81-08 マギロケットエンジン
『マギロケットエンジン(仮称)』の開発を独自に行う仁は、『爆発』魔法に改善の余地を見出した。
「地球のロケットエンジンは、急激な燃焼による発熱で空気や噴射剤を膨張させて噴射しているけど、魔法の爆発は『熱』や『光』は必要ないよなあ」
『マギロケットエンジン(仮称)』には必要のない物理現象である、と仁は認識した。
「つまり、熱や光を伴わない爆発か……」
「『魔力爆発』ですね、お父さま」
「そうなるんだが……ちょっと危険すぎるし、特殊すぎる」
『魔力爆発』は伝説級の魔法である。
礼子は使えるが、一般の魔法工作士には到底無理だ。
そして、制御を誤った場合のリスクが高すぎる。
1つ間違えばエンジンそのものが爆発する可能性もあった。
破壊目的なら多少の誤差は許容できるが、推進機関に使うには不向きである。
「まずは『火の爆弾』から熱要素を取り除けるかやってみよう」
「わかりました」
そこで仁は『読み取り』を使い、『火の爆弾』の構成を解析していった。
その昔、風属性魔法から反動を消す命令を見つけ出し、消去して再構成したように……。
「うーん……火属性魔法だからということで熱を発生させる命令はわかった。ただ、擬似的な空気を膨張させられなくなりそうな気がする……」
仁が解析した『火の爆弾』は、自由魔力素を制御して一時的に擬似的な空気分子もどきを作り、それを熱で拡散させる……というような行程を踏んでいるらしい。
その空気分子もどきは噴射されたあと数秒で自由魔力素に戻ってしまうようだ。
つまり、空気のない場所……水中や真空中でも問題なく使えるわけだ。
「それはそれで朗報なんだけど……熱がなあ……」
材質の選択や、取り付けた相手側への熱対策という点が問題になりそうだと、仁は考え込んだ。
そんな仁に、礼子が忠告を行う。
「お父さま、魔法を改良しようという時点で、一般の魔法工作士には無理なのでは?」
「あ……そうか」
一般向けという前提で開発をしていたにもかかわらず、こうして突き詰めていこうとするのはある意味仁の性である。
「まずはこの方式を実用化してから、自分たち用のものを検討しないとな」
「それがいいと思います」
そういうわけで、物理的な熱対策を仁は考え始めた。
「アダマンタイトは意外と熱伝導率がいいんだよな」
銅やアルミニウムには劣るが、軽銀や鉄よりも遥かにいい特性を持つ。
「まずはエンジン外側に放熱フィンを設けるか? ……いや、冷却するよりもむしろ断熱したほうがいいのかな?」
エンジンの温度上昇が性能にどう影響を与えるかを仁はテストしてみることにした。
先程のエンジンをそのまま使う。
物理障壁を展開し、内部温度を摂氏500度まで上げた時と、摂氏0度の時とで効率がどう違うかを調べるのだ。
「礼子、頼むぞ」
「はい、お父さま。お任せください」
そして実験開始。
「ふむ……ほとんど変わらない、か」
この『マギロケットエンジン(仮称)』は、使用する環境温度で効率の変化は極小であることがわかった。
「つまり、『火の爆弾』の発する効果のうち、『熱』はあまり意味を成さないんだろうな」
この事実は、仁独自の『マギロケットエンジン(仮称)』を作る時には役に立つであろう。
が、今は一般向けの開発だ。
「あとは出力と発熱のバランスだな」
というわけで、推進力を500キロに保った時の発熱を確認することにした。
「礼子、頼む」
「はい、お父さま」
結果として摂氏550度となった。
同様に、推力を300キロに制限すると、エンジンの温度は摂氏400度ほどで安定。
「よし、このくらいが許容値だな」
標準的な推力を300キロとするなら、エンジンはもっと軽量に作れる。
「緊急時は倍の推力にも耐えられるようにしても、今の半分の強度で十分だな」
安全率は十分に見込む仁である。
「あとは、アダマンタイトじゃなく耐熱鋼か高張力鋼を使って作れないかだな」
こちらはコストダウン、量産化に繋がる。
ただし前述のとおり、アダマンタイトと鋼材とでは熱伝導率が違うから、その点に留意した設計が必要になる。
「それから振動か……」
0.2秒間隔で爆発させているわけなので、5ヘルツの振動が発生していることになる。
これは機体に伝わり、乗り心地を悪くするだろうと思われた。
これ以上爆発間隔を短くするのは難しいので、振動が機体に影響を与えにくいよう……共振しないよう調整してみる。
「まずはこれでよしとしよう」
そうした数値、特性をあらかた検証し終わったのはその日の夕方であった。
* * *
「久しぶりに苦労したけど、いいデータが取れたぞ」
「よかったですね、お父さま」
満足そうな仁の顔を見て、礼子も嬉しそうだ。
完成した『マギロケットエンジン(仮称)』は2種類。
普及用。耐熱鋼を使用。JIS(日本工業規格)ではSUH330といわれるものに相当し、ニッケル33パーセント、クロム14パーセントを含む鋼材である。
ニッケルとクロムがコストアップの要因となるが、アダマンタイトで作るよりは安価にできる。
扱いやすい大きさということで、ノズル最大径20センチ、全長50センチのものとした。
重さは制御系別で約25キロ、最大推力は約1.7トン(約16.7kN)。
蛇足ながら、現在の日本では推力などの『力』はNもしくはKgf(キログラム重またはキログラムフォース)で表記する。
参考までに、F−15(イーグル)のエンジンは、初期型でも1基あたり10トン以上の推力を発揮するという。
蓬莱島用。
マギ・アダマンタイト使用。
同じ大きさであるノズル最大径や全長は同じ20センチと50センチで重さは約40キロ、最大推力は22トン(約216kN)。
同じ重さの鋼に比べ、10倍以上の引張強さを誇るアダマンタイトを使っているからこそ可能な出力だ。
これも参考までに、HーⅡAロケットの第1段に使われているLEー7Aエンジンは、推力およそ1100kN、重さは約1.7トン。
40分の1以下の重さで5分の1近い推力を発揮する『マギロケットエンジン(仮称)』はやはり優秀である。
この後、仁は『(仮称)』を取り去り、『マギロケットエンジン』と正式に命名したのであった。
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本日9月5日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
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20210905 修正
(誤)これも参考までに、HーⅡAロケットの第1段に使われているLEー7Aエンジンはは、
(正)これも参考までに、HーⅡAロケットの第1段に使われているLEー7Aエンジンは、
(誤)一般向けという前提で開発をしていたにも関わらず、こうして突き詰めていこうとするのはある意味仁の性である。
(正)一般向けという前提で開発をしていたにもかかわらず、こうして突き詰めていこうとするのはある意味仁の性である。




