81-07 エンジン試作
明けて3月3日。
アーノルトはそのまま『アヴァロン』で1週間ほど臨時講師を務めることになる。
仁は一旦蓬莱島へ帰ることにした。
その際、セルロア王国に寄って、アーノルトが講師をすることを伝えるとともに、これまでの事をまとめた報告書を手渡すことになる。
「それじゃあ、アーノルト、また後でな」
「うん、ありがとう、ジン」
必要に応じて『仲間の腕輪』で連絡が取れるので、こうした別行動もありだ。
チェルが付いているので心配もない。
「ジン殿、いろいろとお世話になりました」
「ジン、またな! たまには遊びに来てくれよ!」
「うん、それじゃあ」
ロア・エイスカーら『航空研』のメンバーとエイラたち『ゴー研』の面々に見送られ、仁は『ハリケーン』に乗り込む。
朝の空へ向かって浮かび上がる『ハリケーン』を見ながら、
「いつか、ジン殿の『ハリケーン』よりも速く飛べる飛行機を作ってみたいものだ」
と、ロア・エイスカーはひとりごちていたのだった。
* * *
仁を乗せた『ハリケーン』は、1時間でセルロア王国首都エサイアに到着。
すっかり馴染んだ気球部隊が速やかに空路を譲ってくれたので、楽々と着陸できた。
「ジン殿、ようこそ」
そして出迎えの宰相ダイン。
「アーノルトが『アヴァロン』で臨時講師をすることになりましたから、その報告とこれまでの報告書を持ってきました」
「おお、それはありがとうございます」
そういうわけで小会議室へ移動し、報告書を提出する仁。
「ほうほう、なるほど……この短期間にいろいろとやっておられますなあ。さすがジン殿」
ざっと目を通した宰相は、一旦報告書を閉じ、
「臨時講師、ということでしたな」
「そうです。『魔導大戦』当時の様子について、講義をするそうです」
「なるほどなるほど。それでは我が国からも何人か派遣しますか」
「それがいいと思います」
セルロア王国製の高速飛行船なら3時間ほどで『アヴァロン』に着ける。
転移魔法陣で繋ぐという方法もあるが、それは保安上の理由で実現していなかった。
現状、転移系のルートがあるのは『アヴァロン』(世界警備隊含む)の関係施設間だけである。(蓬莱島関係除く)
別に法があるわけではないが、自主規制的にそうなっているのである。
(ああ、この時間も『マギロケットエンジン(仮称)』ができれば短縮されるのかな)
そんな希望を抱いた仁であった。
他にも2、3のやりとりをしたあと、仁は王城を辞した。
宰相も国王も今は非常に忙しいらしいので邪魔をしないように、との心遣いだった。
* * *
……というのは建前で、仁は自分でも『マギロケットエンジン(仮称)』を研究してみたくてたまらないのである。
それで急ぎ蓬莱島へ戻り、工房に籠もった。
助手はいつもどおり礼子だ。
「まずは基本どおり……というか、あそこにあったとおりに作ってみよう。ただし10分の1で」
爆発系の魔法を利用するエンジンなので慎重になる仁である。
「材質もアダマンタイトを使って、十分な強度を確保だ」
「わかりました。……爆発の魔法は何を使いますか?」
「そうだな……まずは『火の爆弾』かな」
そう仕様を決めた仁と礼子はテキパキと作業を進め、30分ほどで試作エンジンを完成させた。
燃焼室というか爆発室(?)と噴射口、それに魔力素を供給するための導線、そして爆発室内部に刻まれた『火の爆弾』の魔導式。
噴射口の口径は5センチ、全長15センチの試作である。
これを工房のテストベンチに固定。
このテストベンチはこうした推進機の推力を測定するためのもので、マギ・アダマンタイト製。およそ10トンまでの推力に耐えられる。
さらに用心のため、周りには強力な物理障壁を展開して、いざ実験である。
挙動の記録は老君に取ってもらうことになる。
制御用の制御核の代わりを礼子が務めてくれる。
礼子の処理能力なら十分すぎるはずだ、と仁は判断していた。
「それじゃあ、『起動』」
魔鍵語に呼応して『マギロケットエンジン(仮称)』が動き出した。
「おっ?」
噴射口からは赤い炎が吹き出している。
テストベンチに取り付けられた推力計は200キロを示していた。
「この大きさで200キロか。すごいな……礼子、100キロで安定させられるか?」
「はい、お父さま」
初めての制御なので2秒ほどのタイムラグがあったが、推力計の表示は100キロでほぼ安定した。
「よし。それじゃあ今度は少しずつ出力を上げていってくれ」
「はい、お父さま」
礼子の制御により、推力が少しずつ増し始める。
噴射口から出ている炎も段々と長く伸び始める……。
「150キロ、200キロ、250キロ、300キロ、350キロ、400キロ……」
噴射炎は50センチくらいになった。色も赤から黄色になり、温度が上がっていることがわかる。
「500キロ、550キロ、600キロ……礼子、1000まで行ったらそのまま維持」
「はい、お父さま」
ほぼ線形に出力を上げていった『マギロケットエンジン(仮称)』は、1000キロという推力を維持。(これは約9800N相当)
そのまま10分間保持を続けた後、仁は急停止を命じた。
「『停止』」
一気に炎が消え、停止する『マギロケットエンジン(仮称)』。
仁はすぐに各部チェックを行っていった。
「温度は……摂氏1100度か。やはり高いな」
エンジン本体はアダマンタイト、テストベンチはマギ・アダマンタイトなので融点には余裕があるが、これを気球や飛行船などの実機に搭載するには熱対策が必要になるだろうと仁は考えた。
「出力は十分だな。礼子、制御の方はどうだ?」
「はい、お父さま。試してみましたが、1秒間隔での中爆発よりも0.2秒間隔での小爆発の方が、制御は難しいですが出力は安定します」
「そうか。……老君、何か見ていて気が付いたことは?」
『はい、御主人様。噴射口から炎を発するのが気になります。可燃物があれば引火するでしょう』
「それは確かにな」
とはいえ、仁としては、昔施設にいた頃に見たアニメのロボットが、背中に取り付けたロケットエンジンから炎を噴射しながら空を飛んでいた映像を覚えているのであまり気にならない。
むしろロケットというものはそんなものだと思っている。
とはいえ、普及させるには熱がネックになりそうだということは間違いない。
「改めて考えてみよう」
まずは『爆発』という現象である。
『破壊力のある急激な化学反応。ガス・音・熱・光を伴い、容積が増大する』と辞書にはある。
今回使ったのは『火の爆弾』。
これは魔力素を変化させ、音・熱・光、そして急速に膨張するガスに変化させる魔法であるといえる。
音・熱・光・ガスに変化した魔力素は数秒で消滅する(というか物理的性質を失う)。
「ここから、もう少し効率のいい魔法を使えないか考えてみよう」
『魔法工学師』、仁が検討を開始した……。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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