89-17 連絡と増援
『コスモス600』としては、もう1つ確認しておく項目があった。
それは『ウィカ』が持つ『鍵』の有効性である。
苦労して『アイオーン』の所まで辿り着いても『鍵』が効力を発揮しないようでは意味がない。
「……どうなのだ?」
「99パーセントの確率で、それは大丈夫だと思う。軍部もリノウラ・モギも、『アイオーン』の根幹に手を加えることはしていないから」
「それならいいが」
「『アイオーン』の一部でもある『パークス』も保証している」
「わかった」
どのみち『アイオーン』に会う必要があるのだから、多少の危険は致し方ないと『コスモス600』は割り切った。
あとは仁への報告だ。
「エアロックから一旦外に出てもいいか? 母艦に報告をしたい。うまく行けば増援も見込める」
「そうだな、いいだろう」
『コスモス600』の申し出は即受け入れられた。
そこで長いロープを借り、単独でエアロックを抜け、外へ出る。
『ヴァルカン』によって、外部の攻撃兵器は沈黙していた。
『X基地』から10メートルほど離れれば、『魔法障壁もどき』の有効圏から抜け出せる。
『コスモス600』はロープをハッチにくくりつけ、外被を蹴った。自身には『物理障壁』を張っておく。
蹴った反動で宇宙空間へ漂い出る『コスモス600』。
『力場発生器』を弱く使い、『X基地』と距離を取った。
『魔法障壁もどき』を抜け、10メートルほど進む。
この辺でいいだろうと、『コスモス600』は内蔵魔素通信機を使い、『ヴァルカン』へ向けて用意した圧縮データを送信したのである。
* * *
『ヴァルカン』は『コスモス600』がハッチを開け、姿を現したのを確認していた。
「『コスモス600』単独だな。何かあったのかな?」
「何か連絡しようというんじゃないですか?」
「ゴウの言うとおりみたい。ほら、ロープを付けて飛び出したわ」
『コスモス600』がロープを付けて『X基地』から距離を取る様子も観察できた。
「そのようだな。『魔法障壁』的な結界を抜けたようだ」
『はい。圧縮データが送られてきました』
魔導頭脳『ヴァルカン』から報告があった。
「やっぱりそうか」
『データ展開完了。内容を報告しますか?』
「頼む」
『はい。……『X基地』内部には呼吸可能な大気あり。また、0.5Gほどの重力あり。『X基地』内では2勢力が戦っている状態』
「何だって!?」
『続きがあります。……2勢力はそれぞれ『アイオーン』と『パークス』。『パークス』側が今回『ウィカ』と『コスモス600』を受け入た勢力です』
「続けてくれ」
『『アイオーン』は過激派で、リノウラ・モギの影響を受けているようです』
「リノウラ・モギか……!」
『『パークス』は『アイオーン』の一部で、独立した意識を持っています』
「ほう……あとは?」
『こういう事態ではあるが『ウィカ』は『アイオーン』に対する切り札になり得ます。確率99パーセント以上』
「それは朗報だ」
『『アイオーン』は戦闘用ゴーレム3体、警備用ゴーレム5体、雑用ゴーレム10体、計18体を所有。対して『パークス』は汎用と思われるゴーレム5体のみ』
「不利なんてもんじゃないな……」
『基地内で使えそうな武器は『剣』『槍』『ハンマー』などが近接用で、遠距離用としては『ミニクロスボウ』があるそうです』
「そのへんは代り映えしないか」
『戦闘用ゴーレムのみが『火の弾丸』『落雷』それに『風の一撃』を使えるようです』
「うん」
『『コスモス600』と『ウィカ』は基地のほぼ南極付近にある小ホールにおり、『アイオーン』は基地中央にあるようです』
「想定内だな。……しかし、そうか。『X基地』はお辞儀しているんだな」
球体の天頂と軌道の天頂が一致していないため、仁Dはこういう表現をしたわけだ。
ちなみに、太陽系の外惑星である天王星の赤道傾斜角は約98度である。
* * *
閑話休題。
新たに得られた情報から、蓬莱島では仁が老君と協議していた。
「できるだけ短時間で『ウィカ』を無事『アイオーン』のところへ連れて行くには、今のままでは戦力不足だな」
『はい、御主人様』
「なら、どうするか、だ」
「お父さま、わたくしがまいります」
「礼子?」
仁の肩に乗ったミニ礼子が名乗り出た。
ミニ礼子は礼子によって操縦されており、ある意味一心同体である。
今の言葉は礼子自身が発した言葉でもあるのだ。
「そうか……では頼むとしよう」
「はい、お父さま」
礼子本体は『ヴァルカン』にいるので、即出撃できる。
が、仁は、礼子に待ったをかけた。
「少しだけ待ってくれ。俺も『アドリアナ』へ行ってバックアップするから」
「お父さま、ありがとうございます」
旗艦『アドリアナ』には『亜自由魔力素波使用の覗き見望遠鏡』があるので、『魔法障壁』があろうとも礼子の様子を逐一追えるのだ。
仁は転移門を使い、『アドリアナ』へ移動した。サポート役として老君の移動用端末『老子』が付いてくれている。
礼子が『魔法障壁もどき』の内部に行ってしまうとミニ礼子の操縦ができなくなるので蓬莱島でお留守番である。
* * *
『アドリアナ』司令室にあるサブスクリーンには『亜自由魔力素波使用の覗き見望遠鏡』による映像が映し出されている。
『X基地』との距離は10キロメートル。問題なく作動している。
外に出ている『コスモス600』には、礼子が参戦することを内蔵魔素通信機で伝えてあるので、ロープを手繰って『X基地』外被に戻った状態で待機している。
「ついでに魔素通信機も使えるようにしておくか」
『魔法障壁』を通して通信する方法はすでに開発済みであるが、今回の場合はそれを使わずとも簡単に実現できる。
『X基地』の外被から、ミスリル銀製のワイヤーを20メートルほど張っておけばいいのだ。
今現在、『魔法障壁もどき』は外被から10メートル程のところに張られているので、20メートルなららくらく通過する。
「よし、こっちの準備はできた。礼子、頼む」
『はい!』
仁は『アドリアナ』からミスリル銀のワイヤーを『ヴァルカン』へと転送し、礼子はそれを持って宇宙空間へ出た。その背には『桃花』が背負われている。
そして『力場発生器』を使い『X基地』へ。
ワイヤーは『魔法障壁もどき』を突き抜けるよう、『ヴァルカン』から『力の長杖』でぴんと張っている。
* * *
『X基地』の外被。
礼子が到着した。
『お嬢様、お待ちしておりました』
『コスモス600』が迎える。
『では、ご案内致します』
『コスモス600』と礼子は連れ立って『X基地』内部へ。
いよいよ『アイオーン』との勝負である。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20221002 修正
(旧)
「続けてくれ」
(新)
「続けてくれ」
『『アイオーン』は過激派で、リノウラ・モギの影響を受けているようです』
「リノウラ・モギか……!」




