86-14 仁ファミリーによる考察
『球形基地』の魔導頭脳『ファースト』は『バックドア付き制御核』の黒幕ではない可能性が大きい、と老君は判断した。
ならば、真犯人は誰で、どこにいるのか、となる。
『流通ルートの再吟味も進んでいますが、まだ発見はないのですよね』
もちろん老君はそちらにも手を回してはいたが、まだ成果は上がっていなかったのだ。
* * *
さて、日付は変わって5月20日。
サキの誕生日である。
「おめでとう」
「誕生日、おめでとう」
「サキ、誕生日おめでとう!」
「みんな、ありがとう!」
蓬莱島では誕生日パーティが行われていた。
花束以外、プレゼントの贈呈は行わず、お祝いのみのパーティーだ。
「いいのかな、今、仁は何か事件に対応しているんだろう?」
グラスを手にしたサキが、ちょっとだけ気まずそうに言った。
「大丈夫さ。今は一段落付いているし、重要な役目はホープがこなしてくれている。それにマキナや『アヴァロン』も動いているから。俺としては今は『待つ』段階なんだ」
「そうなのかい? それならいいんだけど」
何度目になるかわからない自分の誕生日を祝うより、事件の解決の方に尽力してほしい、とサキは言った。
「ありがとう……というのもなんかおかしいけど、サキの気遣いに礼を言っておく」
「くふ、それでいいよ」
「それに、都合がいい点もあるんだ」
「へえ? なんだい?」
「『ファミリー』のみんなから意見を聞けるからさ」
「ああ、そうか」
『仁ファミリー』のメンバーは、それぞれが一家言あるようなエキスパート揃いである。
そんな彼らに、今回の騒動について意見を聞いてみたかった仁なのである。
ちなみに、普段はヘールにいる彼ら1人1人に意見を聞いて回ることはできる。
が、全員が揃っていると、他者の意見が参考になり新たな意見が出てくるという好循環が起きるので、できるだけ全員が揃っている場で聞いてみたかったのだ。
「くふ、『制御核』に樹脂をコーティングして刻んだ魔導式が見えないようにする、って手口は面白いね」
「そう思うかい?」
「うん、思うよ。それをエイラさんがドジって加熱してしまって発見したっていうエピソードが微笑ましくていいね」
サキは笑いながらそう言った。
「サキがいいって言うなら……」
「興味深いとは思ったけど、遠慮していたんだが、サキが気にしないなら考えてみるか」
パーティの主役が乗り気なのを見て、皆も考えてくれるようだ。
「ボクとしては、その樹脂がどんなものか興味あるね。……わかっていることは『熱可塑性』であること、『魔力を通さない』こと、それに『屈折率や色が魔結晶とほぼ同じ』こと、くらいかな?」
「そうなるな」
「だとすると、『マギ系』素材ではないことがわかる」
「うん」
「マギ系ではない樹脂で『屈折率や色が魔結晶とほぼ同じ』ということは、天然樹脂ではないことはまず間違いない」
「なるほど」
サキは論理的に順を追って説明してくれる。
「とすると合成された樹脂ということになるが、『マギ系』じゃない樹脂って、ボクは開発していないからね」
「ああ、そうか」
ということは開発者がいるわけで、その者はかなりの『錬金術師』であると思うよ、とサキは結んだ。
「その樹脂も手に入ったら調べてみたいな。何かわかるかもしれないし」
「そうだな。手に入ったらすぐ教えるよ」
「うん、頼むよ」
「僕からもいいかな?」
今度はラインハルトである。
「ええと、魔結晶ではなく、『球形基地』の方についてなんだが」
と前置いてラインハルトは魔導頭脳『ファースト』についての意見を口にする。
「うん、聞かせてくれ」
「その魔導頭脳『ファースト』の『基底命令』なんだが、本当に『強くなること』なんだろうか?」
「ああ、それは俺もちょっと疑問に思った」
「だろう?」
「え? どういう意味なんだい?」
「わかるように教えておくれよ」
仁とラインハルトはわかり合っているが、そばで聞いていたグースやサキはよくわからなかったようで、2人に質問する。
「ああ、ごめん。ええとな、基底命令として『強くなれ』と書き込まれているとしたら、例えば『武力が強く』『意思が強く』ということはすぐ思いつく」
「うん」
「だが、デメリットになりそうな『我が強く』『欲望が強く』なんてことも同時に起きそうじゃないか、『何に』強く、と決めていないならね」
「ああ、確かにそうか」
「つまり、デメリットになる『強さ』もあるんだから、どうやってそれを選り分けているのか、ということさ」
「なるほどなあ」
「そういう意味で、『ファースト』が全てを語っていないか、あるいはかなり特殊な構成になっているのか……」
「それに関して、僕の意見を述べよう」
これはアーノルトである。
仁としても、『球形基地』についてはアーノルトの意見を聞きたかったのだ。
「大前提として、その『球形基地』は、まず間違いなく『魔導大戦』当時のものだね。つまり僕の時代だ」
「うん、やっぱりそうだよな」
「そして、僕はそんな基地のことはまったく知らない。つまり、僕がいた組織とはまったく別の組織で建造されたものだろうということだね」
「そういうことになるか」
「そして、その魔導頭脳を作ったのはおそらく『セオドア』という男だ」
「セオドア?」
アーノルトは頷いた。
「うん。僕と同時代の技術者だよ。2、3度意見を交わしたことがある。相当優秀な男だったな」
「そのセオドアという男が『球形基地』を作ったと?」
「基地そのものは別の技術者が関わっているかもしれない。でも魔導頭脳はそいつの可能性が高い」
というのも、セオドアは『強さ』至上主義だったから、とアーノルトは言った。
当時は『魔導大戦』という非常時だったので、その思想は軍部にとって好ましいものだったのだ。
「優遇もされたろうな。でだ。奴はもちろん無能じゃないから、単に『強くなること』という基底命令1つで済ませたはずはないと思う」
「つまり?」
「とっくに自己解決しているのに、ホープにはそう知らせてはいないということさ」
「狡猾だな」
「まあな。僕とは馬が合わなかったから、付き合いもしなかったし、絶対にそいつだ、とは言えないけどさ」
「いや、参考になった」
当時のことをよく知るアーノルトの意見は貴重なのであった。
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