86-24 僅かな手掛かり
ホープと老君の話し合いは3分ほど続いた。
内蔵魔素通信機での通信は非常に密度が濃く、老君は瞬時にホープからの情報を受け取り、解析した。
一方で『魔素通話器』での通話は時間が掛かるため、見かけの通話時間は3分という数字となったのである。
「……以上です」
『わかった。同行するものは2名だな。相談し、追って連絡する』
『魔素通話器』での通話は、仁の口調に似せている老君であった。
「わかりました」
ホープは『魔素通話器』のスイッチを切り、これで通話は終了した。
「返事が来るまで、ここで待ちましょう」
「それで構わない」
ホープも『スポークス』もゴーレムなので、ただじっと『待つ』ことは苦にならない。
連絡が入るのを待つ2体であった……。
* * *
『御主人様、お聞きのとおりです』
「うん、全員『分身人形』で行けばいいわけだが、俺以外の2人は誰にしよう?」
『1人はアーノルトさんがよろしいのでは』
「ああ、そうだな」
アーノルトは『魔導大戦』当時の技術者であるから、もしかすると『魔導頭脳ファースト』も知っている可能性がある。
それが事態を動かすかもしれない。
お供もチェルがいるので問題ない。
「もう1人はどうしようか。ロードトスやフィリシャスはやめておいたほうがよさそうだな」
『はい、御主人様』
『魔導頭脳ファースト』が彼らを敵とみなす可能性が大である。
同様に、シオンやマリッカ、ロロナも対象外。
『変わった知識というなら、サキさんやグースさんがいいかもしれませんね』
「ハンナはどうだ?」
『よろしいかと』
どのみち『分身人形』で行くのだから、本人に危険が及ぶことはないわけだ。
ハンナが『ファースト』とどんな話をするのか、ちょっと興味のある仁である。
『その場合、お付きはどうしますか?』
「そうだな……アンにしよう」
『よろしいかと』
アンもまた『魔導大戦』時の自動人形であるから、『ファースト』と何らかの関わりがある……かもしれないと仁は思っている。
とにかくこれで、『魔導頭脳ファースト』に会いに行くメンバーが決まったのである。
『御主人様、移動はどう致しますか?』
「そうだな、『ハリケーン』ではなく『タウベ改』で行くか」
ホープが『タウベ’』なので仁たちも同シリーズの『タウベ改』で行くことにする。
どのみち、転送機で一気に目的地近くまで移動するので問題はない。
「あ、ハンナとアーノルトに声を掛けないとな」
『もう手配済みです』
「そうか。で、返事は?」
『はい。ハンナさんは大乗り気でした。アーノルトさんも、休暇を取って来るそうです』
「よし」
そういうわけで、アーノルトとチェルは翌日蓬莱島に到着することとなる。
ハンナもそれに合わせてヘールからやって来ることになった。
そして移動に要する時間を考慮し、集まった半日後に現地へ到着するスケジュールで行動することとなったのである。
* * *
「はい、そうしますと明後日到着になりますね。お待ちしております」
ホープにもその旨は連絡された。
「お聞きのとおりです」
「うむ、わかった。では、それまで待とう」
ゴーレムは無為に待つことも苦にならない。
ホープと『スポークス』はその場で待機を始めたのだった。
* * *
22日から24日までの休暇届を出したアーノルトは無事受理された。
「それじゃあ今日の残り時間は『トモシデ・ヨダ』たちのゴーレムを再検査しよう」
『新技研』室長として、メンバーに指示を出す。
もちろん、接収した際にひととおりの検査はしており、何の異常も問題も発見されなかったのだが、『バックドア』については調べていなかったのである。
「今回は『バックドア』の有無だけだから時間は掛からないだろうが、きっちりと調査するように」
「わかりました」
全員で手分けしての検査は1時間で終了。
結局『バックドア』は発見されず、『アヴァロン』の安全は保証されたのであった。
* * *
そして同じ頃、もう1つの懸案事項を手掛けていた老君は、ついに一歩前進していた。
『これですね。……セルロア王国リーバス地方、ウラウ行き』
ミツホ製の染料の送り先の1つに、そんな記述があったのだ。
ただ、購入者の名前までは記されていなかった。
だがこれで、調査範囲が相当に絞られたことになる。
『ウラウの町で、ミツホ製の染料がどこかで使われているということでしょうから』
僅かな可能性として、ウラウの町からまたどこかへ送られた可能性であるが、それは運送系商店の帳簿を調べればわかる。
そういうわけで、老君は再び帳簿の調査に取り掛かったのである。
そして、こちらは比較的楽に発見。
『むむ……マオリクスの販売代理店が購入……用途未記入、ですか』
これでまた1つ、店長マオリクスに対する疑いが深まったことになる。
『ですが、マオリクスが誰かに操られている可能性もあるわけですよね』
それに関しては『覗き見望遠鏡』では無理なので、そばにいる『エリカ』に任せよう、と考えた老君であった。
* * *
その販売代理店店長のマオリクスは、エーゲの町を発ったところである。
ペギー・ゼノスは同行していない。
今回の『罠』が意味をなさなかったことから、マオリクスと別行動することにしたのである。
(店長さんが一味でないという証拠はまだありませんからね)
先入観なしに判断して出した結論である。
経験は浅いが、判断力は確かである。
その様子を見たゼーガ・ランバンは、この後輩の評価を上げた。
(うむ、正解だ。……俺はマオリクスの監視を強めよう)
そしてゼーガ・ランバンはエーゲの町を後にする。
ペギー・ゼノスはこの日1日、調査のためにエーゲの町に滞在する予定であった。
『アヴァロン』と蓬莱島。
真実にたどり着くのはどちらが先か……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220411 修正
(誤)『ゴー研』室長として、メンバーに指示を出す。
(正)『新技研』室長として、メンバーに指示を出す。
(旧)『これですな。……セルロア王国リーバス地方、ウラウ行き』
(新)『これですね。……セルロア王国リーバス地方、ウラウ行き』




