戒態勢をとることにします」
「それがいいだろうな。俺も協力する」
「お願い致します」
ということで、『世界警備隊』に『第2級警戒態勢』、『アヴァロン』には『第3級警戒態勢』が発令されたのである。
* * *
さて、『X基地』。
礼子と『コスモス600』は、内部の調査を行い、『魔法障壁もどき』の発生機を停止させた。
これにより、蓬莱島からも『覗き見望遠鏡』で内部の確認ができるようになった。
それはとりもなおさず『転送機』で増援を送り込めるということである。
当面の問題は『X基地』の再稼働である。
というのも、『X基地』は重力魔法で今の軌道に留まっているため、『アイオーン』が停止してその重力魔法による軌道制御が行われなくなった今、ゆっくりと落下し始めていたのだ。
『1』たちが『アイオーン』抜きに『地上に下ろせる』と言っていたのは誤りだったということである。
「時間的にはまだ余裕があるけどな」
『アドリアナ』の仁は様子を見ている。
緊急対応策としては『アドリアナ』や『ヴァルカン』、それに『シリウス』『プロキオン』『ベテルギウス』を総動員して引っ張り上げることも可能だ。
また、『アトラス』のパワーなら1隻で十分に『X基地』を牽引することができる。
当面の理想は『X基地』が自力で軌道を維持することである。
その後は『X基地』をゆっくりと地上に下ろせればいいなと考えていた。
* * *
『御主人様、『職人』100体を送り込みます』
老君は、てっとり早く『X基地』を再整備してしまおうという考えだった。
仁としても異議はない。
10秒後、20体の『職人』が送り込まれた。その10秒後、また20体。
1分しないうちに100体の『職人』が『X基地』内を闊歩していた。
「構造は礼子、『コスモス600』、それに『1』から『5』に聞いてくれ」
仁は『アドリアナ』で大まかな指示を出している。
「これで『X基地』内部の修理と整備はいいとして……」
問題は『アイオーン』である。
「これは仁Dに行かせるか……ゴウDとルビーナDにも経験させるかな」
分身人形を使えば本人たちに危険はない。
ということで、仁D、ゴウD、ルビーナDらは転移門を使い、『ヴァルカン』から蓬莱島へ一旦戻り、そこから改めて転送機で『X基地』へ移動した。
もちろん『アイオーン』がある部屋へ、直接だ。
「お待ちしておりました」
仁Dたちを礼子が出迎えた。
「危険はありません。すぐに作業を始めますか?」
「そうしたい」
「わかりました。構造は解析済みです」
「よし」
礼子のサポートで仁Dたちは『アイオーン』の外装を外した。
「これが中身……」
「ちょっと古い感じかしら?」
「そうだ。ルビーナの言うとおり、これは何百年も前の設計だからな」
仁Dが説明した。
これまでに仁自身、『魔導大戦』当時の魔導頭脳をいくつも目にし、手を加える機会を持ったので、かなり詳しくなっている。
「ほら、このあたりは今と大分違うだろう?」
「あ、そうですね」
2人に説明をしながら、仁Dは『アイオーン』を解体していった。
といってもバラバラにするわけではない。
『リノウラ・モギ』が手を加えたと思われる箇所をチェックし、正常な設定に戻すだけだ。
そして最後に残ったのがメインの『制御核』である。
「こいつの修理が一番厄介だ。どうするかな……」
ちょっと考える仕草をする仁D。
もちろん、蓬莱島でも仁が考え込んでいた……。
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