85-18 効果と感謝
5月14日。
もしかしたら捜している人々が来るかもしれないと、仁たちは期待している。
なので村からあまり離れないようにして、昨日の活動の続きだ。
仁とゴウは問題ない。
「おお、これが水を美味しくしてくれる魔導具ですか!」
「そうです。水瓶に沈めておくだけで大丈夫です。で、月に一度くらいはこの網の中にスケイルといって白っぽい石のようなものが溜まりますから取り出してください」
「わかりました」
「あ、そのスケイルは、利用価値があるので溜めておくといいですよ」
「そうなのですか?」
「ええ。マグネシウムやカルシウムといった軽金属資源になりえます」
「よくわかりませんが価値があるなら捨てないようにします」
と、こんな感じである。
「ええと、おいくらでしょう?」
「村長さんには泊めていただいていますのでもちろんお代はいりませんよ」
「そういうわけにも……」
「いえいえ、あんなに歓待していただいてますから」
「そうですか? ……ですが、これはもっと作れるのでしょうか?」
「材料さえあれば」
「おいくらくらいで?」
「その場合は、材料費込みで1つ300トール(日本円換算で約3000円)といったところでしょうか」
現代日本で一般的な、水道用の浄水器よりも安くできる。
「なっ……! そんなにお安く?」
「それが『俺たち』の信条なので」
「……ありがとうございます。……なんとなくあの方たちと似ておりますね」
「あの方たち……というのは、この村にやって来る技術者のことですか?」
「ええ。そうです」
それを聞いた仁は、早く会ってみたいものだと思ったのである。
* * *
サキとルビーナは村の北側の崖に来ていた。
「こういう場所では苦労せずに地中の様子がわかったりするんだよ」
「あ、そうですね」
「ほら、これなんて面白い」
「……化石、ですか?」
「巻き貝の化石だね」
地球でいったら『アンモナイト』にあたるような化石が見つかった。
「昔は『魔法によって石になった貝』と言われていたみたいだね」
実際には魔法ではなく長い年月によって、である。
「でも、考えてみると不思議ですよね」
「くふ、そうだね」
「あ、また別の化石が」
「ああ、これは木の葉の化石だね。流されてきて海底に沈んで……化石になったんだろう」
こうした化石から、当時の植生を推定することができる、とサキは教えた。
「ためになります!」
どうやらルビーナは、モノづくりだけでなく、こうした分野にも適性があったらしい……。
* * *
メルツェとグースは、昨日に続き、村の中で聞き込みをしている。
「そうかい。昨日はヨリトシ爺さんに話を聞いたんだね」
この日はアバン・サダという、もう一人の村の長老格に話を聞いているのだった。
「あたしの祖先はミツホから来たらしいんだよね」
「あ、だからサダという姓なんですね」
「お、知ってるのかい?」
「ええ。俺はミツホの隣、フソーの出身ですから」
「なるほどねえ。……で、昔話が聞きたいんだったね」
「ええ」
「それじゃあ、あたしが小さい頃聞いたおとぎ話でもいいかい?」
「是非お願いします」
「それじゃあ……」
と、このようにして、メルツェとグースは活動していた。
* * *
エルザも、基本的に村の中で活動している。
昨日既に過半数以上の家を訪問していたので、今日は余程楽である。
「重症者がいなかったのは幸運だった」
外科的な手術を必要とするような者は1人もいなかったのである。
おかげで、治癒魔法だけで村人全員の治療を終えることができたのであった。
「エルザ様、ありがとうございます……!」
「ありがとうございます、助かりました」
「いいえ、これが役目ですから」
村人たちから感謝を受ける、という点では、エルザが仁一行の中でダントツである。
* * *
「いやいや、ジンさん御一行は素晴らしい方揃いですねえ!」
その日の夕食は前日にも増して豪華なものになった。
そして味もよくなっている。
「ジンさん、水を美味しくしてくれる魔導具、素晴らしいですわね」
村長の妻、ノナが嬉しそうに言った。
「煮物をしても灰汁が少ないですし、味が濁りませんもの」
「硬水が軟水になりましたからね」
「そうなのですね。お茶もすごく美味しいですわ」
お茶の味も、硬水で淹れると渋みが抜け淡白な味に、軟水ではお茶の旨味が十分に感じられる、というような実験結果もある。
出汁をはじめとした食材の『旨味』も、一般的には軟水の方がよく味わえるようだ。
「ノナ、うちのものと同じ魔導具を全部の家に1つずつ配布するということで、ジンさんが受注してくださったのだよ」
「まあ!」
「出来上がり次第持ってきますよ」
仁は工房を持つ『魔法工作士』ということになっているのだ。
和やかな夕食の時間であった。
* * *
夕食後、客室に引っ込んだ仁一行は、簡単な報告会を開き、この日の成果を披露していた。
「……エルザが一番だな。村人に、重篤な症状は出ていなかったんだな?」
「ん。昨日と合わせて計5人ほど、小さな尿路結石ができていたので除去しておいた」
「そんなもので済んでいたのか」
「ん。ユノスを食べているため、クエン酸も摂取しているのが功を奏しているのでは、と思う」
カルシウムとともにクエン酸を摂ると、小腸でのカルシウムの吸収がよくなるという。
特産のユノス(ユズ)を食べているため、なにかいい効果が出ているのではないか、とエルザは言った。
(実際、現代日本でもカルシウムの摂取についての定説はあいまいである)
「明日、うまくいけば目的の人物がこの村に来るんじゃないかと思う」
「くふ、楽しみだね」
「どんな人たちでしょうね」
「まあ、期待しすぎないようにしよう」
かならず来ると決まったわけじゃないし、と仁。
その夜はそれで解散となり、皆それぞれの寝室で休んだのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220225 修正
(誤)「そううわけにも……」
(正)「そういうわけにも……」
(誤)
「それが『俺たち』の心情なので」
「……ありがとうございます。……あんとなくあの方たちと似ておりますね」
(正)
「それが『俺たち』の信条なので」
「……ありがとうございます。……なんとなくあの方たちと似ておりますね」
(誤)エルザが仁一行の中でダントツ1位である。
(正)エルザが仁一行の中でダントツである。
(誤)「重傷者がいなかったのは幸運だった」
(正)「重症者がいなかったのは幸運だった」




