86-19 一歩前進
5月21日、『アヴァロン』では、デウス・エクス・マキナ3世がトモシデ・ヨダたち全員を集め、話し合っていた。
「君たちが生活費を稼ぐために製作、販売していた『制御核』について聞きたい」
「はい、何でも聞いてください」
トモシデ・ヨダは協力的である。
「まず、使用した『魔結晶』は、どこから手に入れた?」
「仕入れを担当したスージン・シデンが購入してくれたものです」
「はい、私が仕入れました」
「仕入先は?」
「ええと、ウラウの町の代理店に頼みました」
「販売代理店か?」
「そうです」
販売ルートと仕入れルートが同じである、ということがわかった。
更にマキナは質問を続ける。
「今まで何個くらい販売したかわかるか?」
「はい。ええと、大体150個ほどです」
「買い手が誰かわかるか?」
「いえ。それは代理店に任せましたので」
「なるほどな。……もう1つ。……光属性の魔結晶を購入した理由は?」
「それは、制御核用には光属性がよい、と教わったからです」
「ほう」
それは、仁がその昔、700672号……『長老』ターレスから示唆された概念を元にして達した結論である。
そうした教えは、『ファミリー』からその子孫、弟子へと伝わったようだ。
「全属性は確かに扱いやすいですが、高性能な制御核には魔力周波数特性の高い光属性がいいという理由ですね」
トモシデ・ヨダが答えた。
「それは正しい。だが、一般向けに販売するなら全属性でもよかったのではないのか?」
「ええ、そうなんですが、どういうわけか、光属性の魔結晶の方が安価に手に入りまして」
「何……」
ここでまた新しい事実が判明した。
「そうだったのか。代理店側の仕入れの担当者は何という?」
「店長のマオリクスさんです」
「……そうか」
それからも2、3の質問をし、マキナは満足して話し合いを終えたのだった。
* * *
『またしても販売代理店ですか……』
マキナの質問会をリアルタイムで傍聴していた老君は考え込んだ。
『こうしてみると、店長のマオリクスが怪しいと言わざるを得ませんね』
販売ルート、仕入れルート共に関わっており、光属性の魔結晶をトモシデたちに供給したのも彼だ。
『仮に、既に『バックドア』を刻みこんである魔結晶を制御核として加工することは可能なのでしょうか……』
これに関しては、老君でも明確な結論を出せなかったので、ロイザートにいる仁に確認を取ることにした。
『どうした、老君?』
折から仁はロイザートの屋敷にある工房を片付けていたようで、『仲間の腕輪』を通じてすぐに応答があった。
『御主人様、お忙しい中、ご確認いただきたいことがあります』
「うん」
そして老君はマキナが確認した内容を仁に告げた。
『なるほどな。……うん、無理だと思う』
仁は、あらかじめ『バックドア』を刻み込んだ魔結晶に後から制御核としての書き込みをした場合、刻む箇所が定まらない、と言った。
そのため、『バックドア』が働かなかったり、魔導式同士が干渉しあって制御核として成立しないこともあり得る、と説明。
『なるほど、そうしたリスクがあるわけですね』
『そういうことになるな』
『だとすると、納品時の魔結晶は何も手を加えられてはいない、ということですね』
『だと思うぞ』
『ありがとうございました、御主人様。そうなると出荷のために販売代理店へ送った後に『バックドア』を仕込まれたということになりますね』
『そういうことになるな』
老君は、仁との通信はそこで終わりとした。あまり仁のプライベートな時間を邪魔してはいけないと判断したからだ。
『販売代理店……『魔導頭脳ユーベル』の事件の際、店員がさらわれたのは完全に別件であり、店長のマオリクスとしても想定外だったのでしょうね』
だから普通に慌て、店員の安否を心配した、というわけだろうと老君は当時のマオリクスの心理を想像した。
『あの時は被害者だったわけですからね』
しかし、別の視点から見ると、犯罪者なのかもしれないのだ。
『……デネブ15には知らせておいたほうがよさそうですね』
* * *
「……はい、わかりました」
圧縮データ通信なので、0.2秒ほどでデータを受け取ったデネブ15。
その後データを展開し、確認するのに1秒ほど掛け、返事をした。
「結局、あの店長が怪しい、ということですか。だとすれば、今回送っている魔結晶が罠だと彼にはわかっているわけですから、何の手出しもしないことは頷けますね」
ようやく、真実に1歩近付いたようである。
* * *
さて、販売代理店の宿舎に泊まったペギー・ゼノスは行き詰まっていた。
「……ここが発送の中心となるようですね……ここから各国へ、またお客さんへ送られていくわけです……ここから先で細工するというのは非効率的ですよね……」
送り先は無数にある(個人の客を含める)のだから、それら全部、あるいは一部に細工をするというのはあまりにも効率が悪い。
「そうすると、ここまでのどこかで細工をされているはずですが……今回は何ごともなかったですしね」
どうにも手掛かりがない、と悩むペギーであった。
* * *
『裏』担当の『世界警備隊』情報局局員、ゼーガ・ランバンもまた、何の成果も上がっていなかった。
「何とも不思議なことだな……」
経験上、何も引っ掛かってこないというのは、『何も怪しいことがない』ということである。
しかし、現に『バックドア』の仕込みがなされているという矛盾。
ベテランといっていいゼーガ・ランバンであったが、今回は途方に暮れていた。
* * *
『第5列』のデネブ15、通称『エリカ』は、『世界警備隊』のサポートのためにここにいる。
だが、どうやって彼らに販売代理店店長マオリクスが容疑者であることを伝えるか。
非常に難しいミッションであった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220406 修正
(誤)4月21日、『アヴァロン』では
(正)5月21日、『アヴァロン』では




