86-33 さらなる前進
エゲレア王国北部、『オエフェ山』の地下。
新事実が出てきた。
『まずは調べてみましょう』
老君は早速『覗き見望遠鏡』を使い、『オエフェ山』の調査を開始した。
『すぐ北側には『オエフェ鉱山』がありますが、こちらは閉山されていますね』
資源が枯渇したようである、と老君は判断した。
『それに比べてフープラ鉱山は資源が豊富ですね』
だが、もしかするとオエフェ鉱山は『魔導大戦時』にとことんまで掘り尽くされた可能性もある、と老君は考えていた。
いずれにせよ、今回の調査に影響はない。
『廃坑の奥、というのは定番ですが、果たして』
使われなくなった坑道の奥をさらに掘ったり広げたりして秘密基地として使う、というやり方があることを老君は知っており、全部で103あった坑道を全て調べてみた。
『こちらは収穫なし、ですね。残念です』
しかし腐ったり倦んだりすることなく、老君は調査を続けていく。
『位置関係も考慮する必要があるかもしれませんね』
オエフェ鉱山はオエフェ山の北麓にある。
『魔導大戦』の敵、『魔族』は北から攻めてきていた。
つまり、北側に出入り口を設けるのはリスクが高いということだ。
『探すなら、オエフェ山の南側でしょうね』
今、老君は出入り口あるいはその痕跡を探すことにしたのである。
『覗き見望遠鏡』はその性質上、固体中の透視には酷く時間がかかるからだ。
老君の操作をもってしても、『通常視』と『固体透視』の所要時間差は100倍から1万倍。固体中にある目的物の大きさによって困難さは変わる。
『偽装されているか、あるいは既に崩落し、外部からはそれとわからなくなっているか』
その場合でも、『かつて人工物が存在していた跡』というものは、それなりにわかる、と老君は考えていた。
出入り口の場合は、『不自然な平地』や『平らな崖』、『道路のような渓谷』などがそれである。
永の年月の間に崩落したり風化したり植物に覆われたりということがあっても、やはり人工的な匂いはどこかに残っているものである。
昼夜の別なく、老君は探し続ける……。
* * *
一方、アーノルトとハンナDは『ファースト』との会話を続けていた。
「……そうすると、『セオドア』殿は、『ファースト』を仕上げた後、前線に送られたのか」
『そう聞いています』
「もちろん、兵士としてではなく技術者として、だろうね」
『そうです。当時、前線でのゴーレムの損耗が酷く、一人でも多くの技術者が必要とされていました』
「それでゴーレムの専門家ではないセオドア殿も駆り出されたということか」
『はい』
「やはり『魔導大戦』は影響が大きかったな」
『そうですね』
「で、『魔素暴走』はどう凌いだんだい?」
『いえ、残念ですが停止しました』
「やはりか」
必要な自由魔力素濃度が得られないときは停止するように設定されている、という。
『85年の間停止していました』
「まあ、そのくらいはな」
『その後、動作を保つのにギリギリでしたが、再起動しまして、31年間は付随機能を起動できませんでしたね。再起動後、あれが『魔素暴走』だったと知りました』
「そうだろうなあ。その頃には『球形基地』のことも忘れ去られていたんだろうな」
『残念ですが。ですがこうしてお役に立てる日がまた来ました』
「うん、それはよかったと思うよ」
ここでハンナDが別の質問をした。
「ところで話は変わるけど、今の世界情勢ってどの程度把握しているの?」
『はいハンナさん、おおよその状況はわかっています』
「『魔族』ではなく『北方民族』あるいは『ノルド人』と言っていることも?」
『はい』
「ローレン人とノルド人は仲よくなっていることも?」
『はい』
「そっかー。それについては?」
『特に何も』
そして『ファースト』はその設定について説明した。
『私の『基底命令』に『魔族への攻撃』に類するようなものはありませんから』
「それはいいことだね」
『ですので、『北方民族』の方を見かけてもいきなり攻撃を加えるようなことはいたしません』
「それなら安心だね。私たちの『仲間』には『北方民族』の人もいるから」
『そうなんですね』
それを聞いても『ファースト』は特におかしな反応はしなかった。
「じゃあ、ええと、『魔法探求者』の人たちを攫おうとしたのは何故だ?」
ここで仁Dも参加した。
『はい、ジン様。彼らのことを知ったのは1年ほど前です。そして情報を得るために協力してもらおうと思いました』
「かなり過激な方法で、だよな?」
『それは認めます』
仁に仕えるまでは、『全体の利益のためには一部の不利益を許容する』という前提で動いていた、と『ファースト』は言った。
「つまり、『強くなる』ためには犠牲もやむを得なかった、ということか」
『はい。お恥ずかしい限りです』
「いや、そうなった背景を考えると致し方ないかもな。それよりも犠牲を出さなかったことを喜ぼう」
『ありがとうございます』
「だが、ロウゾウ・チヨダやトモシデ・ヨダの名前は知っていたのか?」
『それにつきましてはウラウの町で聞き込みましたから』
「それなら知っていても不思議じゃないな」
ここで肝心なことを思い出した仁Dは『ファースト』に確認。
「あ、それじゃあ、『リノウラ・モギ』っていう名前に心当たりはないか?」
『存じております』
「知っていることを説明してみてくれ」
『一度、この『球形基地』に招きました』
『招いた』というのがどのような待遇だったのか……。それは後で尋ねるとして、仁Dは『リノウラ・モギ』について説明させることにした。
『なかなかの知識を持った人物でした。クェント村の近くに知識人がいる、という情報もその人物から得たものです』
「なるほど、そうだったか」
どこかで接点があったかもしれないと思っていたが、やはりそうだった、と仁Dは納得した。
リノウラ・モギについての情報が少しでも『ファースト』にあることが分かったことは朗報であった……。
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