89-20 リノウラ・モギ発見
文字どおり何の抵抗もなく、一行は階層を2つ上がった。
もはや邪魔をしてくるゴーレムはおらず、罠も作動していない。
「ここですね」
司令室の位置は『1』たちが知っていた。
『アイオーン』が停止しているため、非常用の魔力源しか動いておらず、扉は手動で開けなければならない。
相当重い扉であるが、礼子は押入れの戸を開けるようにガラリと開いてしまった。
「ここが司令室ですか」
なんとなく見覚えのあるレイアウトなのは、『魔導大戦』時の共通コンセプトとでもいうようなものが貫かれているのだろうと礼子は想像した。
「誰もいませんね……」
補助系のゴーレムが2体いたが、『アイオーン』による遠隔操作で動いていたとみえ、停止していた。
『礼子、司令室の奥に小部屋がある。そこだ』
「はい、お父さま。ありがとうございます」
『亜自由魔力素波使用の覗き見望遠鏡』で『X基地』内部を探っていた仁から連絡が入った。
司令室の奥には人一人が通れるくらいの小さな扉があった。
ここも動力が止まっていたので手動で開ける礼子。
「あ……」
そこは居室に見えた。
これまで見てきた部屋には『生活感』がまるでなかったが、ここには人が暮らしていた形跡がありありと残っている。
だが、住人は?
「ああ、もう1つ奥に小部屋があるのですね」
そちらの扉には鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。
そして。
そこは寝室だった。
寝台があり、男が一人、横たわっている。
彼こそが『リノウラ・モギ』であった。
だが。
「……亡くなっている……?」
すでに息を引き取って久しいようだったのである。
* * *
「どう見ても遺体だな……」
『そのようですね、御主人様』
『アドリアナ』でも、その事実に驚きを隠せないでいた。
「ここからでは、死因はわからないか……?」
『難しいですね』
『大聖』が答える。
『記録媒体が枕元にあるようです。何か書かれているのでは?』
「ああ、そうだな」
そこで仁は礼子に調べてもらうことにした。
* * *
「枕元にある記録媒体……これですね」
内蔵魔素通信機で仁から指示を受け、礼子は調べ始めた。
「これって……本……じゃあないですね。本型の魔導具ですか」
なんと、それは分厚い日記帳の外見を持つ魔道具であった。
「中に記録されている内容は……軽くスキャンしてみますか」
礼子には、メインの記憶媒体の他にも、仮の記録媒体がある。
コンピューターで言うところの『ウイルス』に感染した情報を読み込んでしまって『基礎制御魔導式』を破壊されたりしないためのものだ。
仁は、そんな点でも妥協せずに礼子の総合性能を向上させているのである。
その機能を使い、『リノウラ・モギ』のものと思われる記録媒体を、礼子は読み込んでみた。
「これは……お父さまに報告しなければなりませんね」
そこで礼子は、内蔵魔素通信機で『アドリアナ』に連絡を行った。
* * *
「……なるほど、そういうことか」
『生データをそちらに送ります』
「そうだな、そうしてくれ」
さすがに礼子よりも『大聖』の方が解析能力が高い。
性能云々というより、単純にシステムとしての規模の差である。
その『大聖』は、礼子から受け取った情報を0.5秒で解析し、まとめを行った。
『御主人様、判明したことを簡単に説明させていただきます』
「ああ、頼む」
『はい。それでは……』
『大聖』がまとめてくれた内容とは……。
1.リノウラ・モギは1年前から病気であった。
2.その病気は、通常の治癒魔法では治せなかった。
3.『X基地』と共に宇宙に出て基地内部の重力がほとんどなくなり、対処に追われ、その間治療はおざなりであった。
4.動力源の制約もあり、『X基地』内部の重力は0.5Gで管理することになった。
5.リノウラ・モギは半年ほど前から寝たきりになった。
6.最後に記録媒体に記録したのは1ヵ月前。その直後に亡くなったと推測される。
7.『アイオーン』はリノウラ・モギの最終命令『自己強化せよ』『人類を救え』に従って行動していた。
『以上です』
「リノウラ・モギが何の病気だったかわかるか?」
『それに関しては記録されておりません。症状についても皆無です』
「そうか、残念だ。……で、最終的に彼は何を目指したんだろう?」
『書かれていませんでした。ですが、推測できることはあります』
「聞かせてくれ」
『はい、御主人様。……リノウラ・モギは、この『アイオーン』と『X基地』を無敵の、『最強の兵器』とすることを目指したのではないでしょうか』
「……なるほどな。じゃあ何のために無敵にしようとしたんだ?」
『はい。推測ですが、様々な外敵から人類を守るためではないかと』
「文字どおり最終兵器に仕立て上げたかったということか」
『そうやって人類を導こうとした可能性もあります』
「そういうものか?」
『はい。以前も『ユーベルを用いた『魔導頭脳』による管理支配』などという妄想をしていましたから』
「そうだったな」
あとは老君にも考えてもらおうと、同じデータを蓬莱島へも送信する仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20221005 修正
(誤)その『大聖』は、礼子から受け取った情報を0.5秒で解析し、まとめを行った
(正)その『大聖』は、礼子から受け取った情報を0.5秒で解析し、まとめを行った。




