86-26 模擬戦での締め
『ラクシェ工房』が『光属性』の魔結晶を仕入れた先。
それはなんとウラウの町の『販売代理店』であった。
といっても、店舗自体はガイロフの町にある。つまり支店である。
「うーん、またしても『販売代理店』か」
ここまで事実が重なると、最早疑う余地はない……ように思える。
「しかし、おかしな名前の商店ですね」
『ラクシェ工房』の主、ランドウ・ラクシェが言った。
「『販売代理店』が店の名前なんでしょう? 普通なら○○販売代理店、とでもするんじゃないでしょうかね」
「それはそうかもしれませんね」
仁Dも、それは薄々……というより最初から思っていたことである。
とはいえ覚えやすいことは間違いない。他との差別化もできている。
そう考えたら、このネーミングは成功している……のかもしれない。
それはともかく、この『販売代理店』という組織が、意外と広がっていることにも驚かされた仁Dである。
(本格的に調査する必要がありそうだな……)
* * *
そしてそれは、老君も考えていた。
『御主人様、『販売代理店』の本格調査を行おうと思います』
「うん、やってくれ」
『承りました』
仁Dを操縦している仁であるが、この程度の返事は可能だ。
仁の了承を得た老君は、『第5列』および『忍部隊』の投入を決定した。
* * *
一方、仁Dは、訪問した用事が済んだのでほっとしていた。
そしてそれは工房主のランドウ・ラクシェも同じだったようだ。
「ありがとうございました、ジン殿」
「いえ、素早い対応、感服しました」
「そう言っていただけて光栄です。……ところで」
「?」
仁Dからの言葉に喜色を浮かべたランドウだったが、その顔をすぐに顰めたのである。
そしておずおずと口を開く。
「あの……大変不躾なお願いなのですが……」
「なんでしょう?」
「その……あの……」
「どうぞ、遠慮なくおっしゃってください。無理なら無理と断りますから」
「はあ……それでは……」
しかし、やはりなかなか話を切り出さない。
もう一度仁Dがせっつくと、ようやくランドウは口を開いた。
「そのですね、レーコ嬢の……実力の欠片をお見せいただけないか、と思いまして」
「は?」
「……可憐な自動人形なのに、世界最強と言われる性能。私どもの目標も『世界最高』です。あくまでも目標ですが」
「はあ」
「そのモチベーション維持のためにも、自分たちが目指すものの高さを知りたいのです」
「それは……簡単なものでしたら構いませんが」
「おお! ありがとうございます!!」
「ありがとうございます!!!」
応接室の外からもお礼の声が聞こえた。
見れば、職人たちが部屋の外でお辞儀をしているではないか。
「外で聞いていたと見えます。仕方ない奴らですね」
工房主ランドウ・ラクシェは苦笑を浮かべたのである。
* * *
工房裏にはテニスコート2面ほどの広場があった。
ゴーレムの試運転や魔導具のテストを行うための場所だということである。
「では、せっかくですので我らのゴーレムと模擬戦をしていただけますか?」
「いいですよ。……いいな、礼子?」
「はい、問題ないです」
「では、こちらは最新型の戦闘用ゴーレム、RR27型です」
RR27型は、身長2メートルほど。体格はゴツく、パワータイプに見えた。
「格闘戦ですか? それとも武器を?」
仁Dの質問にランドウは、
「格闘戦にいたしましょう」
と答えた。
「わかりました。礼子、いいな?」
「はい」
「破壊は極力なし。3秒間背中が地面に付いたままなら負けとしましょう」
「いいですね」
レスリングみたいだなと思いながら仁Dは承認した。
「それでは双方、用意。……始めっ!」
非公式の、それも模擬戦なので気軽に開始された。
が、内容はちょっと見られないほど濃い。
礼子のパワーは5パーセント。
今の礼子なら、大抵のゴーレムを一対一で圧倒できる出力である。
そして、おそらくRR27は8割ほどのパワーで、2者はぶつかりあった。
といっても体当たりではない。
まず礼子が、小柄な体格を生かして足払いを掛けた。
RR27はバランスを崩すが、危なげなく立ち直る。
そこへ、背後に回り込んだ礼子が飛び蹴りをかまして追撃。
だがRR27はそれを避けた。
しかし、無理な避け方をしたので今度こそ体勢を崩す。
その隙を見逃さず、礼子は更に頭部へ向けて回し蹴りを繰り出した。
RR27は右腕でそれを受け止めたものの、ついに転倒。
だが、自ら転がって距離を取り、すぐに立ち上がったのである。
「なかなかやりますね」
仁Dが褒めると、ランドウは嬉しそうに微笑んだ。
「おそれいります」
だが、仁Dを操縦している仁は、礼子に内蔵魔素通信機で指示を出した。
『礼子、10パーセントだ』
『はい』
これが戦闘なら20パーセント、30パーセントを許可し、一気に片を付けるのだが、今回は模擬戦である。
程々の勝利を目指すつもりの仁であった。
「おお? レーコ嬢の動きが変わった?」
「出力を上げました」
目で見ても明らかに動きが違うようになった礼子。
出力が上がったため、速度もまた上がったのだ。
その動きに、RR27は完全に付いてこられなくなっていた。
速度でRR27を翻弄する礼子は、その隙をうかがっていた。
背後に回りこみ、膝裏を軽く蹴りつければ見事な『膝カックン』となる。
当然RR27は背後に倒れ掛かる。
礼子の狙いはそれであった。
仰向けに倒れるRR27。だが、背中を付けないよう、身体をひねりながら倒れていく。
それを礼子は背後で受け止め、首を抱え込んだ。
そしてRR27が身体を捻った向きに更にひねる。『首投げ』だ。
といっても、プロレスや相撲でいうようなものではなく、文字どおり『首を持って』投げる技である。
人間相手にこれをやったら、おそらく首の骨が折れる。
が、ゴーレムなら平気だ。
それを見越しての技であった。
地響きを立ててRR27が投げつけられた。
その背中は完全に地面に付いている。
そして、投げた衝撃で地面にかなりめり込んだため、起き上がるのに3秒ほど掛かってしまう。
つまり、礼子の勝ちであった。
「おおお、これがレーコ嬢の実力……すばらしい! ジン殿、レーコ嬢、わがままを聞いていただいて感謝します」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!!」
職人たちもこぞって礼を言う。
「私どもの目指す頂は遥かに遠いことがわかりました。ですがそれ故、これからもたゆまず努力していこうと思います」
「頑張ってください」
仁Dとランドウ・ラクシェは握手を交わしたのである。
* * *
是非泊まっていってくれと引き止めるランドウ・ラクシェや職人たちを振り切り、仁Dと礼子はガイロフの町を出た。
そこで待っていた『ハリケーン』に乗り込み、蓬莱島を目指す。
翌22日はアーノルトたちとの作戦なのだから……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220413 修正
(誤)そしてそれは工房主のラクシェ・ランドウも同じだったようだ。
(正)そしてそれは工房主のランドウ・ラクシェも同じだったようだ。
(誤)目で見ても明らか動きが違うようになった礼子。
(正)目で見ても明らかに動きが違うようになった礼子。




