86-29 決着、その後
魔導頭脳『ファースト』が繰り出してきたのは5体の戦闘用ゴーレムだった。
「5対1か?」
少しの非難を込めて仁Dが言うと、『ファースト』は、
『数もまた強さだからな』
と、悪びれない。
仁Dもここは相手の土俵に合わせてやろうと決める。
「……わかった。礼子、遠慮はいらないようだぞ」
* * *
「礼子、20パーセントだ」
蓬莱島から仁は内蔵魔素通信機で礼子に指示を出す。
『はい』
礼子も内蔵魔素通信機で返事をよこした。
* * *
『レーコ嬢が開始の合図を出してよいぞ』
「わかりました。…………では、行きます!」
20パーセントの出力で礼子は突進した。
そのまま先頭の1体に体当たり。
ぐしゃ、と鈍い音を立てて胴体が凹み、そのまま後方にいた1体を巻き込んで後ろへと吹き飛ぶ。
体重差の関係で礼子も少し後退するが(力場発生器は使っていないため)、すぐに床を蹴って再度突進。
向かって右のゴーレムに飛びつき、右腕を捻り上げつつ振り回せば、他の2体をなぎ倒す。
3回転ほど振り回して手を離せば、先程吹き飛ばされたゴーレムがちょうど起き上がったところに飛んでいく。
金属音がして2体はもんどり打って転がっていった。
一方、振り回したゴーレムに弾かれてなぎ倒された2体は大したダメージもないためすぐに起き上がり、左右から礼子をはさみうちにせんと襲いかかった。
それを礼子は垂直にジャンプしてかわす。
空中では逃げ場がないだろうと、2体は落下してくる礼子を捕まえるべく待ち構えたが、あに図らんや、礼子は天井を蹴って加速。
そのまま、まだ体勢が整わない1体に頭上からの飛び蹴りをかます。
これにはたまらず、膝を付くゴーレム。
もう1体が礼子を捕らえんと両手を広げたその中心、人間でいえば鳩尾に向かって礼子は右拳を叩きつけた。
外装を凹ませて吹き飛んでいくゴーレム。
ダメージの少ない2体が起き上がり、礼子に向かって駆け出した。
近い方の1体を『腕投げ』で投げ飛ばし、床に叩きつける礼子。
その礼子の右腕を、ついにゴーレムが掴んだ。
が、礼子は意に介さず、そのまま右腕を振り抜けば、ゴーレムは引きずられて共に振り回され、床に転がった。
その頭部を礼子は『軽く』蹴り飛ばせば、頸部にダメージを負い、ゴーレムは停止。
これで5体のゴーレムは戦闘不能となったのである。
ここまでおよそ20秒。
「終わりでいいですか?」
礼子は平然と立ち、魔導頭脳『ファースト』に尋ねたのだった。
『う、ううむ……聞きしに勝る強さ! 見事だ、レーコ嬢』
「納得していただけましたか?」
『納得した』
「……で、『ファースト』はこれからどうする気だ?」
『どうする、とは?』
「『強くなること』という『基底命令』をどう遂行していくか、ということだ」
『問題ない。これからも『強くなるよう』行動し、遠い未来に再びレーコ嬢に挑戦させてもらう』
「そう来るか……」
つまり『強くなること』に対しての期限はない、と『ファースト』は解釈したわけである。
これもまた『拡張基底命令』の1つの形である。
* * *
『さて、アーノルト殿』
「何かな?」
『偶然なのかもしれないが、私の記憶領域に、『アーノルト』と『チェル』という固有名詞が残っているのだ』
「それはいつ頃の情報なのです?」
『私の建造当時のことである』
「そうですか……」
『『チェル』殿は『魔導大戦』当時に製造されたと言ったな』
「言いましたね」
『そのような自動人形を所有する貴殿はいったい……?』
「……私は『セオドア』殿を少しだけ知っています」
『なんと!? その名は……『セオドア』という名は、私の製作者様と同じだ』
「やはり『ファースト』はセオドア殿が作った魔導頭脳でしたか」
『アーノルト殿、貴殿は……』
ここで、アーノルトは正体を打ち明けることにした。
これについては事前に打ち合わせてあったのだ。
「私は『魔導大戦』当時の技術者です」
『なんと……いや、やはりと言うべきか……それが、どうして現代に?』
「制御核に自我を保存しておいたものを、ジン殿によって自動人形のボディに移してもらったのですよ」
『そんなことが……』
「可能なのですよ」
『…………』
『ファースト』は情報をどう処理しているのか、10秒ほど無反応となった。
そして十数秒後。
『なるほど、やはり『魔法工学師』が今の時代では最高峰か。……ジン殿、いや、ジン様、私を貴殿の配下に加えていただきたいのだが』
「えっ」
「……やっぱりね」
「いいんじゃないかな」
仁が操縦している仁Dは一瞬面食らったが、ハンナDやアーノルトは当然、という顔をしていた。
「『強くなる』ならおにーちゃんの下に付くのが一番だもんね。論理的だよ」
「薄々そうなるだろうとは思っていました。レーコさんが出たからには特に」
『いかがだろうか、ジン様』
「いや、それは構わないが」
『絶対忠誠を誓う』
「うん、それは大事だ」
というわけで、仁の配下に魔導頭脳『ファースト』が加わることになったのである。
* * *
「さて、そうなると今後のことを考えてセキュリティやら設定やらをきっちり押さえておかないとな」
まずは『主人設定』を行うことになる。
これにより、『ファースト』は仁に逆らうことができなくなるのだ。
「『隷属設定』。設定1、命令権1位、二堂仁」
まずはこれでいい。
この後、老君や礼子、エルザや『ファミリー』メンバーを設定していけばいいのだ。
それよりも優先して仁Dが行ったのは『拡張基底命令』の設定である。
「基底命令が『強くなること』であるのは変えられない。そこで『拡張基底命令』を設定していく」
仁Dは少し考えてから、第一の『拡張基底命令』を設定した。
「まずは『主人の役に立つ強さを優先』だ」
「承りました」
これにより、仁が望まないことは行わないようになるわけだ。
「第2は『アルスの住民への貢献に役立つ強さ』としよう」
「承りました」
『アルス住民』としたのがポイントだ。
これなら『ファースト』が認識する『魔族』、現『北方民族』=『ノルド人』も含まれることになる。
「あとはこの『球形基地』をどうするかだな……」
元々は旧ディナール王国のものといえる。
つまり所有権はセルロア王国にあるわけだ。
主人となった仁がなすべきことはたくさんあるのだった……。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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