81-20 発見、しかし
一方、少し時間は戻る。
『森羅』のシオンは、コンダックが戻っていった後、『仲間の腕輪』で仁に連絡を取っていた。
「……というわけなのよ」
『なるほどな。確かに『ノルド連邦』にも当時の施設が残っていてもおかしくないからな』
「ええ」
『だが、それが『魔導大戦』時のものとは限らないぞ』
「どういうこと?」
『例えばラルドゥス関連とか、『魔法連盟』とか』
「あ、そうね」
『『魔導大戦』時のものだとしても、『デキソコナイ』たちのものなのか、あるいは北方民族のものか』
「確かに」
『『始祖』のものという可能性だってある』
「そうよね」
『今のところ、情報がなさすぎるから判断はできないが……ロードトスたちを心配する気持ちはわかるよ。こっちでも手を打っておこう』
「ありがとう、ジン」
『いいさ。今のシオンは大おばあ様であると同時に氏族長夫人なんだから』
「そう言われると照れるわね。……とにかくお願いするわ」
『おう』
そんなやり取りがあったのである。
* * *
「老君、ロードトスたちが調査に行っている周辺を調べて、危険があったら教えてくれ」
『はい、御主人様。承りました』
* * *
そして今、マリッカが設計した汎用ゴーレム2体……製作は弟子……が、謎の施設を調査していた。
……老君が仁に報告していない、ということは、まあそういうことである。差し迫った危険はない、ということだ。
2体が進んだ先にはもう1つ扉があった。
それはほとんど錆びついておらず、いくらか軋みながらであるが、比較的楽に開けられたのである。
そして、そこにあったものは……。
〈これは……〉
〈かなり旧型だが、戦闘用ゴーレムだな〉
10体の戦闘用と思われるゴーレムだった。
〈『魔導大戦』時代のものだろうか?〉
〈おそらくはそうだろう〉
どうやらここが目的地のようだと、2体は『傀儡』のニケリスに連絡を取った。
『おお、よくやった。……だが、途中に硫化水素か……』
〈ここのゴーレムの外装は鋼鉄製のようですから、運んでいくと腐食されてしまいます〉
『確かにな……少し待て。方法を考える』
〈わかりました〉
* * *
「うーむ……聞いてのとおりだ、ロードトス。どうする?」
「10体のゴーレムか。是非手に入れたいな。貴重な情報を持っているかもしれないしな」
「確かにそうだな、巧妙な隠し通路や硫化水素の罠の奥……相当な事情があったはずだ。だが、どうやって運び出すつもりだ?」
「そうだなあ……『転移魔法陣』の許可をとって、向こうから転移させるか……あるいは硫化水素を無効化するかだな」
「無効化できるのか?」
硫化水素H2Sは天然での発生もあるため、幾つかの除去方法がある。
活性炭で吸着する方法や、アンモニアと反応させ硫化アンモニウムと水にしてしまう方法、消石灰で中和する方法などがある。
「うーん……無効化の方は、すぐにはできそうもないな」
「そうだな」
「そうすると転移魔法陣か。許可は氏族長だったな?」
「そうだ。コンダックに頼むとしよう。ちょうど、頼みたいこともあったしな」
そういうわけで再びコンダックは『森羅』氏族長の下へ転移したのである。
* * *
「なるほど、そういうわけね」
転移したコンダックはシオンに相談した。
シオンは長年『世界会議』の構成員を務めていたこともあり、『ノルド連邦』での地位も高く、そうした裁量権をもつ1人である。
「そのゴーレム10体だけ? 他に運び出したいものはないのかしら?」
「ない、ということでした」
「わかりました。許可しましょう」
「ありがとうございます」
「……そうね、簡易型の転移魔法陣をあげましょう」
シオンは奥の棚に掛かった鍵を開け、巻いた皮紙を取り出した。
大きさはA1くらい、かなり大きめの紙である。
「2枚1組になっているから、広げて地面に固定するだけで使えるわ。これをお使いなさい」
コンダックはそれを押しいただく。
「あ、ありがとうございます、シオン様!」
「10体を送り出した後は廃棄してちょうだいね」
「そのように伝えます。それから、地質……岩石・鉱物に詳しい者を1名、派遣してほしいそうです」
「わかったわ。……コンダック、一旦それを持って転移し、もう一度戻ってこられるかしら?」
「大丈夫です」
「そう。それなら、まずは転移魔法陣を届けてちょうだい。その間にこちらも人を呼んでおくわ」
「はい、わかりました」
コンダックは転移魔法陣を受け取って大急ぎで転移し、ロードトスたちのところへ戻った。
「許可が下りました」
「おお、やったな」
「その上、このようなものまで頂いてきました」
コンダックは転移魔法陣の描かれた皮紙をロードトスに差し出した。
「おお、これはいい」
皮紙に魔法処理がなされているので、硫化水素にも侵されることはない。
そこで、『傀儡』のニケリスは2体の汎用ゴーレムに、1体が戻ってくるよう指示を出す。
〈了解。すぐ戻ります〉
汎用ゴーレム『1』が戻ってくることになったのである。
* * *
そして少しの休憩の後、コンダックはもう一度シオンの下へ転移する。
「来たわね。……石に詳しい者を呼んでおいたわ。もう来るでしょう。待っている間、お茶でもどうかしら」
「いただきます」
シオンに淹れてもらったお茶を飲んで待つこと5分。
「シオン様、お呼びでしょうか」
ロードトスやコンダックよりもう少し年配と思われる男がやって来た。
灰色の髪、灰色の目をしており、『森羅』や『傀儡』の氏族ではなさそうだ。
「ああ、来てくれたわね。……コンダック、紹介するわ。彼は『乖離』のアトキンス。地質学者よ」
「『乖離』のアトキンスです」
「『森羅』のコンダックです」
2人は握手を交わした。
「それでアトキンス、事情はわかっているわね?」
「はい。呼びに来た使者の方から聞きました」
「そう。そういうわけで、コンダックと一緒にシトン川の廃坑に行ってほしいの」
「わかりました。コンダック君、よろしく頼む」
「はい、お任せください」
『北方民族』の気性として、面倒なやり取りは好まない、というものがある。
アトキンスも同じで、コンダックとともに即現地へと向かったのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210917 修正
(誤)「そういうこと?」
(正)「どういうこと?」




