84-31 決意
ベルリッヒ・ベッカーは、もう1軒の代理店を訪れた。
すると、壮年の男……店長らしい……が出てきて対応してくれた。
「あ、その方のお知り合いですか?」
「ええ、まあ」
「いったいどういうことなんです?」
「は?」
「うちの店員が1人、いなくなったんですよ!」
「え?」
「あなたの言う方と一緒に店の裏手へ出て、そのまま戻らないんですが」
「……」
「捜索願は出してあるんですけどね。何か知っていたら教えて下さいよ!」
どうやらこの店の店員も失踪しているようだなとベルリッヒは悟った。
「いや、悪いけど私も何も知らないんです。今日この町に着いて、彼女たちと合流する予定だったんですが」
ベルリッヒ・ベッカーもまた、何がなんだかわからない、と説明した。
「その時、他の人はいなかったんですか? 目撃者とか」
「他の店員に聞いたところ、納品に来た運送屋が1人いたらしいですが」
「その人が怪しいのでは?」
「いつも来てくれている業者なんですけどね……」
「だからといって容疑者から外していいという理由にはなりません」
部外者だからこそ、ベルリッヒは先入観を持たずに糸を手繰ることができた。
「む……」
「少なくとも、何かを知っているはずです」
ベルリッヒの正論に、店長はついに頷いた。
「わかりました。その運送屋はフレクの町にあります」
「隣町ですね。行ってみます」
「私も行きましょう」
店長が一緒なら、土地勘のないベルリッヒとしては、非常に助かる。
それで、急いで支度をしてもらって、共にフレクの町を目指して歩き始めたのだった。
「歩きで行くのはなにか理由が?」
という店長の質問にベルリッヒは、
「馬車は目立ちますからね」
と答えた。
「なるほど」
「それに、歩いても1時間くらいでしょう?」
「確かにそうですな」
こうして、ベルリッヒ・ベッカーとそのゴーレム、そして代理店店長の2人と1体はフレクの町を目指して歩いていくのだった。
* * *
『御主人様、フレクの町でカチェアさんとグローマさんを見つけました』
「お、やったな」
きっかり5分で、老君は亜自由魔力素波の使用を終えた。
『はい。やはり『魔法障壁』の中でした。お2人ともご無事です』
「そうか、よかった」
『そして、敵はどうやら魔導頭脳のようです』
「魔導頭脳?」
『はい。構造にアドリアナ式が使われていましたから、おそらくはフレクの町にいる技術者の作かと思われます』
「その魔導頭脳の性能はどうなんだ?」
『はい、御主人様。形状が大きいため、キャパシティも大きいとは思いますが、性能は並みですね』
「なるほど、そういうことか」
『そして、未完成……いえ、不完全です』
「不完全? 稼働しているのに不完全……そうか、『自我』の形成が曖昧なんだな?」
『はい。その理由として、情報・知識不足のまま起動したためと推測いたします』
必要最低限に満たない情報で起動すると、想定したような『自我』が形成されにくくなるのだ。
パーツが足りないのにプラモデルを組み立ててしまうようなものである。
そして大抵の場合、その足りない部品をあとから取り付けようとしても、既にできあがってしまっている部分が邪魔をして組み付けられないのだ。
『そのため、『足りないところ』を埋めるために、人々を拉致してきてその知識を読み込んでいるようです』
「うーん、それじゃあどんどん歪になるだけだよな」
『はい、御主人様』
先程のプラモデルの例えで、後からオプションパーツを次々にくっつけていったら……という状況を想像してほしい。
しかも、同時に使うことのないようなオプションや、バージョン違いのものも、全部だ。
自動車の改造でも、ラリー用、ドラッグレース用、ツーリングカーレース用、公道用などのオプションパーツを全部取り付けたとして、性能が上がるかといえば否だろう。
「……『上書き』も駄目だろうな」
『はい。もはや修理、調整のできない段階になっていると考えます』
「そうだろうな」
仁は小さくため息を漏らした。
高度な魔導頭脳を作る技術がありながら、どうしてこんな事になってしまったのか、と。
『背景まではわかりませんでした』
「いや、それは仕方がないな」
『御主人様、どう致しますか?』
仁は『3代目』魔法工学師として、この事件を収めなくてはならないかな……と考え、それを否定した。
「お父さま、どうなさったのですか?」
少し考え込んでいた仁に、礼子が尋ねた。
「いや、ちょっとな……」
どうするのがいいのか、悩んでいるらしい仁を見て、礼子が思うところを述べた。
「お父さまはお父さまのお考えのままになさってよろしいのです。わたくしは全力でサポートいたします」
「あー、うん、ありがとうな、礼子」
礼子の言葉に少し肩の力が抜ける仁。
そんな仁に老君も、
『御主人様は、前回……『2代目』を名乗られていたときとは違うやり方をしたいと思ってらっしゃるのですよ、礼子さん』
と、その心理を言い当てた。
「さすがだな、老君」
『おそれいります』
「俺たちだって全能じゃない。この世界を全て網羅、把握して、適切に管理できるなんて思っちゃいないし、実際にできないだろう」
『はい、御主人様』
老君もそれは認めた。
「400年前は、かなり手を出しすぎたせいか、『魔法連盟』の妨害にあったらあっという間にレベルが下がったんだよな」
せっかく底上げした魔法技術が、仁が現れる以前に近いレベルまで下がってしまったのだ。
「それって、本当の意味で技術が根付いていなかったんだろうなと思ってな」
『それだけではないと思いますが、確かに一理はあるかと』
「そうか」
『はい、御主人様』
「だから今回は……『3代目』としては過度な干渉をせず、手出しは控え、『今』を生きている人々になんとかしてもらおうと思っていたんだが……」
ここで仁は言葉を区切って一息入れた後、再度続ける。
「なかなかうまく行かないな。知り合いが……いや、友人の危機に何もせず、後方援助するだけというのはやっぱりできないよ」
『いえ、御主人様、それを御主人様がお望みなら、我らは礼子さんが言ったように全力でサポートいたします』
「そうか、ありがとう、老君」
こうして、仁は改めてこの事件に真っ向から乗り出す決意をしたのだった。
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