86-30 今後のあり方
5月23日。
『球形基地』を手に入れた仁は、老君と今後について話し合っていた。
「公表するのが一番いいんだろうけど」
『セルロア王国の領土内ですからね、扱いが難しいですね』
「旧ディナール王国の所有物だから、今の時代的にはセルロア王国か?」
『そうなると思います。資源……鉄鉱石などの産出も全てセルロア王国内でしょうし』
「支払いは問題ないだろうけどなあ」
『はい、国家予算の十数倍は蓄財がありますので問題はありませんが……』
「使うのはいいんだよ、使うのは」
『基地は置きっぱなしにするしかないですからね』
そう、『球形基地』はボロロン荒野に埋まっているわけで、それを仁が接収したなら移動させる必要があるわけだ。
しかし、事実上、直径200メートルの鋼の球体を運ぶことは不可能である。……仁を除いて。
『『アトラス』でしたら吊り上げて運べるでしょう』
『アトラス』は直径300メートルの特殊宇宙艦で、そのほとんどが推進器である『力場発生器』と『魔力反応炉』であり、同じ300メートル級の『アドリアナ』の、実に200倍の推力を誇る。
これなら、『球形基地』など軽々と運べてしまうだろう。
とはいえ、そこまでの実力を見せてしまうと、いらぬ不安を与えてしまうということで悩んでいるのだ。
『ここは、大工事になりますが、『球形基地』を掘り出し、転移魔法陣を設置して移動させるのがよろしいかと』
「うーん、それならいけるか。ただその場合の問題は……」
『移動先ですね』
「そういうことだ」
『御主人様、候補地としてはいくつかあります』
「うん」
老君が挙げた候補地は……。
1.月
2.蓬莱島
3.カイナ村
4.アルカディア
5.アヴァロン
6.衛星軌道
であった。
「なるほどな」
『ですが、移動先がはっきりしている方がよろしいかと』
「それはそうだ」
そうなると、
3.カイナ村
4.アルカディア
5.アヴァロン
となる。
が、さすがに『アヴァロン』は無理であろう。
「カイナ村もなあ……」
のどかな村にはふさわしくないだろうと仁は思った。
とはいえ、仁が管理している土地となると、そう多くはない。
「となると……『アルカディア』に隣接させるか?」
『アルカディア』はデウス・エクス・マキナ3世の拠点ということになっている。
人工島で、直径1キロ、高さ1キロの円柱状の本体の上に岩で艤装しており、2代目魔法工学師の仁と初代マキナが作ったことになっている。
「だけど、炭素鋼だからな。海の上ではすぐ錆びそうだ」
『それは言えてますね』
「なかなか悩ましいな」
と、ここでハンナからの助言が入った。
「おにーちゃん、引き取ったあと、どう運用するかも考えて決めたら?」
「ああ、そうか。それも必要だな」
今後、誰かを受け入れることもあるなら、月や蓬莱島という線はなくなる。
同様に衛星軌道も。
「うーん、それにしても、どれも一長一短があるなあ」
「だねー」
既に持て余し気味の仁であった。
「おにーちゃん、老君のダミーにする、というのはどう?」
「老君の?」
「うん。つまり、おにーちゃんが『世界最大の魔導頭脳』の所有者である、ということを知らしめて、それが『ファースト』だということにしちゃうの」
実際、『ファースト』の能力は仁が作った巨大魔導頭脳『老君』『小老君』『庚申』『導師』『太白』などよりは劣るが、それらを除く既知世界では最高レベルである。
「もう1つの案は、『メガフロート』をおにーちゃん用に作って、そこに据え付けるの」
「なるほど……」
ハンナは、直径1キロほどのリング状の構造物を海に浮かべ、その中心に『球形基地』を据えたら面白い、と言った。
「どれにするかはおにーちゃん次第」
「そうだな、参考になったよ。ありがとう、ハンナ」
「どういたしまして」
ハンナからの助言をもらった仁は、どれがいいかじっくり考えた。
そして出した結論。
「メガフロートにしよう」
これであった。
* * *
「『アヴァロン』は2代目魔法工学師と初代マキナがつくったことになっている。だから、3代目である俺とマキナ3世が同じようにメガフロートを作ってもおかしくないだろう」
『確かにそれは言えてますね』
「溜め込んだ資材を使ってもよし、資産を使ってもよし」
『そのあたりは半々くらいにしたほうがよさそうです』
「そうかもな」
大量に素材を購入すると品薄になり、物価上昇の原因になりかねない、と老君は言った。
『ほどほどにしましょう』
「わかった。あとは計画だな」
『それですが、公開するのがよろしいでしょう』
「公開?」
『はい。この世界に、こうした巨大工事のやり方を知らせるためにも』
「やり方っていっても『魔法工学師流』だけどな」
『それでもいいと思います』
「そうか」
* * *
こうしたやり取りを経て、『球形基地』の扱いを決めていく仁であった。
この後セルロア王国へ行き、事情を説明して『球形基地』を購入するという仕事と、『アヴァロン』を通じて世界各国に知らせるという働きかけもしなくてはならない。
「面倒だな」
『ですが、『3代目』としてのやり方をなさるのでしたらこれがベターかと』
「そうなんだけどな……」
『2代目』の時は、かなり秘密裏に動いていたので面倒はなかったが世界への影響もそれなりに小さく、『魔法連盟』の横槍もあって400年の間ほとんど進歩がなかったという事実がある。
「お手本になる工事をする、というのは面倒くさいものだな」
『はい、御主人様。ですが必要なことです』
「わかってるさ」
仁としても、技術を定着させるためにはどういうやり方が望ましいか、ということはわかってきている。
「この工事はゴーレムを使うにせよ、従来の『蓬莱島式』じゃ駄目だよな」
今後の参考になるような、参考にできるような工法で行う必要がある。
『それこそ『ファースト』に考えさせましょう』
「ああ、それはいいな」
『ファースト』は『魔導大戦』時の最高レベルの技術を知っている。
その『ファースト』に工事の計画をさせるのはいいアイデアであった。
「残るは『バックドア』の問題か……」
『はい、御主人様。そちらは引き続き調査中です』
まだ事件は解決したわけではない……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日4月17日(日)は都合により
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
は休載させていただきます。
4月19日(火)14:00を予定しております。
お知らせ:4月17日(日)は昼過ぎまで不在となります。
その間レスできませんのでご了承ください。




