88-08 『アカデミー』にて、それぞれの行動
さて、ゴウとルビーナは『フェニーチェ量産化プロジェクト』を手伝うことになる。
この『フェニーチェ量産化プロジェクト』は、『アカデミー』が新体制化したために、アーノルトが各研究室から指名して結成する形となっている。
今のメンバーはエイラ・シアータ(ゴー研)、クラートス(ゴー研)、ゾラ・ヒンメル(航空研)、シエル・アジュール (航空研)、イーナ・コウキ(航空研)、タイナー・ビトー(航空研)、ナオ・スルハシ(通信技術研究室、通称『通技研』)となっている。
材料工学や構造力学の専門家が欲しいな、というのがアーノルトの希望であり、アカデミー学長セイバン・イライエ・センチを通じて申し入れ済みである。
ただ、材料系の研究者は、どうしても『現地』……材料・素材の産地近くで研究することを好むため、なかなか『アヴァロン』に来てくれない。
また構造力学については、『アヴァロン』でのみ講義されており、未だ専攻しようという者が出てこない、というのが現実である。
「要は、材料系は現地を好み、理論系はまだまだ研究者人口が少ない、といったところかな」
とはアーノルトが仁に言った言葉である。
閑話休題。
そういうわけでゴウとルビーナは『フェニーチェ量産化プロジェクト』の面々が集まっている『飛行機用工房』へ出向いた。
「おお、ゴウ君とルビーナさん、いらっしゃい」
「主任から話は聞いているよ、手伝ってくれるそうだね」
「元となった機体の設計者が手伝ってくれるんだから心強いよ」
と、このように歓迎された2人は、年上ばかりのメンバーの中で、はじめこそおどおどしていたが、そこは同じ技術者同士、次第に打ち解けていく。
「量産化へのネックは『魔結晶』の不足だったが、つい先日解消されたんだよ」
「これで制御用の魔導頭脳や『魔素変換器』『魔力炉』なんかを作れるようになったからな」
仁が『魔結晶』を供給したため、ネックとなっていた資材不足もかなり解消されていたのだ。
「『フェニーチェ』と変える点はあるんですか?」
「ほんの少しな。これを見てくれ」
ゴウからの質問に、航空研のタイナー・ビトーが設計図を広げてみせた。
「あ、尾翼の取り付け位置が少し変わっていますね」
「一目で違いを見抜くか。さすが『魔法工学師』の弟子だね。そう、主翼からの乱流の影響を避けるため、もう少しだけ軸線から遠ざけたんだ」
主翼の上下を通った気流は、流体力学に則り、若干乱れた流れ(乱流)となる。
その乱流の中に水平尾翼が入ると、昇降舵の効きが悪くなったり安定しなかったりする。
それを防ぐため、彼らは主翼の後端の延長線上から水平尾翼の取り付け位置をずらしたというわけだ。
「その場合の操縦への変化はどう捉えていますか?」
「数回から十数回の飛行で補助魔導頭脳に補正させられると思っているよ」
「あら、それってそうした魔導頭脳を搭載する前提よね?」
ここでルビーナが参加する。
「それはそうだが」
「それなら任せてほしいわね」
「ルビーナさんに?」
「タイナーさん、ルビーナはゴーレム作りも得意なんですよ」
ルビーナの言葉をゴウが裏付けると、タイナー・ビトーも頷いた。
「そうか、それなら頼んでみようかな」
「まっかせて!」
ルビーナは喜々として作業に取り掛かった。
そこでゴウはエンジンについて確認する。
「ここもちょっと変えてますね」
「ああ、そこは先日、マキナ殿が手を加えたところだ」
「え、マキナ殿が」
「そうなんだ。だが、これでは機構が複雑になってしまうので、できれば元のままで作りたいんだよ。……ゴウ君、この変更の意味はわかるかい?」
タイナーはゴウが若輩だと侮るようなことはせず、同輩として相談を持ちかけてきた。
そこでゴウもそれに応えるべく、変更の意図を探ろうと設計図を見直す。
そして5分ほど考え続け、ついにその意図にたどり着いた。
「わかった! これって、噴射の圧力を最適化しているんだ」
ロケットエンジンのノズル形状についての理論がある。
大気圏内で使用するロケットエンジンのノズルの最適なサイズは、噴射の圧力が外部の気圧と等しくなる大きさ、と言われる(真空の場合はまた別の理論がある)。
が、『ナイルⅧ』や『フェニーチェ』の場合、真空中での運用は想定していないので、大気圧だけを問題視すればいい。
そこでマキナは、大気圧の変化に合わせてノズル形状を変えられるように変更していたのである。
「……なるほど、そういうことか。よくわかったね。さすが『魔法工学師』の弟子だな」
「で、どうします?」
「そういうことなら、ここは元に戻し、固定にしよう」
「そうですね、残念ですが」
量産化・民生化という視点から見ると逆行する変更だったため、ゴウとタイナー・ビトーは可変ノズルの採用は見送ったのだった。
* * *
さて、エルザとメルツェ。
2人は『アカデミー』内の見学を行っていた。
案内人はアヴァロン最高管理官秘書フィオネ・フィアス、通称フィフィさん。
「ではまず、どちらへ行きましょうか?」
「メルちゃんは、どこか希望、ある?」
「はい。あの、『魔法陣研究室』を見学してみたいです」
それを聞いたフィフィさんはにっこり笑って、
「ええ、いいですよ」
と言い、先に立って2人を案内していく。
「こちらです」
フィフィさんがドアを開けると、中は『昭和の製図室』とでもいうような佇まいだった。
もう少し具体的に描写すると、製図台によく似た机が整然と並んでおり、その前に研究員が一人一人陣取って魔法陣と取り組んでいるのだ。
「こちらの『製図台』は魔法陣を描くために特化した機能を持っています」
この製図台は魔法陣の設計のため、同心円を描いたり、それを一定角度で等分割したりといった作業が簡単にできるようになっている、と説明がなされる。
「ここで魔法陣を設計するんですね」
「ええ、そうです」
「では、それを動作確認する場所もあるんですよね?」
「もちろんです。次はそちらへご案内します」
フィオネ・フィアスは、エルザとメルツェを隣の部屋へと案内していくのだった。
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