87-65 調査報告とその対策
『こそ泥ゴーレム』から『魔結晶』を受け取った謎の飛行船は、南へと飛翔していく。
高度は1000メートルを維持、速度は時速300キロほど。
なかなかの性能である。
『……侮れませんね』
『覗き見望遠鏡』で観察している老君は、飛行船の性能は『アヴァロン』の水準を上回っていると判断した。といっても僅かであるが。
そのまま飛行船は飛び続け、プレアデス諸島上空へとやって来た。
そこで停止し、ゆっくりと降下。
『プレアデス諸島が本拠地でしたか』
着陸したのは『アルキオネ島』の西端。
ここは無人島であり、小動物と鳥類、昆虫などがいるのみ。
大型動物や魔獣は棲んでいない。
熱帯にあるので緑は豊富で、植物相は豊かだ。
西端は風が強いからか草原が広がっており、そこに飛行船は着陸した。
途中で日付は変わって14日となっている。
『岩に偽装した建物が1つありますね……』
『覗き見望遠鏡』で探っていた老君は、すぐさまそれを見つけ出した。
ほぼ同時に、飛行船の船室後部のハッチが開き、衣装ケースくらいのコンテナを持ったゴーレムが現れた。
『あれは……特徴から言って『魔法探求者』の流れを汲むもののようですね』
だとすると、この黒幕が『リノウラ・モギ』である可能性が高くなった、と老君は認識。さらに観察を続ける。
ゴーレムは、岩に偽装した建物の中へコンテナを運び入れた。
そこには転移魔法陣があり、コンテナは何処かへと転送されていったのである。
『リノウラ・モギらしい慎重さですね……』
中継点を設けることで、拠点を知られるリスクを削減しているのだ。
『『転移探知システム』でも検知できませんでしたか……残念ですね』
仁が開発した『転移探知システム』は、質量の急激な変化を捉えるものである。
その原理上、質量が小さいと、遠距離での検知は難しい。
今回の、『魔結晶をいれたコンテナ』の質量は50キロくらいと考えられる。
そのくらいの質量だと、1000キロ離れるともう検知できないのである。
つまり、『魔結晶を入れたコンテナ』が送り出された先は蓬莱島から1000キロ以上離れているということになる。
『次の機会を待ちましょう』
黒幕の正体と居場所を暴くことについては、老君は待つことにしたのである。
だが、『飛行船』の解析は続行する。
着陸したため、老君が行う『覗き見望遠鏡』の対象固定の難易度が格段に下がっている。
また、無人島の拠点に戻ったという安心感からか、『隠蔽結界』は解除されていた。
『ふむ……やはり『重力魔法装置』を持っていますね。魔法は……『gravita』ですね。出力は……ああ、最大がプラスマイナス2Gですか。飛行船としてみたらかなり有効でしょうね』
そのため、老君はより詳細に飛行船の解析を行えるようになっている。
『材質は軽銀。64軽銀ではないですね。推進器は『噴射式推進器』と『重力魔法装置』ですか……』
横向きの重力を発生させ、それを推進力に使っている。
そのような発想を行った飛行船の製作者は非凡な人物であると老君も認めた。
『乗員はゴーレムが5体、これもまた『魔法探求者』の流れを汲むものですね』
その飛行船は、再び上昇を開始。
来たルートを戻り始めた。
『再びフラットヘッド山に戻るようですね……いったいどれほどの『魔結晶』を盗んだものか……』
今回運んでいったものは原石なので、研磨して実用に堪えるものとした場合、およそ60個相当。それを11箇所で既に3回行っていたと仮定して試算すると、2000個程度となる。
これはかなりの量だ。
ゴーレム・自動人形なら、性能のよいものを100体は作れる(もちろん他の素材があるという前提)。
『しかも、まだ集めている。何か魔導機を作っていると考えるのが自然でしょうね』
老君は危機感を持った。
『これまで以上に警戒を厳しくしませんと』
そして、仁とその仲間たちが愛し、暮らすこの世界を守るべく、全力を尽くすと誓った老君なのである。
* * *
同日、『アヴァロン』に調査団が帰還した。
最高管理官トマックス・バートマンは早速、自ら報告を聞くことにした。
『新技研』メンバーの大半と、資材課の面々も同席する。
「……フラットヘッド山の山頂で……」
報告の大半はリーダーを務めたアレオ・ヨカ・ナイツが行った。
「……と、いうことです。以上で報告を終わります」
「うむ、ご苦労」
報告が終わり、情報の共有ができた時点で討論を開始することになる。
「まずは、『透明ゴーレム』を見る方法がないかということです」
アレオ・ヨカ・ナイツが切り出した。
答えたのはアーノルト。
「偏光フィルターでぼんやりと何かが見えたということですね?」
「そうです」
「でしたら、『波長変換フィルター』のようなものを開発すればなんとかなりそうですが」
「『波長変換フィルター』、ですか?」
「そうです。……まあ、フィルターのように薄くはできないでしょうから、『波長変換ゴーグル』になると思われますが」
音声でいう『ボイスチェンジャー』のようなものといえる。
声のリズムや内容を変えず、音質だけを変えるあれだ。
同じようなことを光で行うのである。
「長波長を短波長に変えられればいいかと思いますが」
要するに、赤外線を目で見えるようにする、ということになる。
「そちらは専門家にお任せします」
「わかりました」
『新技研』室長、アーノルトは頷いたのである。
「では、次の相談ですが、我々もそのゴーレムから察知されないようにはできないでしょうか?」
「ううん、難しいですね。というのも、そのゴーレムの探知機能がどのくらいなのか全く情報がないので……」
「ああ、そういうことですか……確かにそうですね」
「少なくともその『隠蔽結界』を上回るものでないと効果がないと思われますが」
「確かに……」
『アヴァロン』での会議は進んでいく。
* * *
「なるほどな」
『アヴァロン』での会議の様子を老君から聞いた仁は満足そうに頷いた。
『必要は発明の母』。そうしたところから、新しい技術は産まれるのである。
創意工夫で乗り越えてくれるような技術者が育ってほしい、と願ってやまない仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220722 修正
(誤)推進機は『噴射式推進器』と『重力魔法装置』ですか……』
(正)推進器は『噴射式推進器』と『重力魔法装置』ですか……』
(旧)
着陸したため、より精度の高い解析が行えるようになったのだ。
また、無人島の拠点に戻ったという安心感からか、『隠蔽結界』は解除していた。
(新)
着陸したため、老君が行う『覗き見望遠鏡』の対象固定の難易度が格段に下がっている。
また、無人島の拠点に戻ったという安心感からか、『隠蔽結界』は解除されていた。




