85-19 邂逅
マイテイ・コウノは今年24歳と若いが、トモシデ・ヨダが『魔法探求者』から出奔した後、4人の高弟の1人として役割をこなしてきた。
そして今日、『クェント村』にソバ粉の買い付けに向かっている。
この地方は冷涼というほど寒い気候なわけではないが、地味が痩せているため、主要穀物である小麦・大麦の生産量が少ないのである。
そのため、1年に2回から3回収穫できるソバが広く栽培されており、『魔法探求者』でもこれを主食としていた。
もちろん、栄養バランスの概念はあるので、炭水化物・タンパク質・脂肪・ビタミン・ミネラルが不足しないよう食事に気を配ってはいる。
そして今日、5月15日に護衛兼荷物持ちの自動人形MSー081を連れ、『自動車』に乗ってクェント村に買い出しに来たのである。
代金としてはトール通貨と魔導具などを用意している。
魔導具は魔導コンロとその魔力カートリッジが主だ。
この地方では熱源の確保が大変なので、魔導コンロは非常に感謝されていた。
* * *
「……マイテイ様、あちらを御覧ください」
「どうした?」
「巨大な飛行船が着陸しています」
「……見えないぞ?」
「失礼しました。距離が2キロ以上ありますので、肉眼では視認できません」
「そりゃあな」
「どうします、近付いてみますか?」
「……いや、やめておこう」
面倒ごとには関わらないのが一番、と、マイテイ・コウノもまた、隠遁者特有の考えを持っていたのである。
そして1人と1体を乗せた自動車は進み、時刻は午前9時、クェント村に到着したのである。
* * *
「……おや、雰囲気が少し違うようだが」
自動車から降り立ったマイテイ・コウノは、クェント村の様子がいつもと違うことに気が付いた。
なんとなく、少し浮き立っているような感じを受けたのだ。
そんな時、馴染みの顔が見えたので聞いてみることにした。
「ああ、一昨日……あれ? 一昨々日かな? ……まあとにかく、何日か前から、学者先生の一団が来ているのさ」
「学者先生?」
「そう言ってたよ。石やら崖やら調べたり、村の昔話を聞いて回ったり、水を美味くする魔導具を作ってくれたり、ああ、村中の診察もしてくれたな」
「へえ……?」
「それじゃ、俺は畑に行くから」
「……あ、呼び止めて済みませんでした」
村人が立ち去った後、マイテイ・コウノはお供の自動人形、MSー081に聞いてみた。
「どう思う?」
「はい、その『学者先生』が行ったことであることに疑いはありません。そして『学者先生』一行は複数人で、別々の専門分野を極めていると思われます」
「確かにな」
「どうなさいますか? 今日は引き返しますか?」
「うーん、どうしようかなあ……」
考えた末、『学者先生』への興味が勝った。
マイテイは隠遁者ではあるが、『学者』という人種への興味と、分野は違えど学問を修めるという同士と話をしてみたくもあったのだ。
要するにマイテイは隠遁者の中でも少しだけ外交的だったのである(だから買い出しを任されている)。
「よし、このまま進もうか」
「はい」
自動車は再び動き出し、クェント村へと入っていった。
まずは村長の家を目指した。
* * *
「お父さま、これでいいですか?」
「おお、上出来だ」
仁と礼子は村長宅で『硬水を軟水化する魔法陣式の魔導具』を追加で製作していた。
ゴウはエルザについて行き、村を巡っている。昨日は籠もっていたので、今日は外に出したのだ。
「もう素材がないので作れませんね」
「それは仕方ないな」
こうして出先で何かを作って役立てるため、多少の資材は持ってきていたが、魔導具を2セット作ったところで使い切ってしまった。
老君に頼んで送ってもらうことも可能だが、今回はそこまで切羽詰っているわけではないので手持ちだけで完結させた。
「これを見本として、使ってもらってください」
「おお、ジンさん、ありがとうございます」
サンプルがあったほうが、『硬水を軟水化する魔法陣式の魔導具』の効果を実感してもらえるだろうというわけだ。
「ごめんください」
そこに、声が掛けられた。
「おや、この声は……ジンさん、どうやらお捜しの方が来たようですよ」
「えっ」
「まずは、私が応対します」
村長キョウが仁に声を掛け、玄関へと向かった。
「ああ、マイテイさん、ようこそ」
「……またお世話になります」
「そば粉ですか?」
「……はい。100キロほど」
「わかりました、お待ち下さい」
そんなやり取りが仁の耳に聞こえてきた。
「ええとですね、ご存知かもしれませんが、今、あなた方にお会いしたいというお客人が見えているんです。ソバ粉を用意する間、会っていただけませんか?」
「え……ええと……ええ、いいですよ」
そんなやり取りが聞こえてきて、若い男が村長に連れられてきた。
「あ……はじめまして……。コウノ……マイテイ・コウノといいます」
「ジンといいます。よろしく」
名乗ってから『あ』と思った仁であったが、マイテイは気にすることはなかった。
この時代、『ジン』という名前はそれほど珍しくないからだろうか。あるいは、こんなところに今代『魔法工学師』が来るはずがない、と思っているからだろうか、それは仁にはわからなかった。
が、警戒されないのはいいことである。
「学生を引率してこちらへやってきました。一番の目的は地質と資源の調査で、同時にこの地方の風俗や民族性を調べています。……俺の友人たちが」
「……ジンさんは学者ではないのですか?」
「はい。俺は技術者です」
「……魔法工作士なのですか?」
「はい。あなたもでしょう?」
「……え、ええ、まあ……」
「井戸のフィルター、拝見しましたよ。ここの地下水がかなりの硬水なので付けたんですよね?」
「……え、あ、はい」
こうして言葉を交わして、このマイテイ・コウノという男はかなりの人見知りなのではないかと思い始めた仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20220226 修正
(誤)
「ジンといいます。よろしく」
「ゴウです。よろしくお願いします」
(正)
「ジンといいます。よろしく」




