81-21 とりあえず一区切り
『乖離』のアトキンスを連れ帰ったコンダックは、さすがに疲れたようで、天幕へ戻って寝てしまった。
そしてロードトスはアトキンスと挨拶を交わす。
「『傀儡』のロードトスです」
「『乖離』のアトキンスです。お噂はかねがね。……それで、何を確認すればいいのでしょう?」
挨拶もそこそこに、アトキンスは自分が呼ばれた目的について尋ねた。
「ええ、実は……」
ロードトスは、桃子が持ち帰った岩石と鉱物のサンプルを示した。
「なるほど、スカルン系の鉱山であるこのシトン川河口付近ですが、マグマの貫入があったようですね」
ごくまれに、地下深くからマグマが染み出してきて地殻を形成する地層に貫入することがある。
その際、高熱を帯びたマグマによって、付近の岩は熱変性を起こす。これを熱変成岩あるいは接触変成岩という。
例えば石灰岩が熱変性を起こしたものが大理石である。
また、マグマそのものが地表近くで冷えれば火成岩となり、冷え方がゆっくりであればあるほど結晶が大型化するので、『ペグマタイト(巨晶花崗岩)』と呼ばれるものとなったりする。
ペグマタイトには、結晶化の際に分離した気体や液体を含む『晶洞』が時折見られ、純度の高い鉱物の結晶が形成される。
その昔、『始祖』によって惑星改造されたアルスであるが、ところどころにこうした本来の惑星としての営みを見せていたりする。
「元々、スカルンというものは、マグマの成分(ケイ素、鉄、アルミニウムなど)が 石灰岩の成分と反応してできた、カルシウムやケイ素などを主成分とするスカルン鉱物と呼ばれる鉱物の集合体ですからね」
マグマそのもの(からできたペグマタイト)があってもおかしくはない、とアトキンスは言った。
「これは花崗岩ですね。こっちは閃緑岩。それにこちらはアダマンタイトの鉱石であるアダマスロックですね」
「ということは、ここでアダマンタイトが採れるわけですか」
「今現在、どれくらいの埋蔵量があるかはわかりませんけどね」
アダマンタイトは元々希少な金属なので、少しでも採れれば採算が取れる。今後の調査待ちだが、希望が出てきた。
「『ノルド連邦』の経済発展の一助になるといいですねえ」
「同感です」
そんな話をしていると、『傀儡』のニケリスも転移魔法陣の設置を終えたようだ。
「ロードトス、対になる魔法陣は汎用ゴーレムが持っていった。じきに連絡が来るだろう。そうすれば見つけたゴーレムをこっちに送ってくるはずだ」
「わかった。準備ができたらもう一度声を掛けてくれ」
「了解だ」
転移魔法陣上に現れたゴーレムは自力では動けないはずなので、ロードトスたちが運び出さなくてはならない。
『北方民族』は皆力があるので、200キロくらいのゴーレムなら1人で運べるからこういう時には便利だ。
だが、しかし。
ゴーレムの重さは300キロほどあった。
従って2人掛かりで運ぶことになる。
大した問題ではないが。
「足元に気をつけろよ。皮紙に描かれた魔法陣だからな」
破ってしまったらもう使えなくなってしまうから、気を付けなくてはならない。
汎用ゴーレムが1体を転移魔法陣に担ぎ込み、転移させる。
受け入れ側では送られてきたゴーレムを2人掛かりで担ぎ上げ、横に置く。
これを繰り返し、10体全てを運び出し終わったのは15分後であった。
「よし、そっちの転移魔法陣が描かれた皮紙は破ってから持ち帰ってこい」
ニケリスは汎用ゴーレムに指示を出した。
そしてこちらの転移魔法陣の皮紙は燃やしてしまう。
これで申請した用途以外に転移魔法陣を使うことはできなくなった。
当然、悪用される心配もない。
「これで、調査隊としての目的はだいたい果たしたかな」
シトン川の『廃坑』の調査、そこから派生した『施設』の確認、発見したゴーレムの確保。そしておまけとしてアダマンタイト鉱脈の発見。
『第一次』調査隊としては上々の成果であろう。
「あとはこのゴーレムを解析してみる必要があるのでは?」
天幕から出てきたコンダックが言った。彼はマリッカの孫弟子でもあり、ゴーレム技術に興味を持っているのだ。
「それは戻ってからでいいだろう」
「でもロードトスの風力式浮揚機じゃ全部は運べないだろう?」
「それはそうだが」
1体300キロもあるゴーレムなので、ギリギリ4体。できれば積むのは3体としたいところである。
一応、シオンやベリアルスに報告してあるので、明日には運搬班が来るのではと思っていた。
「なら、時間もあることだし、ここで解析してみるのもありじゃないか? どうせ、この後第2次調査が行われるんだろう?」
「そうなるだろうな」
「その時、もしかするとこのゴーレムたちが役に立つかもしれないじゃないか」
「一理あるな」
「だろう?」
そういうわけで、全員立ち会いの上で、見つけ出したゴーレムを1体、解析してみることになった。
ここにいる全員が技術者なので、得手不得手はあるにせよ、ゴーレムの解析は行える。
そこで、コンダックの主導で1体を解析してみることにした。
ロードトスは監査役として、やりすぎないか、また手法が適切かを監督する。
「外装は鉄系合金。……『ニッケルクロム鋼』だ」
ニッケルクロム鋼は、炭素鋼に1〜3.5パーセントのニッケル、0.2〜1パーセントのクロムを加えた合金鋼で、組成はステンレスに似ているものの、添加量が少ないためステンレス鋼ではない。
強靭で、耐食性や耐摩耗性、焼入れ硬化性に優れる。
「骨格も同じだな。次は筋肉素材だが……金属系だ」
生物系素材ではない、とコンダック。
「『アドリアナ式』ではないな。『ノルド連邦』に古くから伝わる方式だ」
ロードトスも気が付いたことを口にする。
他のメンバーは黙って注目していた。
「つまり、これは『魔導大戦』頃の技術を使っている可能性が高い。作られたのは大戦前か大戦中か……」
「あるいはぐっと近くなって500年前くらいか?」
大戦後、100年ほどは人口激減で、こうした『戦闘用』ゴーレムを作る余裕はなかったはずだからである。
そして400年前……仁が現れてからは、ゴーレムの形式が変わったし、使われる材質も傾向が違ってきているのだ。
「そして制御核と魔素変換器はどうかな……」
いよいよ核心部の解析である……。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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