84-30 捜す人
4月最終日、30日の朝が来た。
ウラウの町に、1台の夜行馬車が到着する。
夕方に出発して、目的地には朝到着するもの。要は夜行バスの馬車版である。
割増料金を払うことになるが、時間を有効に使える。その分、移動中はよく眠れないという弊害があるが。
「着いた……か」
夜行馬車からは3人の男と1体のゴーレムが下車した。
そのうちの1人はショウロ皇国の魔法技術者、ベルリッヒ・ベッカーである。
そして連れているのは1体のゴーレム。もちろん自作のもので、最新の自信作である。
夜行馬車の乗客3名は、駅に隣接する軽食堂で朝食を済ませる。
こうした客層のために早朝から営業しているのだ。
「さて、カチェアはどこに泊まっているのかな」
朝食を終えたベルリッヒ・ベッカーはゴーレムを連れ、町に出た。
カチェアから、この町で調査を行う、という手紙を受け取ったのだ。
手紙が着くまでに日にちが掛かったため、彼はこの日の到着となったのである。
「普通の田舎町だな」
とりあえず、カチェアたちが泊まりそうな宿を片っ端から当たってみることにした。
それほど大きな町でもないので、宿の数も15軒ほどしかなく、4つめで当たりを引いた。
このアルスでは、宿屋にはお客のプライバシー守秘義務などは特に浸透していないので、『知り合いが泊まっている宿を探している』とでも言えば、どこでも宿泊客を検索してくれるのである。
「カチェア様ですね、確かにお泊まりです。……いや、でした」
「でした? もう発ってしまったのか?」
「いえ、実は同行の方共々お帰りにならず……つ、つまりは、その、行方不明、と……」
「何!?」
「い、いえ……実は」
『オテル エトアール』のフロント担当は、カチェアが最初に戻ってこなくなったこと、それを捜しに行ったエイラとグローマも戻らなかったことを説明した。
もちろん、『アヴァロン』宛の手紙も発送済みであることも。
「……一体何が起こっているんだ?」
「さあ、私どもには何も……」
「それはそうだ。騒がせて済まなかった」
と、チップを払い、ベルリッヒ・ベッカーは『オテル エトアール』を後にした。
* * *
「まだ手掛かりがつかめないのか」
『はい、御主人様。申し訳ございません』
老君が『覗き見望遠鏡』を使って探索しているのだが、攫われたカチェアとグローマについて、何もわからないのだ。
「相手が自分たちに近い技術を持っているというのは厄介だな」
改めて仁は、蓬莱島の技術が悪用された場合の危険性を実感した。
「……つまり、自分の既存の技術を上回る技術を使用する必要があるわけだ」
『はい』
「よし、老君、『亜自由魔力素波』の使用を許可する」
『承りました』
『亜自由魔力素波』は『魔法障壁』では防げない。
つまり、今現在確認できない場所も『見る』ことができるのだ。
もちろん欠点もある。
それは、『亜自由魔力素波』は透過力が高すぎる、ということだ。
通常の物質はガラスのように、いや真空とほとんど変わらずに透過してしまう。
つまり、焦点を合わせるのが非常に困難なのである。
障壁の向こうが空間なら問題ないが、固体つまり壁の中や地中であった場合、焦点を合わせるのは老君といえど容易ではない。
また、『自由魔力素波』を使った通常の『覗き見望遠鏡』よりもエネルギー=魔力を遥かに必要とする。
超高濃度な自由魔力素の中でも影響を受けることなく稼働するので宇宙船『アトラス』には搭載されているが、それができるのも豊富過ぎる自由魔力素を取り込める時に限る。
通常の自由魔力素濃度の場所では魔力貯蔵庫も併用するが、それでも消費が激しいため、稼働時間は限られてしまうのだ。
普段は封印しているのはそういう理由からである。
だが今回は、『魔法障壁の向こう』というように、捜す場所がはっきりしているため、それほど時間は掛からないだろうと思われた。
『補助魔力装置起動。『亜自由魔力素波発生装置』起動。『覗き見望遠鏡』搬送波切り替え完了。観察開始。予定時間5分』
老君は5分間限定で亜自由魔力素波を使って覗き見望遠鏡を使用した。
* * *
一方、ベルリッヒ・ベッカー。
「……手掛かりといえば、やはりフレクの町か」
だが、カチェアはこのウラウの町で行方不明になっている。
どちらを捜すべきか、ベルリッヒ・ベッカーは悩んだ。
そして、カチェアの捜索を優先することに決める。
カチェアの安否が気になる、もちろんそれもあったが、こちらの町での方が捜しやすいのではないかという、『勘』もあった。
(カチェアたちは『制御核』の製作者に会うためにここへ来たわけだ)
ベルリッヒ・ベッカーは、彼女たちの思考をトレースしてみることにした。
彼自身、『制御核』の設計をしているので、論理的な解析はまあまあ得意だったのだ。
(情報を集めに行くだろう。行く先は工房、魔導具取扱店、それに……商店や代理店かな?)
商店といってもいろいろある。
(『アヴァロン』向けに商品を発送できる店というのはそうそう多くないはずだ。まずはそこからかな)
そこで彼は、目についた大きな商店に入り、店員に話を聞いてみた。
「『アヴァロン』向けの商品を発送できる商店ですか? それですと、この町には2軒ありますね」
「こちらではできませんか?」
「申し訳ありませんが、できかねます」
「すみませんが、そのできる店というのはどこでしょう?」
「それはですね……」
こうしてベルリッヒ・ベッカーは次の目標を見つけることができた。
最初に訪れた店では、
「ええと、当店では、最後に『アヴァロン』向けに商品を発送したのは7ヵ月前ですね」
「そうですか……」
店員の言葉を信じるなら、ここではない。
ベルリッヒ・ベッカーはもう1つの店に行ってみることにしたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220124 修正
(誤)カチェアから、この町に調査行に来る、という手紙を受け取ったのだ。
(正)カチェアから、この町で調査を行う、という手紙を受け取ったのだ。
(旧)この時代、宿屋にはお客のプライバシー守秘義務などは特に浸透していないので
(新)このアルスでは、宿屋にはお客のプライバシー守秘義務などは特に浸透していないので




