86-31 サキの発見
仁が『球形基地』の処遇をどうするか検討していた時。
「ふふん、面白いねえ」
サキは、『バックドア』付き制御核の材料工学的解析を行っていた。
これは仁がウラウの町の町長宅でゴーレムを修理した際に手に入れたサンプルである。
「マギ・プラスチックじゃなく、ただの……と言っていいのかどうかは疑問だけど、合成樹脂だね」
この分子構造だと、どうやって合成したのかさっぱりわからない、とサキは首を傾げた。
「サキ姉でも無理?」
「おや、エルザ。……うん、ボクでもすぐには無理だね」
「だとすると、合成した『何者か』はかなりの技術を持つ」
「くふ、そうなるね」
もっとも、有機化学については発展途上だけど、とサキは言った。
「ヘールで『長老』に教えを請えばもっと発展するんだろうけど、せっかく課題があるんだから取り組みたいよね」
「サキ姉らしい。で、他にわかったことは?」
「この魔結晶の産地だね」
「わかったの?」
「もちろん。合成されたものではないからこそ、産地ごとの特徴があるんだよ」
「不純物、とか?」
「うん、それもある。その他には結晶構造、とかもね」
サキは、産地特有のそうした特徴を照らし合わせてみた、と言った。
「さすが、サキ姉」
「くふ、ありがとう」
「で、産地は?」
「このあたりだね」
ローレン大陸の地図を用意したサキは、その1点を指差した。
それはセルロア王国東部、リーバス地方の南、エゲレア王国との国境付近にある鉱山。
「フープラ鉱山?」
「そう。ここの産である可能性が高いね」
ウラウの町からフープラ鉱山までは、街道を南西に進んでイクスピの町へ。そこから南東へ向きを変え、ファタイの町からは南下。
行き着く先がフープラ鉱山である。
「魔結晶を多く産する優秀な鉱山でね。特徴的な不純物として0.0001パーセントほどのリチウムを含むんだよ」
「つまり、サンプルの制御核はリチウムを含んでいた、と」
「そういうこと。ボクの知る限りでは、リチウムを含む魔結晶は他の鉱山では採れていないなあ」
ちなみに、0.0001パーセントの不純物は、魔法工学的には何の問題もない。
影響が出てくるのは0.01パーセントくらいからである。
つまりここの魔結晶は十分に純粋で高性能ということである。
* * *
『サキ様、報告があります』
「お、老君、待ってたよ」
フープラ鉱山産らしいと見当が付いた時点で、サキは老君に話しておいたのである。
そして老君はすぐに独自調査を開始していたのだ。
『フープラ鉱山には、『販売代理店』の息が掛かっています』
「何だって? ……うーん、ある意味予想どおりなのかな? 詳しく聞かせておくれよ」
『はい。……フープラ鉱山はかなり規模が大きい鉱山でして、国営の坑道だけでなく、民間もいくつか坑道を持っています。その1つが『販売代理店』所有でした』
「また『販売代理店』かい……」
『はい。こうなりますと、間違いなく怪しいですね』
「まったくだね。……そっちは老君が動いているんだろう?」
『もちろんです。ですが、相手の技術力がわかりませんので、手探り状態です』
「そうだろうね」
焦ってこちらのことがバレてしまっては元も子もない、と老君は言った。
「それはそうだろうね」
これまでの経緯を見ても、侮れない相手のようだ、とサキも感じている。
「でも、『球形基地』の方のケリが付いたのは、よかった」
エルザが言った。
『はい、エルザ様』
「そうだよね。エルザの言うとおり、黒幕がいるのは『バックドア』の方だから」
その黒幕が一筋縄では行かない相手だけど、とサキは言った。
『仰るとおりです』
「老君、ボクに手伝えることはあるかい?」
『いえ、今回、魔結晶の産地を特定していただけたことで大助かりです』
「くふ、それならよかったよ」
* * *
『サキさんに産地を特定してもらいましたから、早速産地の監視を始めましょう』
老君は『覗き見望遠鏡』を起動。
セルロア王国のフープラ鉱山に焦点を合わせた。
ここの鉱山は、断層崖と思われる場所に、横並びに坑道が掘られ、採掘が行われている。それは東をM1として、順に番号を振られていた(MはMine、鉱山の意)。
その形式上、坑道内の分岐は横ではなく縦方向に向いているのが特徴だ。
例えば、最初の坑道はほぼ水平に掘っていき、途中で分岐する場合は脇道を作るが、それは横に伸ばすのではなく、すぐに下方へと転じ、斜め下へと掘っていくことになる。
『全部で31の坑道が掘られ、うち25が国営の坑道。これは間違いないですね』
残る民営の坑道は6。
『販売代理店』は西端の坑道……M31をもう2軒の商店と共同で運営していた。
だが。
『闇鉱山とでもいいますか……非公式……非公認の坑道が3本あるのですね』
こっそりと掘った坑道が3つ見つかったのだ。
『こちらも怪しいですね』
正式に坑道を運営しているその裏で、非公式な採掘もしている、という可能性もあるからだ。
時間を掛けて観察し、評価するつもりの老君であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220418 修正
(誤)『はい。……フープラ鉱山はかなり規模が大きい鉱山でしで、
(正)『はい。……フープラ鉱山はかなり規模が大きい鉱山でして、




