86-12 老君の推測
『球形基地』の下側の階層を見学し終えたホープは、案内役である『スポークス』に尋ねてみた。
「ここの自由魔力素濃度が極端に低い理由は教えてもらえますか?」
「何? ……うむ、少し待て」
スポークスは魔力波を使った通信で『ファースト』と連絡を取ったようで、十数秒後に回答する。
「残念だが、それは教えてやれない」
「そうですか、わかりました」
おそらく老君は見当を付けているだろうなと考え、それ以上の追及はしなかったホープであった。
* * *
そして、ホープの推測どおり、老君は『球形基地』内部の自由魔力素濃度が低い理由を突き止めていた。
『『魔法障壁』のせいのようですね』
『球形基地』の周りには『魔法障壁』に似た結界が展開されていたのだ。
遠距離なので十分な精度での解析ができないが、おおよその構造は把握できた。
『言うなれば、中途半端な強度のせいですね』
探知防止・魔法防御の効果はあるのだが、『覗き見望遠鏡』の自由魔力素波は、多少減衰するものの通過できる。
だが、周囲の自由魔力素の透過率が低いから、球体内部が自由魔力素不足になるのだ。
蓬莱島では、通常は『自由魔力素チャンネル』だけは開けてあるので、内部が自由魔力素不足になる心配はない。
その『自由魔力素チャンネル』も必要に応じて閉じることができるのだ。
それでは、ホープ以外のゴーレムはどうしているのかと言うと……。
『なるほど、自由魔力素の専用サーバーからチャージしているのですか』
『魔力素補給機』によく似た、自由魔力素のサーバーがあり、そこで1日1回、自由魔力素を補給しているようである。
『球形基地』の外では魔素変換器が作動するようだ。
だが、『自由魔力素補給機』はホープに開放されていない。つまり『ファースト』はホープの『魔力貯蔵庫』が空になり、停止するのを待っているという可能性もある。
『しかし、やりようはいくらでもあります』
『転送機』で『魔力素蓄石』や『魔力貯蔵器』をホープに届けることもできるし、ホープの『魔力反応炉』は希薄な自由魔力素にもある程度対応している。
フルパワーでの行動だと長時間は無理だが、30パーセント程度の出力であれば問題なく動き続けられるのだ。
『ですが、ホープが停止する可能性があるのにそれを告げない。やはり『ファースト』は信用できませんね』
老君は、さらに監視を続けるのだった。
* * *
ホープと『スポークス』は7層目を見て回っていた。
「ここも工場だ。ここでは魔結晶を加工している」
4つ並んだ扉の最も右側の前で『スポークス』が説明した。
「中は機密事項が多いので見せられない」
「残念ですが、わかりました」
次はその1つ左の扉の前。
「そしてここは魔導具工場だ。主にこの基地内で使われる魔導具を製造している。ここも中は見せられない」
「はい」
次いでもう1つ左の扉。
「ここでは武器を製造している。ここも見せられない」
「仕方ありませんね」
そして最後、一番左の扉。
「ここは一応見せられるな。とはいえ見ても得るものはないだろうが」
「何を作っているのです?」
「インゴットから棒材や板材を作っているのだ」
「見てもいいのなら見せてください」
「わかった」
そして『スポークス』は扉を開けた。
「ありがとうございます」
ホープは部屋の中へは足を踏み入れることなく、中を見渡した。
なにか変わった、珍しい技術が使われていないか確認したかったのだ。
だが、意に反して特に目新しいものはなかったのである。
「ありがとうございました」
「もういいのか?」
「はい」
「よし、次の階層へ行くとするか」
* * *
8階層目である。
「『ファースト』殿が設置されている階層ですね」
「そのとおり。その他に司令室をはじめとした軍事用の部屋が多数あるので、ここも割愛させてもらう」
「わかりました」
* * *
だが、老君には関係ない。
『ふむ……球体の中心から15メートルほど上の階層に『ファースト』があるのですね』
『覗き見望遠鏡』で観察していく。
『魔法障壁』に類する結界があるので、若干ノイズが入るが、情報収集には支障はない。
『司令室……人間用の設備がありますね。ですが、居住区同様、人がいた痕跡が皆無……つまり、まだ人間が使っていないということなのでしょう』
つまり、この『球形基地』は未完成もしくは最近完成した可能性が高い、と老君は考えた。
『そして、これも例の『最終兵器』の同類ではないでしょうか』
例の最終兵器とは、アーノルトが危惧していた、魔導大戦時の人類が計画した巨大兵器の呼称である。
セルロア王国のボロロン荒野で土壌汚染の分布を調査していた際、異常に濃度が低い特異点を捜索したところ見つかった未完成の『移動基地』。
それが4月2日のこと。
『あれは直径が100メートルの半球でしたが、これは直径200メートル。構造も似ています。こちらが本命なのでしょうかね』
半球状の『移動基地』には、まだ魔導頭脳は設置されていなかったのである。
ところがこちらの『球形基地』には魔導頭脳やゴーレムがあり、稼働している。
こちらが本命であるとすれば、使途不明だった鉄鋼の説明も付く。
『ただ、動力がないようですが……』
そう、この『球形基地』には動力が見当たらなかったのだ。
このままでは地中に埋もれたまま、ということになる。
『あるいは、それゆえ『未完成』なのでしょうか』
こちらは『移動基地』とは異なり、魔導頭脳やゴーレムを設置・配備してあったため、基地を充実させる行動を独自に行ったのではないか、と老君は仮説を立ててみたのであった。
それなら、『知識と情報を求める』理由にもなる。
そこで老君は、その点をそれとなく確認するようホープに連絡をしたのである。
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20220330 修正
(誤)30パーセント程度の出力であれば問題なく続けられるのだ。
(正)30パーセント程度の出力であれば問題なく動き続けられるのだ。
(誤)以上に濃度が低い特異点を捜索したところ見つかった未完成の『移動基地』。
(正)異常に濃度が低い特異点を捜索したところ見つかった未完成の『移動基地』。




