81-18 シオンの料理
「錆びた鋼鉄の扉……ですか……怪しいですね」
『桃子』は坑道を下りた先に現れた扉について、ロードトスの指示を仰ぐことにした。
「うーむ、どうするか……」
鋼鉄の扉は、坑道に設けるものではない。
明らかに異質な施設が廃坑の奥に存在すると思っていいわけだ。
不測の事態に対する対応能力は、おそらく『桃子』では不十分だろう、とロードトスは悩んだ。
「ロードトス、不慮の事態なんて起きるかな? これまでずっと放置されていたんだろう?」
『傀儡』のハルナータが助言をした。
「そうかも知れないが、何かあっても助けてやれないしな」
未だに中の空気は呼吸不可の組成であった。
「慎重に調査して、少しでも異常があったら引き返させればいいじゃないか。いずれにせよ調査はしなければならないのだし」
「それはそうだな」
一旦帰還して再度出直す、という手もあるが、その場合第一発見者が自分たちでなくなる可能性もある、とハルナータは続けた。
『森羅』のコンダックに転移してもらい、ゴーレムを連れてくる、というのは転移で運べる重さが100キロまでというところでちょっと無理。
「悩ましいな……仕方ない、更に注意しながら桃子に調べてもらおう」
そういうわけで、細心の注意を払いながら、桃子に調査を続けてもらうことになったのである。
桃子は指示に従い、鋼鉄の扉の開閉機構を確認する。
特に複雑なロック機構があるわけではなく、取っ手横にあるツマミをひねれば扉が開くようになった。
中は真っ暗である。空気もこれまで以上に澱んでいる。
これまで以上にゆっくり、慎重に桃子は進み始めた。
「地面も壁も、これまでとは少し違う加工がなされているようですね」
使用している『明かり』の光量も半分に落としているので、やや見づらくなってはいるが、そうした情報は十分に得られている。
これまでに比べ、加工が丁寧になったというか、凹凸が減ったというか。
担当する業者が変わった、という印象である。
桃子の進む速度は時速1キロほど。罠を警戒しているのである。
が、幸いというべきか、そうしたトラップは1つもなく、30分後にまたしても扉に行く手を塞がれたのである。
『どういたしましょう?』
桃子はロードトスに指示を仰いだ。
「ここまで来たら進むしかないな。これまでどおり慎重に進んでくれ」
『はい、ロードトス様』
桃子は正面の扉に手を掛け、開けようと試みる……が。
開かないのだ。こちらも鋼鉄製のようだが、空気中に酸素が含まれていなかったせいか、錆びついてはいないように見える。
なのにノブが全く動かない。
無理やりひねれば壊してしまいそうである。
いろいろと試した結果、埒があかないので桃子は再びロードトスに指示を仰ぐ。
「うーん……それ以上無理はできないか……わかった、一度戻ってこい」
『わかりました』
これ以上無理をさせて桃子を失うことになるのは嫌なので、ロードトスは帰還するよう指示を出したのである。
「……残念だ」
「同感です」
その判断に異を唱える者はいなかったが、残念そうな表情は皆同じであった。
* * *
そういうわけなので、一行は相談の末、増援を頼むことにした。
転移魔法が使える『森羅』のコンダックが一旦戻り、状況を説明。
コンダックは転移でロードトスたちの所へ戻り、増援は風力式浮揚機で送り込んでもらう……と、そういう話がまとまった。
魔素通信機による通信よりも、現場にいた人間からの説明のほうがいいだろうという判断からである。
「では、行ってくる」
コンダックは転移していった。あとは待つだけである。
* * *
「ふむ、そんなことがあったのか」
転移で一時帰還したコンダックは氏族長のベリアルスに報告をしていた。
「よし、調査用に汎用ゴーレムを2体送ろう」
「ありがとうございます」
「場所はわかっているから、明日の朝に到着するタイミングで送り出すことにする」
「助かります」
すぐに話は通り、ベリアルスはてきぱきと手を打っていく。
そこへシオンもやって来て、大きな鍋を差し出した。
「せっかく戻ってきたのだから、夕食用に、調理したてのお鍋を持って戻るといいわよ」
中身は豚汁であった。
「あ、ありがとうございます」
予期せぬ贈り物に驚きはしたが、熱々の豚汁が入った鍋を持ち、コンダックはロードトスたちのもとへ戻ったのである。
「おお、これはシオン大おばあさまの豚汁だな」
曾孫であるロードトスは、一口食べてそれがシオンの作った豚汁であることを見抜いた。
小さい頃から彼はシオンが作るご飯が大好きだったのである。
「シオン様の料理はいつ食べても美味しいですよね」
「お若い頃は苦手だったというのが嘘のようです」
「いや、苦手だったからこそ練習を積み、研鑽を重ねて今のようになったんだと言ってたぞ」
ロードトスが真実を告げた。
「おお、さすがはシオン様」
「尊敬に値するなあ」
シオンは氏族の違いにこだわらず、ノルド連邦をよくしようと若い頃から尽力してきた。
その人柄は全ての氏族の者たちから認められ、慕われているのである。
* * *
夕食も済み、一行は天幕の中でのんびりと談笑している。
周囲への警戒は桃子が行ってくれているし、『障壁発生器』もある。
安心安全であった。
「どうやら、鉱山が廃坑となった後に、何らかの目的に利用した者がいるらしい」
「それを遺跡と勘違いした、ということかな?
「それで間違いなさそうだな」
「問題は、利用した者が誰なのかということだ」
「うむ」
雑談から次第に、そういった話し合いへと移行していくのは致し方ないだろう。皆、気になっているのだ。
「廃坑になったのはいつ頃かわかるか?」
「500年くらい前と聞いている」
「『魔導大戦』よりは後なのか……ますますわからんな」
「500年前だと、『2代目魔法工学師』が現れる前だな」
「つまり、我々がまだ『魔族』と名乗っていた頃か」
「……もしかすると『デキソコナイ』関連の施設なのかもな」
「だとしたら、明日は今日より更に慎重に行く必要があるな」
「そして、なんとかして見極めたいものだ」
野営の夜は更けていく……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210915 修正
(誤)「500年くらいと聞いている」
(正)「500年くらい前と聞いている」
(旧)不慮の事態に対する対応能力は、おそらく『桃子』では不十分だろう、とロードトスは悩んだ。
(新)不測の事態に対する対応能力は、おそらく『桃子』では不十分だろう、とロードトスは悩んだ。




