85-17 それそれの成果
メルツェとグースも村の中でいろいろ聞いて回っていた。
まずは村長に紹介してもらった『長老』的なお年寄りから話を聞くところからだ。
「こんな年寄りの話でよければ、いくらでも聞かせましょうかのう」
ヨリトシと名乗った彼は、見たところ80代前半くらい。日に焼けて色黒だが、まだまだ足腰はしっかりしているようだ。
「それでは、この村のずっと昔のことを聞かせていただけますか」
グースは平易な言葉で話しかけた。
「そうですな、それでは……」
ヨリトシによると、もともとこの村は寄せ集めだったという。
「始まりは儂の高祖父のころですな。開拓という名目で、近隣の村から3男4男が寄り集まったらしいです」
「ははあ」
口減らし、というと語弊があるが、要はそういうことだったのだろう、とグースは感じた。
そして高祖父、つまり祖父の祖父。1世代が25年から30年として、100年くらい前にこの村が成立したことになる、とグースは目算した。
そして時代的には『魔法連盟』が幅を利かせていた時期と一致する……が、それはこの地方には無関係だろう、とも。
「ですが、もっと前にここに住んでいた人たちがおりましてな。廃村となっていたここに、もう一度住み着いたというわけでして」
「ああ、そうなんですか」
「そうなんですよ。元々、建物は残っていたそうで、少し手直しをすれば住めたそうです」
「それなら移住も少しは楽だったでしょうね」
「そのようです。その後、この土地に『ユノス』という木が生えているのを知り、それを栽培することにしたのだそうです」
「ああ、ユノスは元々ここに自生していたのですか」
「そう聞いています」
「それで品種改良というか、選別をして今に至るわけですね?」
「そうですそうです」
と、このようにそこそこ有意義な話を聞くことができたようである。
* * *
さて、エルザである。
割り振りの関係で1人で村を散策しているが、ちゃんと老君が『覗き見望遠鏡』で見守っている。
エルザは堂々と『治癒師』と名乗っており(国選治癒師とは言ってないが)、村長の奥さんであるノナと共に家々を訪れ、診察をしているのだ。
「助かります、エルザさん」
「いえ、これも治癒師の役目ですから」
このような僻地では医者も治癒士もおらず、民間薬的な薬草に頼っているのが現状である。
そういうわけで、エルザの診察と治療は村人にとって福音に等しかった。
(……やっぱり、カルシウムの摂り過ぎと思われる症状が、多い)
高カルシウム血症や泌尿器系結石が見られたのである。
とはいえ、表面上は健康に見える者がほとんどだったので、それと告げずに『抽出』でピンポイントに取り出し、『癒し』で体調を整えていく。
「エルザ様、大丈夫ですか?」
連続で治癒魔法を使うエルザを、ノナは心配している。
「大丈夫。これくらいのペースなら」
一応、この日と翌日、2日掛けて村人約200人を診察するつもりのエルザであった。
* * *
一方、仁とゴウ。
ミネラル分を除去する『水瓶』を作ろうとアイデアを出し合っていた。
「容器を平たくしたらどうでしょうか」
「悪くないが使い勝手はよくないだろうな」
「そうですね……」
置き場所に困るだろうというわけである。
「やっぱり魔法陣の効率を上げる方向がいいんでしょうか」
「力技だけど、やっぱりそれがいいかなあ」
要は、水瓶の中のすべての水を対象にするようにセッティングする、というだけのことである。
その際、水を汲もうとした手からミネラル分を奪ってしまわないよう、魔法陣をきちんと設定する必要がある。
「あと、沈めておくとミネラル分を吸着してくれる魔導具、というのも考えたんだけどランニングコストが馬鹿にならないんだよな」
「そうですね……」
仁と一緒に考えることで、『民生品』に対しての考え方を少し学んだゴウであった。
(民生品といえば第一人者はビーナなんだろうけどな)
かつてエゲレア王国ブルーランドで『クラフトクイーン』と呼ばれた友人。
今はヘールで惑星開発の一部を担ってくれている。
(たまには民生品の開発を手伝ってもらうのもいいかもなあ)
「……ジン様?」
「あ、すまん。ちょっと考えごとをしていた」
「魔法陣を描いてみましたけど、これでいいでしょうか?」
「どれどれ」
ゴウが描いた魔法陣の下書きを仁はチェックしてみたが、特に問題はない。
「うん、上出来だ。よく出来ている」
「ありがとうございます!」
「あとはこれを石英の板……だと高価だからガラスに刻めば完成だな」
「そして水瓶の中にこし網を沈めればいいわけですね」
「そうそう」
構造としてはまず水瓶があり、その底に魔法陣を刻んだガラス板を沈める。
その上にこし網を、水瓶の内部に沿うようにはめ込む。
そうすることで分離したミネラル分を閉じ込めておくことができるわけだ。
「あれ?」
「どうした?」
「ジン様、こし網で容器を作って、その中に魔法陣を刻んだガラス板を入れたらどうでしょう?」
「お、その方がこし網が小さくて済みそうだな」
「はい」
「いいアイデアだ。それでいこう」
そんなわけで、仁とゴウの手によって、硬水を軟水化する魔法陣式の魔導具が完成したのであった。
この魔導具は応用が利き、また安価に作れるので、この後各国に広まっていき、技術料(特許料のようなもの)としてゴウの収入となるのだが、それはまた別の話である。
その夜は、それぞれの成果を報告しあい、結果に満足した仁たち一行であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日2月24日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
2月22日(火)に更新できずご迷惑をおかけしました。
今後も応援のほどよろしくお願いいたします。
20220225 修正
(旧)ヨリトシと名乗った彼は、見たところ83歳くらい。
(新)ヨリトシと名乗った彼は、見たところ80代前半くらい。
(旧)技術料として(特許料のようなもの)ゴウの収入となるのだが、それはまた別の話である。
(新)技術料(特許料のようなもの)としてゴウの収入となるのだが、それはまた別の話である。




