84-04 最終ロック
4月8日、ガスマダ島調査隊第2陣がノルド連邦を出発した。
メンバーはというと、ノルド連邦からは『森羅』のマリッカ、『諧謔』のデルフィナ。
ローレン人側からは『魔法工学師』二堂仁、その自動人形礼子が参加している。
それに加え、現地に残っていた『傀儡』のロードトスとその自動人形桃子が同行する。
リーダーは一度最奥の格納庫まで行ったことのあるロードトスが務めることとなる。
ちなみに最初の調査隊であった、フランツ王国のゾラーナ・ゴジベル、クライン王国のサーシャ・ダエ・コリエール、マリッカの弟子でロードトスの友人『傀儡』のルルストナーらは、危険がなくなったなら最奥部まで行ってみたいということで残っているが、今回は同行しない。
* * *
現地時間午前9時、調査隊は施設へと足を踏み入れた。
臨時とはいえ管理者であるロードトスが一緒なので、何ごともなく格納庫=工房に到着。
そこにはゴーレム『フィル』が待っていた。
『ようこそいらっしゃいました、ロードトス様、御一行さ……ま?』
フィルが言い淀んだ。その視線はデルフィナに向けられている。
『そ、そちらの方は、もしかして?』
「デルフィナ嬢です」
『おお! 外見は、私の記憶にあるそれと完全に一致しております。いったいどなたが……』
「外見はマリッカだな」
仁はそう言ってマリッカを紹介した。
「『森羅』のマリッカ。ノルド連邦随一の魔法技術者だ」
「ジ、ジンしゃま……」
仁にそう紹介されて照れるマリッカであった。
『そうですか……つまりゴーレムに保存してあったデータを元に再現してくださったのですね』
「はい、そうです。でも基本的なボディはジン様ですよ。今代の『魔法工学師』です」
『魔法工学師……なるほど……道理で、素晴らしい出来です』
ここでデルフィナが口を開いた。
「あなたは『フィル』というのですか? ……兄が作った、ということですが、兄のことはどれくらいご存知なのです?」
『ほとんど知りません。ですが』
「ですが?」
『兄上が、あなた様のことをどれほど思っていらっしゃったかは存じております』
「……」
『お話をして確認いたしました。私、『フィル』はデルフィナ様の復活を認めます』
「え?」
『これより、フィリシャス様の最終命令を実行します』
ゴーレム『フィル』は動きを止めてしまった。
「おい、フィル!?」
そしてそのまま後ろに倒れていく。
ガシャン、という音がし、フィルはまったく動かなくなった。
「……ジンさん、どうしたんでしょう?」
不安になったロードトスは仁に尋ねた。
「制御核の中で何か不具合があったみたいだ。やはりデルフィナに対して反応があったな」
「ジンしゃま、調べてみましゅか?」
「そうだな。……ノルド人のマリッカが調べたほうがいいかもな。ロードトスが助手をやってくれ」
「あ、はい」
そしてマリッカ、ロードトスがフィルの調査に取り掛かった。花子と桃子はサポートである。
『制御核』は胸部にあるタイプで、アドリアナの流れを汲むものと思われた。
骨格は軽銀、筋肉組織は金属系。
そっと制御核を取り出したマリッカは、まず『分析』で様子を見る……と。
「ジン様、この制御核は『受動側』です。少し自律性は持っているようでしゅが……」
「何だって!? ……つまり遠隔操縦用ということか」
『そのとおりです』
格納庫に別の声が響いた。
『よくぞわが妹を蘇らせてくれました。礼を言います』
「兄さん? 兄さんなの?」
『そうだ、と言っておこうか』
どうやらデルフィナを連れてきたことで最後のロックが解除されたようで、フィリシャスの人格・記憶を転写した魔導頭脳が起動したらしい、と仁は察した。
先程の『フィル』の反応がそれなのだろう。
『事情はロードトス殿から聞きました。『魔法工学師』殿、そしてマリッカ殿、貴殿らの技術には感服します』
「兄さん……どこにいるの? 出てきてよ!」
『フィナ、私には身体はないのだ』
「ええ?」
『単なる魔導頭脳なのだよ』
「兄さん……」
『納得のいく『自動人形』ボディを作ることができなかったからな』
フィリシャスは妹デルフィナだけでなく、自らの複製も作ることをよしとしなかったらしい。
「だったら、ジンさんたちに頼んで、作ってもらえば……!」
『そんな図々しい願いはできない』
「なんでよ?」
変なところで遠慮っぽいフィリシャスである。
『人間そのもの、というボディを作るのがいかに大変か、知っているつもりだ。おそらく年単位の時間と、特殊な素材を使うため、途方もないコストが……』
「いや、半日あれば作れるが」
兄妹の問答を聞いていた仁だが、黙っていられなくなって口を挟んだ。
『……は?』
「いや、だから、半日あればボディは作れると言ったんだ。まあ、外見データがないと無理は無理だが」
『半……日? 半年では……なく?』
「半日。もっと正確に言うと4時間くらいかな。ボディに1時間、外見に1時間、調整に30分……あ、半日も掛かんないか」
『ジン殿……魔法工学師という方はそれほどまで……?』
「そうよ、兄さん。ジンさんはちょっと想像できないくらい高みにいる技術者なんだから」
『フィナ……』
「うん。だから、遠慮しないでくれ。デルフィナも俺達の仲間だし、仲間の要望なら極力叶えてやりたいしな」
『それが本当なら……私ももう一度、身体を持つことができる?』
「できるわよ、兄さん!」
『もう一度、フィナと手を取り合うことができる?』
「そうよ、兄さん」
『そんな日が来るとは思っていなかったが……ああ……』
少しの間が空いた後、再びフィリシャスの声が響いた。
『ジン殿、貴殿にお願いする。どうか、私のボディを作って欲しい』
「引き受けた」
フィリシャスの願いを快く引き受ける仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20211220 修正
(誤)マリッカの弟子でロードトスの友人『傀儡くぐつ』のルルストナーらは
(正)マリッカの弟子でロードトスの友人『傀儡』のルルストナーらは




