84-06 フィリシャスのボディ
ガスマダ島に完成した管理棟。
地上1階、地下3階という構造である。
なお、地下3階部分はシークレットとなっており、転移門が設置されている。
この転移門には機密保持のため、信号により自壊する機構も組み込まれている。
さらに地下1階部分にはノルド連邦『森羅』の氏族長邸からの転移魔法陣が設置されており、公式訪問時には使用できる。
地上部は執務室と談話室が。
地下2階部分は倉庫と居住施設で、狭いが10名が寝泊まりできるようになっていた。
「転移魔法陣を設置してもらえたのは嬉しいわね」
転移ルート開通記念でやって来たシオンが、嬉しそうに言った。
ノルド連邦にも『アヴァロン』直通の転移魔法陣があるため、関係者が『森羅』の氏族領経由ではあるが、乗り物を利用することなくガスマダ島に来られるのは便利である。
そしてこの転移魔法陣を使い、ガスマダ島調査隊の面々は一旦『森羅』の氏族領へ行き、そこから『アヴァロン』を経由して各国へ戻っていった。
* * *
ガスマダ島に残っているのは仁、礼子、ロードトス、桃子、マリッカ、花子、デルフィナといったメンバーのみとなる。
「折返し、各国の調査団が来るのは3日後くらいだろう。その間にフィリシャスのボディを仕上げてしまうつもりだ」
仁はそう宣言し、地下3階の転移門を使い、蓬莱島へ。
同行したのは礼子とマリッカ、そしてデルフィナだ。
デルフィナには、フィリシャスの外見をチェックしてもらおうと思っている仁である。
そのデルフィナがマリッカに一緒にいてほしいと願ったので、今回マリッカも付いてきたのである。
蓬莱島の工房にて。
「よし、それじゃあ取り掛かるか」
もう何度も製作しているので、『人間並み』のボディを作るノウハウは十分に持っている仁。
礼子を助手に、素材を準備していく。
『職人』101も手伝ってくれたので5分で素材の準備が整った。
「よし。……礼子、体型のデータを確認しよう」
「はい。身長172センチ、体重67キロとのことです。やや痩せ型ですね」
「わかった」
仁はその情報に合わせて骨格を形成し、筋肉組織を付加していく。
微調整は完了後にもできるので、まずはおおよその体型を形作っていく。
胸腔内に『魔力反応炉』を収め、補助装置類も次々にセットしていく仁。
その間およそ20分。
マリッカはその様子をうっとり見ているし、まだまだ仁の規格外さに馴染めていないデルフィナは驚きをもって見つめていた。
魔導神経線やセンサー類の配置をし、皮膚を被せていく。ここまででおよそ40分。
「よし、外見の調整に取り掛かろう。礼子、髪と目の色は?」
「はい、共にグレイです。デルフィナさんと同じですね」
「兄妹だもんな。わかった」
髪の色はグレイに、瞳の色もグレイに調整。
「外見の微調整は礼子に頼もう」
「お任せください」
礼子なら、『読み込んだ』データを『直接』参照できるので、仁以上に正確に模倣できるのである。
もちろん仁だって十分すぎる構成力を持っているが、礼子なら100点満点の模倣ができるのだ(仁だと98点くらい)。
礼子は10分でフィリシャスの容姿を整えた。
「兄さん……!」
仕上がったボディを見て、デルフィナは思わず口走ってしまう。
それほどまでによく似ているということだろうと、仁は満足した。
さらに微調整を行い、最後に制御核をセットすれば完了だ。
もっとも、まだボディは裸なので、服を着せるという工程が残ってはいたが。
服は、デルフィナに当時のデザインを聞きながらマリッカが作ってくれたものを着せた。
「これでよし」
厳重なチェックも終わった『フィリシャス』。
あとは起動するだけだが、それはここではない。
「礼子、運んでくれるか?」
「はい、お父さま」
「よし、それじゃあ行こう」
「はい、ジンしゃま」
「は……はい!」
* * *
転移門を使い、再びガスマダ島に移動した仁たち。
「早かったですね」
ロードトスが仁たちを迎えた。
「それがフィリシャス殿のボディですか?」
「そうだ。これから約束を果たしに行く」
「ご一緒させてください」
「いいとも」
そういうわけで仁、礼子、マリッカ、花子、ロードトス、桃子、そしてデルフィナらは『魔導頭脳フィリシャス』の下へと向かった。
フィリシャスのボディはそのまま礼子が抱えていく。なかなかシュールな絵面である。
* * *
『早かったですね……』
「さあ、見てくれ。これが『フィリシャス』のボディだ」
仁は『魔導頭脳フィリシャス』が用意していたベッド状の作業台にフィリシャスのボディを横たえた。
『おお……!』
「兄さん、私も製作に立ち会ったわ。これならきっと、兄さんも気に入ると思う」
『うむ、フィナにもそう言ってもらえるなら間違いないだろうな』
「それでは、起動しようと思う」
『ジン殿、頼みます』
「……『起動せよ』」
「……はい」
『フィリシャス』が起き上がった。
「兄さん!」
「……フィナ……」
駆け寄ったデルフィナと手を取り合うフィリシャス。
「……温かいな」
仁の自動人形は体温もちゃんと再現しているのである。
「フィリシャス殿、具合はどうかな?」
「……とてもいいですよ。さすが『魔法工学師』ですね! 自分で作らなくてよかった……」
大喜びのフィリシャスである。
『……よかった。これで私も役目を終えることができる』
『魔導頭脳フィリシャス』も満足そうに言った。
「それでは、決めたとおり、魔導頭脳のデータを消去してしまいましょう」
『うむ、頼む』
「……ちょっと待ってくれ」
『ジン殿、何か?』
「それを行った場合、この魔導頭脳はどうなる?」
『機能停止しますね』
「うーん、それはいかにももったいないな。……どうだろう、フィリシャス殿の人格データだけを消去する、というのは?」
『そんなことが可能なら……いや、ジン殿には可能なのですね?』
「できると思う」
『でしたらお願いします』
「わかった」
こうして仁は、より難しく、より有益な道を選んだのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20211223 修正
(旧)ガスマダ島調査隊の面々は『森羅しんら』の氏族領——『アヴァロン』経由で各国へ戻っていった。
(新)ガスマダ島調査隊の面々は一旦『森羅』の氏族領へ行き、そこから『アヴァロン』を経由して各国へ戻っていった。
(誤)もちろん仁だって十分すぎるも構成力を持っているが
(正)もちろん仁だって十分すぎる構成力を持っているが




