81-17 廃坑調査
ローレン大陸の人類よりも力のある北方民族なので、短時間で土石を取り除くことができた。
そこには錆びついた鉄の板で蓋をされた坑道入口があった。
当然、その蓋をどけてみる一行。
「お、やっぱりここが旧鉱山の入り口だ」
「中を調べてみたいが……酸欠になるだろうな。……桃子、頼めるか?」
当然ここは『桃子』の出番となる。
「はい、お任せください」
ずっと閉鎖されていたわけだから、危険な生物がいる可能性は低い。
代わりに可燃性ガスや人体の害になる気体が溜まっている可能性が高い。
そういうわけで桃子は魔法の灯り『明かり』を灯し、旧鉱山の調査を開始したのである。
『明かり』を灯すのは、その方がよりよく細部の確認ができるからに他ならない。
赤外線だけでは見落としが生じるだろうからである。
『ロードトス様、内部は比較的整っています』
内蔵魔素通信機ではなく背嚢の『魔素通話器』で報告を行う桃子。
「そうか。気をつけていくんだぞ」
『はい』
そして桃子は慎重に進んでいく。
700年以上を経た坑道とは思えないほどしっかりしている。
『強靱化』と同じような効果のある魔法が今も働いているのだ。
当時の作業者が手を抜かず、堅実な仕事をした証左である。
桃子は斜め下へと伸びる坑道をゆっくりと下りていった。
『地質が石灰石ではなくなりました』
桃子からの報告。
「地熱によって変性したのかな?」
『そうかもしれません。坑道内の温度は摂氏5度ほどです』
「慎重に行けよ」
『はい』
石灰岩がマグマの成分と反応してできた、カルシウムやケイ素などを主成分とする『スカルン鉱物』の集合体を『スカルン』と呼び、独特な鉱物が採れる。
地球では『灰ばんざくろ石』『灰鉄ざくろ石』『灰鉄輝石』『ベスブ石』などがそれである。
そして、ここアルスでは……。
『魔結晶の微細片を発見しました』
どうやら魔結晶が採掘されていたらしい。
「大きさと属性は?」
『はい、ロードトス様。最大長は2ミリほど、色は乳白色ですので全属性と思われます』
「よし。もう少し進んでくれ」
『はい』
さらに深部へと歩みを進める桃子。
次に見つけたものは……。
『ロードトス様、黄鉄鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱、黄銅鉱の細片を発見しました』
「そうか。回収し、さらに進んでくれ」
『はい』
黄鉄鉱は硫黄と鉄の化合物、方鉛鉱は硫黄と鉛の化合物、閃亜鉛鉱は硫黄と亜鉛の化合物、黄銅鉱は硫黄と銅の化合物である。
いずれもスカルン鉱床に産することがある。
「どうやらかつての鉱山跡で間違いないな」
ロードトスが言うと、技術者である『福音』のアーキスタも賛成した。
「空気の組成はどうだ?」
『はい。酸素はほとんどありません。その上、メタンとエタンが1パーセントほど含まれています』
「そうか」
メタンもエタンも可燃性の気体である。とはいえ酸素がないなら引火の心配はほぼないと言っていい。
そして、ここまで一本道だった坑道が、3つに分かれている場所となった。
四畳半くらいの広さで、行き先は3つ。
真っ直ぐ、斜め右、斜め左となっていた。
3つともほぼ同じような坑道なので、桃子はロードトスに判断を仰いだ。
『どういたしましょう、ロードトス様』
「そうだな、真っ直ぐ進んでみてくれ」
『わかりました』
桃子の記憶力、空間把握能力なら、この程度の廃坑内で道に迷うことはありえない。
ロードトスの指示通り、桃子は真ん中の道を進んでいった。
なだらかに下っていた道は、30メートルほど進むとほぼ水平になった。そしてまだまだ先に続いている。
今度は少し上り坂になったが、構わず桃子は進んでいく。
もうかれこれ2キロは歩いたかと思われるが、まだ坑道は続いていた。
だが、どんなに長い坑道も、終わりはある。
緩やかな上りの果て。
そこには錆びた鉄製の蓋があった。
『ロードトス様、行き止まりです』
「うん、どんな感じだ?」
『はい、入口にあったような鉄の蓋がされています。おそらくここはもう1つの地上への出口です』
「何!?」
坑道の出口が1つとは限らないわけで、この坑道は別の出入り口に繋がっていた、というわけである。
「中からなら簡単に開きそうか?」
『やってみます』
桃子は抑えていたパワーを開放し、鉄製の蓋を思い切り押してみた。
ガラガラと崩れる音が外でしている。
そのまま力を加え続けていると、少しずつ蓋がずれ始めた。と同時に手応えも軽くなってくる。
そしてついに、鉄の蓋が外に倒れ、陽光が坑道に差し込んできた。
『ロードトス様、蓋が開きました』
「ごくろうだった。ここからも音が聞こえたよ。とりあえずそこにいてくれ」
『はい』
桃子が待っていると、3分ほどで『森羅』のコンダックとゼダイスがやって来た。
「お、ここにもう1つの出入り口があったのか」
「コンダック、とりあえず鉄格子を取り付けるか?」
「そうだな、手早くやってしまおう」
2人は野生動物や魔獣などの巣にならないような処置をしに来たのである。
鉄の蓋を工学魔法で鉄格子に変形させて取り付け直すのだ。
コンダックはマリッカの孫弟子なので、こうした加工は得意だし、ゼダイスも以前トカ村で行われた『マリッカ杯』に参加した技術者である。
2人で手早く作業を進め、5分ほどで頑丈な鉄格子を出入り口に嵌め込んだのであった。
そこは、ロードトスたちがいる場所にあったものとほぼ同型の岩の建物であった。
「これでよし。うまくすれば坑道内の空気も入れ替わるかもしれませんね」
「桃子さん、これで我々は戻ります。あなたも分岐まで戻ってください」
「わかりました」
コンダックとゼダイスは来た道を帰っていった。
桃子もまた、坑道を戻っていく。
そして、分岐のある小ホールに到着。さっそく内蔵魔素通信機でロードトスと連絡を取る。
『ロードトス様、分岐に戻ってきました。どちらへ行きますか?』
「そうだな、それでは、我々のいる側から見て右へ行ってみてくれ」
『はい』
今度は右側の坑道へと桃子は進んでいった。
最初のうちはなだらかな下りであったが、次第に傾斜がきつくなり、ついには30度ほどの急斜面になってしまった。
地面はかなりガタガタ凸凹しているので滑ることはなかったが。
地下100メートルにもなろうとした頃、ようやく傾斜はなだらかになる。
そして錆びた鋼鉄の扉が現れたのである。
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20210914 修正
(誤)鉄の蓋を工学魔法で鉄格子に変形させてい取り付け直すのだ。
(正)鉄の蓋を工学魔法で鉄格子に変形させて取り付け直すのだ。
(誤)石灰岩がマグマの成分と反応してできた,カルシウムやケイ素などを主成分とする『スカルン鉱物』の集合体を
(正)石灰岩がマグマの成分と反応してできた、カルシウムやケイ素などを主成分とする『スカルン鉱物』の集合体を
20220401 修正
(誤)内蔵魔素通信機で報告を行う桃子。
(正)内蔵魔素通信機ではなく背嚢の『魔素通話器』で報告を行う桃子。




