86-21 仁Dの出馬
さて、『手掛かり』はもう1つある。
ウラウの町で3秒間停止した、というゴーレムだ。
『これについては……『エリカ』では無理がありますね』
猟師、という顔を持つ『第5列』デネブ15、エリカ。
そんな彼女がいきなり『ゴーレムの検査をさせてください』と言っても信用されないだろうし、胡散臭すぎるというもの。
『ここはネームバリューを考慮したほうがよさそうですね……御主人様にお願いしましょう』
そういうわけで、老君は仁に出馬を願ったのである。
* * *
「もちろんいいぞ」
仁としてもこの事件は気になっていたし、早めの解決が望ましいと思っていたので、二つ返事で引き受けた。
エルザも状況は知っているから、ゴウやルビーナ、メルツェのことは安心して任せられる。
ゴウたちもまた、多少なりとも(『アヴァロン』で知られている程度には)事情を知っているので、土産話を頼まれた程である。
* * *
礼子を連れ、『転移門』で蓬莱島に移動した仁は、『分身人形』を起動した。
「さて、ウラウの町へ行くのはいいんだが、何をしに来たと言うべきかな?」
『はい、御主人様、そこははっきりと『調査』となさるべきかと』
「調査か」
『はい。先日、『魔導頭脳ルーベル』の件がありましたので、その事後調査ということにすればおかしくはないと愚考いたします』
「よし、それでいこう」
老君の案に従い、仁は仁Dをウラウの町に送り込む。
乗り物は『ハリケーン』だが、専任操縦士のホープがいないので、代わってスカイ1が操縦士を務めてくれた。
* * *
移動時間の短縮のため、『ハリケーン』はウラウの町の上空まで転送機で移動し、郊外に着陸。
仁Dと礼子は徒歩で町へと向かった。
途中で、偶然を装って『デネブ15』エリカが合流。
仁Dと礼子を町へ案内する役目だ。
折から現地時間はお昼時、昨日エリカがゴーレムの3秒停止という話を聞いた食堂へと案内していく。
「こんちは」
「おやエリカじゃないか。昼に珍しいね」
「うん、今日はお客さんを連れてきたよ」
「それはそれは、ありがとう。……いらっしゃいませ!」
食堂は、昼は女将さん、夜は旦那さんがメインで切り盛りしている。
今は女将さんが店に出ていた。
「何にいたしましょう?」
「ここのおすすめは『おまかせランチ』ですよ」
エリカがアドバイスをする。
「それじゃあ、それを2つ」
「私もね」
「はい、お待ち下さいねー」
* * *
エリカに勧められた『おまかせランチ』はなかなかのものであった。
鳥の胸肉のソテーはコショウが効き、ガリク(ニンニク)の香りもよかった。
そこにニンニクの臭いを緩和するといわれるアプルル(りんご)ジュースが付く。
添えられた小さなコッペパンもふんわりと焼けていて美味であった。
「ごちそうさま」
「……あ、それで女将さん、この人はゴーレムの停止の原因を調べに来たんですって」
「へえ? えらい技術者の方なのかい?」
「まあそれなりに。ジンと申します。どこへ行けばそのゴーレムがあるのか、教えていただけますか?」
「隠すもんじゃないしね。2体は町長さんのところ。1体はナントカ商会で、あとは……知らないかな」
ナントカ商会ではわからないので、エリカが助け舟を出した。
「ナントカ商会……リーマス商会?」
「ああ、そうそう。そうだったよ」
「わかりました。情報ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございましたー」
チャキチャキした女将さんに見送られ、仁たちは食堂を出た。
そのままエリカは町長の家まで案内していく。
「ここがそうです」
「ありがとう。ここでいいよ」
「はい、それじゃあ」
初対面のエリカがこれ以上仁たち(仁Dたち)と行動を共にするのも不自然ということで、同行はここまでである。
「さて、町長はいるかな」
「はい、聞いてみます」
町長宅はやや大きめではあるが普通の(ウラウの町として)家屋であった。
礼子はノッカーを鳴らす。
「はい、どちらさまでしょうか」
執事か家宰と思われる初老の男性が出てきて仁Dたちに尋ねた。
「私は『今代魔法工学師』のジン・ニドーと申します。先日、3秒間ほど一時停止したゴーレムがこちらにあると聞きまして、調べさせていただけないかと伺いました」
「これはこれは、魔法工学師のジン・ニドー様でしたか。お噂はかねがね。ただいま主人に確認してまいりますので、少々お待ち下さい」
と言って執事か家宰らしき男性は奥へ引っ込んだ。
そして1分ほどで戻ってくる。
「どうぞお入りください」
「それでは、お邪魔いたします」
仁Dと礼子は中に招き入れられた。
そして応接間に通され、侍女がお茶を出した、そのタイミングで町長らしき人物がやって来る。
「ああ、そのままお座りください、ジン・ニドー殿。私はこのウラウの町の町長を務めておりますエイゾウ・イラチオと申します」
「ジン・ニドーです。今代の『魔法工学師』です。この子は礼子、自動人形です」
「おお、やはりそちらがレーコ嬢ですか、お目にかかれて光栄です」
どうやら町長は礼子の名前も知っているようで、会えたことに感激していた。
そうした挨拶が済むと、町長は仁Dたちの対面に腰を下ろす。
「家宰のセチアから聞きましたが、先日ゴーレムが誤動作した現象を調査なっているとか」
「はい、そうなんです。食堂でそうした話を耳にしまして」
「もう噂になっているのですね。……そうでしょうな。ちょっとした騒ぎになりましたから」
「なにかあったのですか?」
「ええ、実は……1体は馬車の御者をやっている時に停止しまして、3秒後に復帰した時には馬車が横転して露店を壊しました」
「ああ……それは……」
「もちろん弁償しましたがね」
何かの仕事を遂行中に3秒間も停止したら弊害が出るのは当たりまえだな、と仁Dも納得である。
「もう1体はまだマシでして、荷物を運んで歩いている最中に止まったものですから、後ろから来た人がぶつかりまして」
「ああ……」
「そんなわけで、多くの人がゴーレムの一時停止を知っているんでしょうなあ」
「なるほど、わかりました」
仁Dも事情を知って少し同情したのであった。
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