86-13 確認の結果
ホープと『スポークス』は9階層目に来ていた。
「ここは?」
そこはそのフロアほぼ全部が、土に覆われていたのである。
ただし、乾燥して埃っぽい。
「畑だ」
「畑?」
「そうだ。ここに人間が住むことになった場合、食料を自給自足できるようにという思想で作られた」
「ああ、なるほど」
似たような考えはどこにもあるのだな、とホープは感じた。
「でも、人間が住むことはなく、従って畑は放置されているんですね?」
「そういうことだ」
水やりもしていないため、土は乾ききっており、埃っぽかったのだ。
「栽培時には明かりを使うのでしょうね?」
「そのとおりだ。太陽を模した照明が天井に取り付けられている。当然今は点灯していない」
「そうでしょうね。……作物の種はあるのですか?」
「保存はされているが、年月が経っているからな。発芽しないかも知れん」
「ああ、なるほど」
「人間がここを使う際に持ち込んでもらうしかないな」
「でしょうね」
そして2体は9階層を去った。残るは10階層のみである。
* * *
「10階層は大したことはない」
「どういうことですか?」
「未完成なのだ」
「未完成?」
「そうだ。拡張の余地を残している、と言ってもいい」
「なるほど」
物は言いよう、なのか……。
「いや、『満つれば欠ける』でしょうか……?」
「なんだ、それは?」
ホープの呟きを『スポークス』が聞き咎めた。
「どこかの国のことわざですよ。『満つれば欠ける』、つまり『建物は完成と同時に崩壊が始まる』といわれておりましてね」
「ほう?」
「ゆえに、『完成させなければ、永遠に崩壊を避けることができる』という俗信があったようです」
「ほほう……どこの国のものかは知らぬが面白い思想だな」
中学時代の仁が日光東照宮へ修学旅行に行った際に、ガイドさんから聞いた説明であった。
陽明門の柱の1部が逆になっており、これがその『未完成』の部分である。
蛇足ながら『満つれば欠ける』というのは月の満ち欠けのことを言っている。つまり、満ち欠けしない月のあるアルスでは、こちらは通用しないわけだ。
それはさておき、『スポークス』はホープの言葉に興味を持った。
「やはり貴殿は変わった知識を持っているな」
「そうでしょうか」
「そうだとも。……では、基地内の紹介はこれで終わりだ。一旦『ファースト』の所へ戻るとしよう」
「わかりました」
ここまでの見学で新たな謎も出てきたので、ホープとしても『ファースト』と話し合いたいと思っていた。
そこで、『スポークス』とホープは共に『ファースト』のある部屋へと向かう。
そのルートは、これまで歩いてきたものとは違い、専用の通路を使う。
「司令室へ向かう通路には、いろいろなトラップがあるんでしょうね」
「む? まあそうだな。あるのが当然だからな」
平然と答える『スポークス』。
が、ホープは、老君からの連絡で、大したトラップは設置されていないことを知っている。
せいぜいが出入り口扉の前に落とし穴があるくらいだ。
そういう意味でも、この『球形基地』は未完成なのである。
* * *
『やはり、未完成なのでしょうね』
『球形基地』の調査を終えた老君はそう結論した。
『以前の『移動基地』よりはマシですが、ところどころ機能が抜けているようですし』
『スポークス』が言及した『トラップ』にしても、床と天井にそれらしいスペースが空いているのだ。
電撃系や麻痺系の魔導機を仕込むのではないかと老君は想像している。
『いずれにせよ、『魔導大戦』末期で、完成させられなかったのでしょうね……』
となると、残る問題は、この『球形基地』もしくは魔導頭脳『ファースト』がアルス人類にとって害になるのかどうか、である。
『その点をこれからの対話の芯に据えましょう』
老君はその決定をホープに伝えたのだった。
* * *
『戻ってきたな、ホープ。感想を聞かせてもらおうか』
「そうですね、なかなかよくできていると思います。ですが、未完成な部分もあるようでしたね」
『そこに気付いたか。そのとおり。まだまだ完成してはいない。完成させるためにも知識や情報を欲しているのだ』
「でしょうね」
ここでホープは、今現在『アヴァロン』などで問題となっている事件について質問してみることにした。もちろん、それとなく。
「ところで、この基地内では『魔結晶』の追加工をやっていますか?」
『いや、やっていない。どうしてだ?』
『ファースト』は即否定した。
意外といえば意外な答え。ホープは0.5秒ほど考えてから理由を説明する。
「私が得た情報に、『制御核』に『バックドア』、つまり『不正にデータを抜き出すことのできる仕掛け』を仕込む何者かがいる、というものがあったことを思い出したのです」
『なるほど、それが我らだと思ったわけだな』
「そうです」
『それは見当違いも甚だしい』
「やはりそうですか」
ホープとしても、ここの『球形基地』は位置的にいっても、そうした流通に干渉できるとは考えにくかったのだ。
もちろん、支部や配下が、という可能性もあるが、そちらについては老君が『覗き見望遠鏡』で見た限りにおいて、『球形基地』内で制御核を加工しているような形跡はなかったのである。
さらにいえば、『ファースト』の『基底命令』からいって、そういった奸計を巡らすとは思えなかった、ということもある。
『ふむ……ホープ殿の話によると、何者かが、『制御核』の輸送中に、人知れずそれを加工し、悪用している、ということなのか?』
「まあそういうことです」
ホープはかいつまんで現状を説明した。
『ほう……。興味深いな。そのようなことをして何になるというのだ?』
「その制御核を搭載したゴーレムから情報を抜き出すことができるでしょう」
『なるほどな。……つまり、『システム』と『記憶エリア』の双方に影響を与えられるような『バックドア』が追加されているということか?』
「そうなりますね」
『興味深い技術ではあるな』
「実際、やろうと思ったら難しいでしょうね」
『おそらく、『システム』と『記憶エリア』とを繋ぐ信号経路に干渉するような構造を取っているのだろう』
「お察しのとおりです」
仁が……というよりも正式な『アドリアナ式』の制御核は、『システム領域』と『ユーザーデータ領域』は明確に区切られており、そのことだけでも外部からの干渉を受けづらくなっている。
だが、簡易的なシステムにおいては『システム領域』と『ユーザーデータ領域』は隣接しており、双方をハッキングするような『バックドア』を仕込むことは比較的容易い。
『その場合、『知識確認』では見破れない可能性もあるな』
『ファースト』の洞察力は優れており、短時間でこの技術の特徴を見抜いていた。
ホープと老君は、反応の仕方からいって『ファースト』が黒幕ではないようだと考え始めていたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
の更新は、都合によりまして4月3日(日)14:00の予定です。
本日3月31日(木)は15:00に
『蓬莱島の工作箱』を更新します。
https://ncode.syosetu.com/n0493fy/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20220331 修正
(誤)そこはそのフロアほほ全部が、土に覆われていたのである。
(正)そこはそのフロアほぼ全部が、土に覆われていたのである。
(誤)つまり、『システム』と『記憶エリア』の双方に影響を与えられるよな『バックドア』が追加されているということか?』
(正)つまり、『システム』と『記憶エリア』の双方に影響を与えられるような『バックドア』が追加されているということか?』
20220403 修正
(旧)
「私が得た情報に、『制御核』に『バックドア』を仕込む何者かがいる、というものがあったことを思い出したのです」
(新)
「私が得た情報に、『制御核』に『バックドア』、つまり『不正にデータを抜き出すことのできる仕掛け』を仕込む何者かがいる、というものがあったことを思い出したのです」




