86-16 調査行の行方
『仁ファミリー』の面々が知恵を絞ったものの、最終的な解決には至れなかった。
「結局、『バックドア』を仕込んだ目的はわからずじまいか」
「ジン兄、それは、しょうがない、と思う。データ不足」
「それはそうだな」
ここで話は一段落。
すかさずチェルが話題を転換する。
「先程のお話ですが、『基底命令』が抽象的にすぎると、行動が制限されてしまいます」
アーノルトの自動人形、チェルが言った。
彼女もまた、『人類への貢献』という抽象的な『基底命令』を受けていたため、『拡張基底命令』を自らクリエイトしたのである。
「チェルの言うとおりだ。『ファースト』を作ったのが『セオドア』だったとすれば、抽象的な『基底命令』だけを与えたとは到底思えない」
このメンバーの中では最も『セオドア』のことを知っているアーノルトが言った。
「なら、なぜそれをホープに隠したのか?」
「気が付いていて、あえて隠したのかもしれないよ」
仁が疑問を口にすると、アーノルトがそれに対し答えた。
「『今のままでは永久に終わらない無限ループに陥る可能性が大だ』と自ら危惧している。危惧できるなら対処もできるだろう」
「アーノルトの言うこともわかる。だが対処する能力がない可能性は?」
「0じゃあない。だが、よりありそうなのは、ホープを試したのではないかな?」
「なるほど、ありうる話だな」
こうして、『仁ファミリー』による話し合いは続いていく。
「くふ、これでこそ『ファミリー』だよね」
そして、今回のパーティの主役であるサキはその様を誇らしく思い、笑って見つめていたのである。
* * *
同日、『世界警備隊』情報局局員のペギー・ゼノスは、販売代理店の店長が広げた地図を眺めながら説明を聞いていた。
「荷物は国境を越えてクライン王国に運びます」
「なるほど、最寄りの大都市ということですね」
「そうです。マトレ、ロイトを経てエーゲの町に本店があるんです」
どうやら、この販売代理店は国をまたいで経営されているようだ、とペギーは悟った。
そういった企業・商店はいくつもある。特に『世界会議』が成立して以降は増加傾向にあった。
クライン王国とセルロア王国間の関税は5パーセント(食料を除く)で、セルロア王国内の大都市まで運ぶ運送費よりも安かったのである。
「とすると、クライン王国が怪しいかもしれませんね……」
思わず口にしてしまうと、店長はそれを聞きつけ、力いっぱい否定した。
「とんでもない! 私どもの商会は不正などしておりません!」
「いや、あなた方を疑っているのではありません。可能性は全て考慮しているだけです」
「……わかりました」
「ですので、ご協力をお願いします。もし、外部から何者かが荷物に手を加えるとしたらどこになりそうですか?」
「……そうですね……先程申し上げた、国境を越えた先にある『マトレ』という町でしょうか」
「そこに何が?」
「あ、エーゲの町までは一日行程なのですが、ちょうどそこで大休止を行うのです」
「なるほど、ちょうど昼食を摂るのによい町なのですね」
「そういうことです。ですので、積荷に細工をするならそこではないかと。……もっとも、私どもも積荷は厳重に管理しているのですが」
店長は、できればこの件は公にはしないで欲しい、と言った。
間違いだろうと真実だろうと、商人にとっては信用を落とすのは大打撃だから、と。
「わかりました。できるだけの配慮はしましょう」
「ありがとうございます」
ペギーとしても、調査のためにまだこれ以降も協力をしてもらわなければならないので、その申し出を受けざるを得なかったのである。
「ですが、調査の結果、積荷に手を加えられていたなら、何らかの罰則もしくは叱責があると思ってください」
「……致し方ありませんね」
「そういうことです。まあ、管理の改善を要求され、始末書の提出を言い渡されるのは間違いないでしょう」
逆に、捜査に協力してもらえれば刑罰も軽くて済むだろう、とペギーは請け負ったのである。
* * *
ペギー・ゼノスと店長は、馬車でセルロア王国——クライン王国の国境を越え、マトレの町を目指していた。
マトレの町は、セルロア王国とクライン王国の国境線とほぼ並行して西……フランツ王国方面へ伸びる街道の、東の外れである。
その佇まいは、典型的な地方の町。
村が大きくなったので『町』と称するようになった、そんな雰囲気だ。
ゆえに、区画整理もされず、新旧・大小の建物が混在する、雑多な町並みがそこここに見られる。
建築の特徴としては、少雨気候のため軒や庇が小さめである。
とはいえ、セドロリア湖から流れ出る川が近いため水に不便はしていない。
そして町中の道は、大通りを除き曲がりくねったものが多い。
そんなマトレの町にペギー・ゼノスと店長……マオリクスは正午、店の馬車で到着した。
店の馬車にはダミーの『制御核』が5個積んであり、『アヴァロン』宛の便、という触れ込みであった。
「いつも、ここに馬車を預けます」
店長マオリクスはペギーにそう説明しながら、店の馬車を町中の駐馬車場に預けた。
中規模の駐馬車スペースがあり、馬に与える水や飼い葉も充実しているあたり、環境はよさそうである。
「そして、休憩は1時間。その間に食事をしてくることになります」
そういうわけなので、ペギーとマオリクスは近くの食堂へ入った。
「食事は正味30分くらいですね。あとは馬車のそばでのんびりしますよ」
「その間、馬車にはお店の方は誰も残っていないのですね?」
「はい」
それではすり替えや細工を行われても気が付かないかもしれないな、とペギーは考えた。
「駐馬車場に預けている間、積荷である魔結晶に最も細工しやすいのは誰でしょう?」
「駐馬車場の管理人やその部下でしょうね。ですが長年利用していますが、大きなトラブルもなく、いい店ですがねえ」
「それでも、仕事なので一応疑って掛かる必要があります」
* * *
そして当然、その様子は老君が『覗き見望遠鏡』で観察している。
『今のところ、怪しい点はありませんね……この町ではないのでしょうか』
とはいえ、どんな予期せぬことが起きないとも限らないため、念には念を入れ、観察を続けたが、今回は何も起こらなかったのであった。
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本日4月3日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
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20220403 修正
(誤)逆に、捜査に協力してもらえれば罰則も軽くて住むだろう、とペギーは請け負ったのである。
(正)逆に、捜査に協力してもらえれば刑罰も軽くて済むだろう、とペギーは請け負ったのである。
(旧)
「ですが、『基底命令』が抽象的にすぎると、行動が制限されてしまいます」
(新)
ここで話は一段落。
すかさずチェルが話題を転換する。
「先程のお話ですが、『基底命令』が抽象的にすぎると、行動が制限されてしまいます」




