85-15 手掛かりと予定
手掛かりと思われるものが見つかった。
「……その、そばにお住まいの方たちというのは?」
「研究者のようです。時々この村に食料とか生活必需品を買いに来られるんです」
「それって、部外者に話していいんですか?」
「別に口止めはされていませんから……」
そういうことらしい。
「そうした方にもお話を伺ってみたいですね」
グースが発言した。
「大丈夫でしょう。気難しくはないですから」
「そうなんですか」
隠遁したというイメージと少し違うな、と仁は思った。
だが、隠遁したのはずっと昔の先祖であろうから、今の彼らはさほど厭世的ではないのかも知れない、と思い直す。
「どうすれば会えますか?」
「10日に1度くらいやって来ます。明日から明々後日くらいのうちには来るのではと思いますが」
運がよければ翌日、そうでなければ3日後くらいには会えそうだ、と仁は判断。
「それまで泊めていただくことはできますか?」
と聞いてみると、村長は快諾してくれた。
「ええ、どうぞどうぞ。ユノスの有効利用法を教えていただきましたしね」
「ありがとうございます」
「お世話になります」
と、そういうことになったのであった。
* * *
客室は広い居間に隣接して設けられており、仁とエルザ(と礼子)、サキとグース、ルビーナとメルツェ、そしてゴウ、という割り振りになった。
ゴウだけ一人部屋であるが、本人は気にしていない。
で、まだ宵の口なので、仁たちは居間に集まって話し合っている。
「とりあえず、目的の人物には会えそうだ」
「ん。まずは、よかった」
「くふ、ここを拠点にして、周囲の地質を調べてみるよ」
「俺は伝承とか昔話とかを聞いてまわろうと思う」
サキとグースは翌日の予定を既に決めていた。
「俺は、何か手助けできることがないか村を見て回るよ」
「私は村の人たちの健康状態をそれとなく観察、してみる」
「ゴウたちはどうする?」
「あたしはサキさんについて行ってみたいな」
「いいよ、一緒に行こうか」
ルビーナはサキと一緒に地質調査に行くことにしたようだ。
「私はグースさんと一緒に、この村の伝承を聞いてみたいです」
「そうかい。いいよ、一緒に行こう」
というわけで、メルツェはグースについて行き、村の伝承を聞いて回ることになった。
そしてゴウ。
「僕はジン様と一緒に、村で役立つ魔導具を作れないか考えてみたいと思います」
「そうか。よし、いいぞ」
と、子供たち3人の予定も決定した。
話し合っていると、いつの間にか夜も更けていた。
「そろそろ休もう。……まあ、時差があったからあまり眠くはないかもしれないが、ちゃんと睡眠を取らないと明日がきついぞ」
「そう。特に子供は、寝ないと、駄目。脳が成長しない」
「はーい……」
「はい」
「はい!」
仁とエルザに言われたので、あまり眠そうではなかった3人も、寝室へと向かうのであった。
もちろん仁たちも寝室へ向かったのは言うまでもない。
* * *
「老君、聞いていたな?」
『はい、御主人様』
寝室に籠もった仁は『仲間の腕輪』で老君に連絡をとった。
「幾つか確認してもらいたいが、まずはこの村の水質のことだ」
『はい、御主人様。地下水脈のある透水層が、カルシウム分の多い石灰石なのです』
「やっぱりそうか……」
『それから硫酸マグネシウムもかなり含まれており、これらが地下水に溶け込んでいるようです』
「なるほど、そうか」
アルミニウムの鉱石であるボーキサイトも採れるので、そうした金属鉱山としてこの地方の開発がなされる可能性もあると仁は考えているが、それを推進するのはセルロア王国の仕事だと思っている。
なので、
「フィルターよりも高効率な浄水器を作るかなあ……」
と仁は考えている。
その浄水器によって分離されたミネラル分は、おそらくカルシウムとマグネシウムであり、再利用することができる。
マグネシウム合金はアルミニウム系の合金同様軽くて強いため、用途は多い。
もっとも、浄水器で分離できるマグネシウムの量では足りないが……。
「でも、ジュラルミンは作れるだろう」
ボーキサイトが採れるため、アルミニウムの生産は可能。
そのアルミニウムに銅とマグネシウムを混ぜることでジュラルミンができるのだ。
「軽銀と共に航空機材料として使えるだろう」
と仁は期待している。
蛇足ながらここアルスでは『軽銀』とはチタンのことを指す(地球ではアルミニウムのことだが)。
「魔法陣式にすれば、イニシャルコストも低く抑えられるし、それに新しい技術だからな」
魔法陣を多用する魔法工学の体系は最近『アヴァロン』で確立されたものである。
なのでおそらくお目当ての技術者たちは知らないだろうから興味を持つに違いないという期待もあった。
「50戸くらいだというから、全部の家に普及させることも難しくはないが……」
「それは止めたほうが、いい」
「わかってるよ」
エルザに釘を刺されるまでもなく、仁もそこまでのことをする気はない。
「泊めてもらっているお礼に、この村長さんの家用に作るくらいだろう」
「ん、妥当な線」
それを見て他の村人も欲しがるようなら、また考えればいい、と仁は思ったのである。
「構造は簡単にできると思うんだ」
仁としては水瓶の底に魔法陣を多重展開し、浄化とミネラル分の抽出をさせればいいと考えている。
問題となるのは抽出したミネラル分をどういう形で取り出すかだ。
「なにかアイデアはないか?」
「ん……ひと塊にして底に沈める……しか思いつかない」
「そうだよなあ……」
仁も同じだと言った。
「まあ、明日、また考えよう」
「ん」
そういうわけで仁たちは床につくことにしたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220222 修正
(誤)ゴウだけ一人部屋であるが、本人は気にしていいない。
(正)ゴウだけ一人部屋であるが、本人は気にしていない。
(誤)村で役立つ魔道具を作れないか考えてみたいと思います」
(正)村で役立つ魔導具を作れないか考えてみたいと思います」
(誤)「あたしはサキさんについて行っててみたいな」
(正)「あたしはサキさんについて行ってみたいな」




