81-19 増援
3月9日朝、増援を乗せた風力式浮揚機が到着した。
やって来たのは2体の汎用ゴーレムと、『傀儡』のニケリス。
「ニケリスか」
「おう。ロードトス、苦戦しているようだな」
「思ったより謎が深いようなんでね」
「任せろ。この『マリッカ様設計』の汎用ゴーレムを使えば、謎なんかたちどころに暴いてやるぜ」
「相変わらず威勢がいいな。だが、本当に謎が深いんだ。気をつけてくれよ」
「わかってる」
ニケリスもまた、かつてマリッカ杯に参加した技術者である。
ロードトスは桃子とともに、内部のルートについて説明していった。
「なるほど、よくわかった。……だが、分岐のある小部屋で、左のルートを確認していないのはなぜだ?」
「時間がなかったんだ。もう夜になるところだったからな」
「そういうわけか」
「それじゃあ、桃子にも一緒に入ってもらって、左ルートは桃子、右ルートは汎用ゴーレムに任せてもらえるかな?」
「それでいいよ」
* * *
3方に分岐する小部屋まではまったく問題なく進出できた。
そこで桃子は左へ、汎用ゴーレム2体は右へと分かれる。
それぞれを待つものは何か……。
* * *
左に進んだ桃子は、30メートルほどで崩落に行き当たった。
そのあたりは岩質がもろく、坑道が崩れてしまっていたのだ。
『ロードトス様、どういたしましょう?』
「崩れたのはいつ頃かわかるか? それによって危険度も変わってくるぞ」
崩れたのはかなり昔のようで、今すぐこの付近が危険ということはなさそうだった。
「そうか。それなら少し周辺の壁を調べてみてくれ」
『わかりました』
指示を受けた桃子は、坑道の壁を調べてみる。
そのあたりは明らかにスカルン鉱床のものではなかった。
それについて桃子が報告するとロードトスは、
「わかった。サンプルを持って戻ってこい」
と指示を出し、桃子はそれに従うこととなる。
衣服……エプロンドレスのポケットに詰め込めるだけ詰め込んでいく桃子であった。
* * *
一方、右ルート。
道中に問題がないことは桃子の調査でわかっているので、2体の汎用ゴーレムは早足で進んでいった。
とはいえ、不慮の事態への対処のため、周囲の探索は怠らない。
これについても、2体で範囲を分担しているので負担も半分になっており、効率化がなされていた。
そして問題の扉。
ゴーレムの膂力……桃子の5倍……でもびくともしない。
破壊は可能だが、その際どんな悪影響が生じるか見当もつかないのでやめておく。
〈どうしようか?〉
汎用ゴーレム1は同僚である汎用ゴーレム2に相談した。
マリッカ設計なので、そうした判断力がある。
〈開けられないことで、ここが出入り口であるという可能性は低くなった〉
汎用ゴーレム1はパワー、2は思考と判断力にパラメーターを振ってあるのだ。
〈どういうことだ?〉
〈この扉はダミー、もしくは罠の可能性が出てきたということだ〉
〈……なるほど〉
『1』と『2』は、まず扉の周囲の壁、地面、天井を『地下探索』でチェック。
何も見つからなかったので、少しずつ後退しながら『地下探索』で調べていく。
扉から20メートルの範囲にはなにもないことがわかった。
〈……そうすると、手前にあった扉が怪しい〉
『2』は論理的に考え、そのあたりに隠された分岐があるのではないかと見当をつけた。
〈扉の前後を調査しよう〉
〈わかった〉
2体は手分けして扉の外……出入り口側と内……奥側を調べていく。
手がかりを見つけたのは扉の内側を調べていた『1』だった。
〈ここの岩壁に何か隠されているぞ〉
調べてみるとそれは取っ手のようなものだった。
〈引くかひねるかするようだな〉
その取っ手を引くと、重い手応えがあり、扉の外側の壁の一部に亀裂が入った。
〈どうやらここにも隠された出入り口があったようだ〉
〈予想が当たったな〉
そして2体がかりで隙間を広げていく。
それは表面に岩を貼り付けた、鋼鉄で裏打ちされた扉であった。
年月を感じさせるように錆びついた扉は、軋む音を立てながらゆっくりと開いていく。
2体がかりでも1分ほど掛かってようやく通れるまでに開いた。
〈これでよし。……一旦ニケリス様に報告してから先へ行くぞ〉
〈了解だ〉
そして2体は内蔵魔素通信機でニケリスへ報告を行ったあと、未知の通路へと足を踏み出した。
通路はすぐ下りになっており、手掘りかと思われる荒削りな階段が付いていた。
ゆっくりと下る2体。
と、先頭を歩いていた『1』の足が止まった。
〈どうした?〉
〈この下には腐食性の気体が溜まっている。……硫化水素だ〉
硫化水素は腐卵臭を持つ有毒の気体である。
反応性が高く、鉄や銅を腐食させる。
〈我々の外装は軽銀だから大丈夫だろう〉
〈うむ〉
マリッカが設計した汎用ゴーレムの素材には鉄系は使われていない。
耐食性の高い素材ばかりである。
軽銀は表面に強固な酸化皮膜を形成するので、硫化水素には侵されない。
ただし乾燥した塩素ガスには弱く、四塩化軽銀を生じる。
今回の腐食性ガスは硫化水素なので問題はなかった。
ゆっくりと階段を下りていく2体。
その足元は、いつしか平らになっていた。
水平、という意味と、平滑、という意味で、である。
硫化水素にも侵されない材質……石英のようだ。
厳密には、石英もわずかながら侵されるようだが、この場所ではまだそれが顕著ではない。
そして通路……もはや坑道とは言えない……は、再び上りになる。
どうやら『硫化水素溜まり』を作るため、道が一旦深くなっていたようだ。
〈硫化水素はなくなったな〉
〈そのようだ。酸素は相変わらずわずかしか含まれていないが〉
通路はまだ続いていく……。
* * *
地上では、サンプルを持って戻ってきた桃子を、ロードトスが出迎えていた。
「ご苦労だったな。で、石のサンプルは?」
「はい、こちらです」
桃子はエプロンドレスのポケットから石のサンプルを取り出し、シートの上に並べてみせた。
「ううん、これは……花崗岩かな? こっちは……わからないな。これは……水晶か」
ロードトスは地質学には疎いので、石の同定は苦手なのであった。
わずかに、花崗岩や水晶など、見かけることの多い岩石や鉱物を判別できる程度であった。
「誰か、専門家に聞かないとわからないか……」
そういうわけでロードトスは、後ほど『森羅』のコンダックに専門家を呼びに行ってもらおうかと思うのであった。
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本日9月16日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
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20210916 修正
(誤)何も見つからなかったので、少しずつ後退いながら『地下探索』で調べていく。
(正)何も見つからなかったので、少しずつ後退しながら『地下探索』で調べていく。
(誤)硫化水素は腐卵臭を持つ有毒の機体である。
(正)硫化水素は腐卵臭を持つ有毒の気体である。
(旧)『1』と『2』は、まずドアの周囲の壁、地面、天井を『地下探索』でチェック。
(新)『1』と『2』は、まず扉の周囲の壁、地面、天井を『地下探索』でチェック。
20210917 修正
(旧)破壊は可能だが、その際どんな副次効果が生じるか検討もつかないのでやめておく。
(新)破壊は可能だが、その際どんな悪影響が生じるか見当もつかないのでやめておく。
(誤)『2』は論理的に考え、そのあたりに隠された分岐があるのではないかと検討をつけた。
(正)『2』は論理的に考え、そのあたりに隠された分岐があるのではないかと見当をつけた。




