84-05 フィリシャスの考え
ガスマダ島の地下施設に秘められていたのは、フィリシャスの人格データを持つ魔導頭脳であった。
仁は『仁ファミリー』の一員となったデルフィナの願いにより、フィリシャスのボディを作ることを引き受けた。
「それじゃあ、外見データと人格データが欲しいな」
『わかりました。どのような形にしましょうか?』
「魔結晶に転写させてもらえればいい」
『了解です。では、こちらへいらしてください』
床の一部が開き、階段が現れた。
『この格納庫の地下に、魔導頭脳の本体があります』
「わかった」
仁は礼子を連れ、階段を下った。デルフィナもそれに続く。
マリッカ、花子、ロードトス、桃子らは格納庫に残る。
仁は礼子とともに、明るく照明された階段を下りていった。
階段を下りると小ホールがあり、そこの扉も開いていた。
そして小ホールを出た先にフィリシャスのデータを持つ魔導頭脳があった。
それは円柱状の外観をしており、直径1メートル、高さも1メートルほど。
『ようこそ、『魔法工学師』殿。よく来たな、フィナ』
「兄さん……」
「フィリシャス、君のデータをこの魔結晶に転写しようと思う」
仁は全属性の魔結晶を、円柱の正面にある視覚センサーにかざして見せた。
『おお、それは非常に高品質なものでしょう? それでしたら1個で十分にデータを保存できるでしょうね』
「早速始めてもいいか?」
『お願いします』
魔導頭脳は転写用の端子を示し、仁はそこに向けて工学魔法を使う。
「……『知識転写』レベル10」
『お、おお……! レベル10ですって? 素晴らしい……!』
感激する魔導頭脳であった。
文字どおり、あっという間に転写は済み、必要なデータが仁の手に入った。
「さて、これでフィリシャス殿のボディを作ることはできるのだが……」
『なにか問題が?』
人格データとは別に、外見データも別途魔結晶に保存したので、足りないデータはない。
だが、1つ問題が残っている。
「魔導頭脳……いや、『今の』フィリシャス、君はどうする?」
『私?』
「そうだ。この後、フィリシャス殿のボディが完成し、そこにこの人格データをセットしたら、ある意味フィリシャス殿が2人になってしまう」
『そういうことですか。ならば、こちらの『私』は消去しようではないですか』
「できるのか?」
『自分ではできません。が、フィナならできます』
今、デルフィナはこの施設の管理者となっている。
その管理者権限を行使し、フィリシャスの人格データのみを消去すればいいのだ。
『フィナ、頼めるか?』
「兄さん……」
『悲しむことはないぞ。こちらの『私』は、感情や自己保存本能などに制限が掛かっているから、本来の『私』ではないしな』
制限を掛けないと、消去されることに抵抗を覚えるだろうからの処置であった。
「……なら、ジンさんが兄さんのボディを作ってくれて、それが起動したのを確かめて……でいい?」
『それはもちろんいいとも。私も安心できる。……ジン殿、それで構わないでしょうか?』
「もちろんだ。そうしよう」
そこで仁は、簡易型の転移門をここに設置することを思いついた。
が、この施設には『魔法障壁』系の結界が張られていることを思い出す。
これがある限り、自由魔力素波は通過できないのだ。
それを『魔導頭脳フィリシャス』に言うと、
『ですが、この施設は誰にも探られたくないのです』
という答えが返ってきた。
「それなら方法は、また考えよう」
蓬莱島の技術を使うなら、幾つか方法はある。
ここへ来る際は老君が『転送機』で施設のすぐ外まで転送すればいいし、帰る時は施設の外に出たら『転送装置』で近くに待機させた『ハリケーン』に転移すればいい。
それ以外にも、施設の近くに簡易転移門を設置するとか、転移門を備えた航空機を着陸させておくなどの方法も取ることができよう。
「ああ、あとはハンナが開発した障壁突破の方法もあったな」
原理としては、障壁と同質の円筒状の結界で穴を空けるというもの。
要は『空気抜きの穴』みたいなものだ。
その部分は外界と繋がっているのでピンポイントで自由魔力素波が通じるわけである。
どれを使ってもいいが、ここは不特定多数の人間が訪れるであろう場所だ。
「うーん、だったら、まずはデルフィナを最上位管理者に定めて、外に管理棟を建てようか」
仁が考えを述べていく。
「表向きは、そこに駐在員を置くわけですね」
礼子が仁の意図を察して言う。
「そこの地下もしくは隠し部屋に転移門を設置する、と」
「そういうことだな」
『でしたら、いい場所があります』
『魔導頭脳フィリシャス』が提案をしてきた。
『ここから……真上の地表からという意味です……わずかに東に離れた場所に、ここを作った際の仮拠点があります。そこを利用したらいいのでは?』
「お、そういう場所があるのか」
『はい。ほとんどは地下ですのでいろいろと秘匿するにはいいと思います』
「そうだな。一応、現場を見て決めよう」
『それはそうですね』
それから、少し今後のことを打ち合わせてから、仁たちは一旦戻ることにした。
* * *
「あ、ジン殿、ロードトス殿、マリッカさん、デルフィナさんもご無事でしたか」
「そりゃあな、ロードトスが臨時とはいえ管理者になっているんだから、何ごともないよ」
クライン王国のリッツ・ラクカが真っ先に仁たちを見つけた。
「マリッカ先生、どうでした?」
「有意義でしたよ。とりあえずこの施設は、誰が入っても安全になりました。ただし、まだ調査は完了していないので、珍しい魔導具などを見つけてもむやみに触らないでくださいね」
「わかりました」
「で、管理棟を作ろうと思う」
仁が宣言した。
もちろん、誰も異を唱えるようなことはなかった。
* * *
それからは早かった。
「ここに、どうやらこの地下施設を作った際の仮拠点があるらしい」
と、『掘削』で掘り起こす仁。
(……『掘削』?『escavar』じゃなくて!?)
見ていた『傀儡』のルルストナーが目を瞠る一幕があったり、
「『平坦化』『融解』『強靱化』」
(か、簡単に床と壁を作ってしまうなんて……これが魔法工学師の実力……)
クライン王国の魔法技術省第3技術部主任のリッツ・ラクカが驚嘆したりといろいろあったが、その日のうちに内装も含め、管理棟が完成したのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
202101221 修正
(誤)察しのよいロードトスが言う。
(正)礼子が仁の意図を察して言う。




