87-64 判断と今後
『偏光フィルター』で『こそ泥ゴーレム』の存在だけは把握できるようになった調査団は、遠巻きに監視をしている。
『こそ泥ゴーレム』の自律性は低いようで、そんな調査団を気にも留めていないようだった。
* * *
「なんとも、お粗末なゴーレムだな」
「そうね」
『こそ泥ゴーレム』と調査団の両方を見守っている第5列、レグルス14通称『タクス』とデネブ14通称『テネス』はそんな会話をしていた。
「飛行船はそこそこの出来だがな」
「ええ」
フラットヘッド山に駐機してある飛行船は、全長20メートル、直径10メートルの気嚢を持ち、下部に船室が付いている。
かなりずんぐりした形状だ。
だが、1点だけ侮れない部分がある。
『重力魔法装置』だ。
おそらく元になった魔法は『gravita』。
どういうルートでそれを会得したのかは今のところ不明。
「つまり、大きさの割に積載量はありそうだ」
「そうね」
「問題は、この『gravita』をどこから学んだか、だな」
「それもそうだけど、どこまで……何Gまで使えるのかも調べる必要があるわ」
「確かにな」
今のところ解析できたのは表面的なスペックだけである。
それ以上となると、相手に気取られる可能性があると判断し、不用意に手を出せなかったのだ。
が、転機が訪れる。
『こそ泥ゴーレム』がくすねた魔結晶を運んできた後、飛行船が動き出したのだ。
「必要量が溜まったのかな?」
「多分そうなんでしょう」
「だとすると、向かうのは黒幕の所」
「そうなるな」
間違いなく老君が『覗き見望遠鏡』で追跡するであろうことを知っている『タクス』と『テネス』の会話であった。
* * *
「透明ゴーレム、どうやら山頂へ向かったようです」
「そうらしいな」
一見『透明』に見えるゴーレムだが、偏光フィルター越しに見れば、ぼんやりとした影となって、そこにいることだけはわかる。
「どうするんです? 追いますか?」
「……追おう」
少しのためらいはあったが、調査団のリーダー、アレオ・ヨカ・ナイツは追うことを選択した。
が、条件も付ける。
「追うのは私とVー12号で、だ。残りはここで待機。もしも我々が1日経っても戻らなかったら『アヴァロン』に戻って報告しろ」
「……わかりました」
世界警備隊隊員のアレオ・ヨカ・ナイツ以外は研究員で、荒ごとどころか体力的にも心もとない。
それでアレオ・ヨカ・ナイツはゴーレムのVー12号と共に山頂を目指すこととなったのである。
Vー12号には『透明ゴーレム』の姿はよく見えているようなので、追跡の先導を任せ、アレオはその後を付いていくことで、かなり精神的な負担を減らすことができた。
とはいえ、フラットヘッド山の山頂へ続く道などないので、多少傾斜がゆるく、手掛かり足掛かりのある程度の斜面を登らなければならず、山頂に着いた頃にはアレオ・ヨカ・ナイツはへとへとになっていた。
なにしろ標高差1000メートルを2時間ほどで登ったのだから無理もない。
息を整え水を飲むと、少し落ち着いたのでアレオは待機していたVー12号の案内で先へと進む。
「この先に何があるのだ?」
「どうやら、飛行船の、ようです」
Vー12と共に向かったその先には、偏光フィルター越しに見て、なにやら巨大なぼんやりした影を見つけた。
「飛行船だと?」
「はい。全長は、20、メートル、ほど」
「それを使って、くすねた魔結晶を運び出そうというのか……」
「そのよう、です」
「むむ……どうすべきか……」
アレオ・ヨカ・ナイツは考え込んだ。
ここで逃していいものか、どうか。
「……見逃した場合、魔結晶をどこかへ届けた後、また戻ってくる可能性がある。それまでに準備を整えて待ち伏せていれば、黒幕を見つけられるかもしれない、か」
一方で、ここで捕まえられるかといえば否であろう。
自分とVー12号だけで飛行船を捕獲できるとは思えない。
ここまで考えたアレオ・ヨカ・ナイツは、飛行船を見逃すこととした。
ただし、Vー12号には、その外観・特徴をできるだけ詳細に記憶しておくよう指示を出して。
* * *
アレオ・ヨカ・ナイツの様子を、『タクス』と『テネス』は姿を隠しつつ観察していた。
そしてその結論を称賛する。
「この場では適切な判断だと思う」
「そうね。どうやっても飛行船を捕まえられるとは思えないですものね」
「戻ってくるかどうかは賭けになるがな」
「それでも、他の効率が落ちた鉱山も同様の『こそ泥ゴーレム』が来ていると考えられるから、調査団ではなく『世界警備隊』を派遣すれば捕縛できるかもしれない」
「それは言えるわね」
『タクス』と『テネス』はこんな会話を『内蔵魔素通信機』で交わしていたのである。
* * *
そして老君は、今はロイザートにいる仁に中間報告を行った。
『……と、いうことです』
「うーん……その『こそ泥ゴーレム』を使役している黒幕はいったい……老君、推測できるか?」
『はい、御主人様。今のところ考えられるのは『リノウラ・モギ』だけです』
「やはりあいつか」
『はい。ですがそれは、可能性がある、というだけで、他の可能性が低すぎるというだけです』
「それはわかる」
該当者が他にいない、というだけで、要するに情報不足とも言える。
「とはいえ、老君の情報収集能力で他に該当者がいないわけだからなあ」
『恐れ入ります』
「……で、その飛行船は?」
『はい、御主人様。間違いなく『gravita』を併用し、浮力を増しております。今のところプラスマイナス1Gを出せる程度と見ております』
「魔力を喰うからな」
『はい』
「で、調査団は?」
『はい。アレオ・ヨカ・ナイツも他のメンバーのもとに戻り、まもなく報告のため『アヴァロン』に帰投するようです』
「そうか。なら、もうしばらくこの件は『アヴァロン』に任せておいてよさそうだな」
『はい、御主人様』
「だが、こっちはこっちで情報収集だけはやっておいてくれよ」
『お任せください』
このように、『こそ泥ゴーレム』もしくは『透明ゴーレム』の件は、もうしばらく『アヴァロン』案件となりそうである。
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本日7月21日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
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20220721 修正
(誤)『こそ泥ゴーレム』の自律性は低いようで、そんな調査団を気にも留めていないうようだった。
(正)『こそ泥ゴーレム』の自律性は低いようで、そんな調査団を気にも留めていないようだった。
(誤)少しのためらいはあったが、調査団のリーダー、アレオ・ヨカ・ナイツじゃ追うことを選択した。
(正)少しのためらいはあったが、調査団のリーダー、アレオ・ヨカ・ナイツは追うことを選択した。




