86-11 基地見学
謎の『球形基地』の魔導頭脳『ファースト』は、ホープとの問答を経て、1つの結論を出した。
この目の前にいるゴーレムは、見かけとは裏腹に相当の知性と知識を有している、と。
そして、当面は友好的に振舞い、その知識を利用させてもらおう、とも。
強引な手を避けたのは、この相手を捕らえたとしても、みすみす貴重な情報を寄越すはずがないと判断したからである。
それなら友好的に接して、できうる限りの譲歩を引き出すのが得策だろう、というわけだ。
『ホープ、と言ったな。貴殿を客分として扱おうと思う』
「それはどうも、ありがとうございます」
呼び方も『お前』から『貴殿』に変わっている。
「それで、何をお望みですか?」
『情報だ。知識だ』
「なるほど。私も情報は欲しいですね」
『つまり、知識の交換だ』
「わかります。とはいえ、もう少しお互いを理解してからにしたいものですが」
『それはわかる』
知識交換は諸刃の刃だ。
知りたいことを知ることができるが、知りたくないことまで知ってしまうこともあるし、知られたくないことまで知られてしまう危険性もある。
(ただし仁の『知識転写』は例外)
ゆえに、互いを知る過程で必要な知識・情報を交換しようというのである。
時間は掛かるが、魔導頭脳にとっては問題ない。
というか、魔導頭脳は時間の経過を数量として把握することはできるが、『体感』することはできないからだ。
『1分』と『1時間』では『1時間』の方が長い時間であることはわかるが、『1時間』を長く感じるかどうかということとは別である。
そして、魔導頭脳には『長い』と感じることはできないのだ。
閑話休題。
時間が掛かろうとも、お互いの関係を強固にしてから知識交換をしようと決めた魔導頭脳『ファースト』は、手始めとしてホープに基地内の案内をすることにした。
「よろしいのですか?」
『構わん。どうしても知られたくない場所は見せないだけだ』
そう宣言し、『ファースト』は『スポークスゴーレム』だった個体にホープの案内を任せることにした。
「私が貴殿を案内することになった」
『スポークスゴーレム』の言葉づかいも少しだけ改まった。
「よろしくお願いします」
「うむ。何か希望はあるか?」
「いえ、特には。そちらにお任せしますよ」
「承知した」
「ところで、あなたを『スポークス』と呼ばせてもらってもいいでしょうか?」
「む? 構わない」
「ありがとうございます」
というわけで『スポークスゴーレム』……以下、『スポークス』と呼ぶことにする……がホープを案内していったのは、『球形基地』の最下層だった。
「ここから順に、上の階層へと案内していこう」
「ありがとうございます」
「最下層は全て倉庫だ。重要度の低いものと、資材だな」
「わかりました」
ここはいちいち確認をせずに、1層上へと向かう2体。
とはいえ老君が『覗き見望遠鏡』を使い、『スポークス』の言ったことが嘘ではないことを確認している。
2階層目も倉庫であった。
「ここも倉庫だが、ここには重要なものもある」
「それは?」
「一部は秘密にさせてもらうが、公開できるものは見せてやろう」
そうして『スポークス』は倉庫の1つをホープに見せた。
「ここは我々と同じゴーレムの保管場所だ」
「ざっと100体くらいありますね」
「104体だ。今現在は5日に1体ずつ増えている」
「作り出されている、ということですか?」
「そうだ」
そしてもう1つの倉庫もホープは見せてもらった。
「ここは……」
「廃品だ。いずれ素材に戻して再利用することになるだろう」
そこには大破したゴーレムや魔導具が乱雑に置かれていたのだった。
「修理するよりも新造したほうが手間が掛からないのでな」
「論理的ですね」
仁であれば、壊れたゴーレムを廃棄することは絶対にしないだろうなと思いつつ、ホープは倉庫の見学を終えた。
* * *
「さて、では3層目だ」
1つの層は床、床下のインフラ類、天井と天井裏の諸々を含め、およそ10メートル。
直径は200メートルで、外殻の厚みは10メートルほどなので、内部空間の直径は180メートルとなり、18階層が存在する計算になるなとホープは考えていた。
が、それはこの階層で否定される。
第3層目は床から天井まで20メートルほどもあったのだ。
「ここの階層は工場だ」
「工場? つまりここでゴーレムが作られているのですか?」
「そういうことだな。製作工場は見せられないが、修理工場と整備工場なら見せてやろう」
「ありがとうございます」
まずは修理工場へ。
そこには技術者系のゴーレム10体が待機しており、大破以外……中破までのゴーレムや魔導具なら修理することになっているという。
その次は整備工場。
ここにも技術者系のゴーレムが20体おり、基地内で働くゴーレムの整備を受け持っているということだった。
「なかなか充実した設備ですね」
「そうだろう」
『スポークス』はホープの言葉に満足そうに頷いた。
* * *
「4層目は動力室だ。ここは見せることはできない」
「わかりました」
そういうわけで4層目は飛ばし、2体は5層目へ。
「ここも機密エリアだ。上へ行こう」
「はい」
そしてホープと『スポークス』は6層目へ。
ここは事実上、球体のほぼ中央付近のフロアで、最も階層の広さがある。
「居住区、というらしい」
「らしい?」
「うむ。『人間』が住むための階層ということなのだが、これまでにただの一度もそういったことはなかった」
「なるほど。幾つかの部屋を見てもいいでしょうか」
「構わない」
「ありがとうございます」
許可を得たので、ホープはまず最も近い部屋の扉を開けてみた。
そこはおよそ6畳ほどの部屋で、シングルベッドが1つ、テーブルが1脚、椅子が2脚というシンプルな作り。
一応洗面所と簡易トイレ、シャワールームもあるようで、緊急時の避難用としてはまずまずのものとホープは判断した。
そして、少し離れた場所の部屋も確認する。
そこは8畳ほどの広さで、『ツイン』といった作りの部屋だった。
さらにもう1つの部屋を確認すると、これまで見た部屋とは違い、やや豪華である。
お偉方用なのかもしれないな、とホープは想像したのであった。
「さて、ここまで下半分だ。次は上半球だな」
「お願いします」
ここまではさしたる収穫もなかったなと思う反面、ホープはこれからの見学に少し期待したのであった。
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本日3月29日(火)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
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20220329 修正
(誤)『構わん。どうしても知られたくな場所は見せないだけだ』
(正)『構わん。どうしても知られたくない場所は見せないだけだ』




