86-17 三者三様の調査
『世界警備隊』情報局局員のペギー・ゼノスと販売代理店の店長マオリクスらは昼食を終えたあと、駐馬車場に戻ってきて馬車と積み荷を点検した。
「どうやら何も起きなかったようですね」
「そうみたいですね」
そして午後1時、ペギーとマオリクスは何事もなくマトレの町を出立した。
目指すエーゲの町までは30キロ弱、馬車でゆっくり進んで2時間といったところだ。
舗装されてはいないが、しっかりと固められた路面は凹凸も少なく、乗り心地は悪くない。
だが、時速15キロでの走行は、『アヴァロン』でゴーレム自動車に乗り慣れているペギーにとっては遅すぎた。
「眠くなりそうです……」
「いろいろとお忙しいようですからね。仮眠を取られてはいかがですか? 私のことでしたらお気になさらず」
「いえ、仕事ですからそういうわけにも参りません」
そういうわけで2時間の間、ペギーは睡魔と戦い続けたのであった。
だがそのおかげで、道中何事もないことを確認できたのは間違いない。
* * *
さて、ペギー・ゼノスが『表』の調査員なら、『裏』の調査員もいるわけである。
ゼーガ・ランバン。ペギーと同じく『世界警備隊』情報局局員であるが、彼は『裏』の仕事を受け持っていた。
『裏』といっても非合法なことを行うわけではない。『人知れず』活動する、というくらいの意味である。
そのゼーガ・ランバンはペギー・ゼノスに知られることなく、彼女と並行して活動していた。
「うーん、ウラウの町には怪しいところはないようだな……」
独自に行動している彼は、配送業関係を調べていったのだが、特に怪しいところはなかった。
ペギーが訪れている代理店にしても、聞き込みによれば店員の待遇は普通で、ここ2年間辞めた者はいない。
経営状況は良好で、ウラウの町では優良企業といっていいだろう。
「細工をされたとすれば、店の預かり知らぬ所でだろうな」
そう判断したゼーガは、ペギーたちよりひと足早くウラウの町を出、街道を調べながらマトレの町を目指した。
「道にも怪しいところはないな……」
ペギーが見ないようなポイントを重点的に確認しつつ、ゼーガはマトレの町に向かった。
* * *
そしてもう『1人』、同じようなルートで調査を進めている者がいた。
『第5列』のデネブ15、通称『エリカ』である。
普段は猟師をしているということになっているが、この日は村娘の格好をしてウラウの町を調べて回ったのである。
もちろん、『第5列』としての機能である探知系を総動員して、である。
その結果、ウラウの町には、『裏稼業』にあたるような仕事をしている人種はいないという結論に達したのである。
そして徒歩で街道脇を北上、マトレの町を目指す。
『脇』というのは、街道を少し離れた道なき道を進んでいるということ。
この時には『猟師』の服装になり、手には弓矢を持っていた。これなら見咎められても猟師だから、で説明できるだろう。
もっとも、着ている服は『地底蜘蛛糸』で織られた服なので、木に引っ掛けようが石で擦ろうがびくともしない。そんな猟師は他にはいないだろう。
街道脇になにか仕掛けがあるかと探知を繰り返しながらの移動。
が、特に何も見つからないまま、マトレの町に到着したのである。
マトレの町には何度も猟師として獲物を卸しているので、顔見知りも多いエリカだった。
その1つである食堂に勝手口から顔を出す。
「こんちは」
「やあ、エリカ、今日はなんだい?」
「山鳥を3羽獲ってきたわ」
ちなみに、この『山鳥』は鳥の種類ではなく、『山の鳥』くらいの意味である。
脂身が少なく、あっさりしていて好むものは多い。なので食堂では歓迎されるのだ。
「お、3羽で500トールでどうだ?」
「それでいいけど、お昼は只にしてよね」
「しっかりしてやがるな。それでいいぞ」
「ありがと」
そんなやり取りをしたエリカは山鳥を店主に渡し、表から店に入る。
昼食時には少し早かったので、店内はがらんとしていた。
「最近来なかったな?」
「ええ。セルロア方面で猟をしていたのよ」
「あっちでか。何か面白い話はあるかい?」
「そうねえ。そういえば、フレクの町で何かゴタゴタがあったみたいね」
「ああ、そういえばそんな話を聞いたな。……ほらよ、日替わりランチだ」
「ありがと」
このゴタゴタとは言うまでもなく『魔導頭脳ユーベル』の一件である。
国境を挟んでフレクとマトレはすぐ隣なので噂が伝わるのも早かった。
「そのゴタゴタね、なんでもゴーレムやら魔導頭脳やらが関わっていたってさ」
「へえ」
「『デウス・エクス・マキナ』が関わったって話よ。……このソテー、美味しいわね」
「ありがとよ。そういや、こっちでも……」
「こっちでも……何?」
「いや、変なことがあったんだよ」
「変なこと?」
「ああ。この町にも何体かゴーレムがいるんだが、そいつらが3秒くらい停止したらしい」
「大丈夫だったの?」
「その後は何ごともなく動いていたって言うから、大丈夫なんじゃないか?」
「そう」
これは初耳であった。
もちろん老君にはリアルタイムで伝えられている。
* * *
『3秒間の停止……妙ですね』
通常の構成のゴーレムなら、そのような誤動作をするはずはないのである。
『そのゴーレムも『バックドア』付きで、何か影響があったのでしょうか……それもおかしいですしね』
『バックドア』が仕込まれていたにしても、そのタイミングでその動作はおかしい、と老君は判断した。
『そのゴーレムを特定し、制御核を調べてみたいですね』
老君は今後の予定にそう記録したのだった。
* * *
さて、同日夕刻、ペギー・ゼノス、ゼーガ・ランバン、エリカと、3者が互いをそれと知らずにエーゲの町に集まったわけである(もっともエリカはペギーとゼーガのことを知っている)。
この町で手掛かりが見つかるのだろうか……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220404 修正
(誤)『世界警備隊』』情報局局員のペギー・ゼノスと
(正)『世界警備隊』情報局局員のペギー・ゼノスと




