80-42 多角的な歴史
「……というのが、私の聞いた話よ」
語り終えたシオンは少し悲しそうな顔だった。
「思うに、その意見を変えた人たちって、『操縦針』を埋め込まれたんじゃないかしら」
「うむ、シオン殿の推測は正しいと思う」
『長老』ターレスも、シオンの推測を支持した。
「当時の『北方民族』は、だいたいだけれど18万人くらいの人口だったらしいんですの。食糧確保がギリギリになるわけですね」
ロロナが補足説明をしてくれた。
彼女は『ノルド連邦』の農業全般を見ているので、食糧事情については詳しいのだ。
「私が父に聞いた話では……」
今度はロロナが語りだした。
* * *
先頭に立ったのは『傀儡』の氏族。
彼らには、『テイマー』が多くおり、『百手巨人』を使役できた。
そこで、5体の『百手巨人』を引き連れ、ローレン大陸へと侵攻したのだ。
まず目指したのは東へ回り込む海沿いの南下である。
旧レナード王国の海岸線沿いに南下するこのルートは『東ルート』と呼ばれた。
旧レナード王国は、当時はまだ繁栄しており、ディナール王国と並んでローレン大陸の二大強国と言われていた。
ディナール王国以上の魔法技術を誇るその国は強敵で、戦況は一進一退を繰り返していた。
* * *
「ああ、確かに、『旧レナード王国』は、『ノルド連邦』とは別系統の『始祖』が降り立って作り上げた国だというからな」
「そうでしたね」
以前、『ミロウィーナ』と初めて会った際に、月の管理魔導頭脳『ジャック』から聞いた話であった。
『古代遺物』を幾つも持ち、それを使いこなしていた彼らは手強かったのだろうな、と仁は推測を口にした。
『御主人様、月の『ジャック』が当時のことを教えてくれました』
「お、そうか」
『僭越ながら、当時のことを少しご説明させていただきたいと思います』
「よし、頼む」
* * *
レナード王国で繰り広げられた戦いは最初期から熾烈を極めた。
東ルートに投入された戦力は第1次が500人と『百手巨人』2体。
迎え撃つは北方警備軍500人と戦闘用ゴーレム3体。
が、はっきり言って初戦だけは話にならなかった。
北方警備軍とは名ばかりで、まさか北からいきなり攻めてくるとは思っておらず、ろくな準備もできないうちに攻め寄せられたのだから。
国境付近での戦いは、レナード王国の惨敗で終わった。
『魔族』側は勢いづいて更に南下を行う……が、ここで誤算が生じた。
レナード王国の国境付近は荒れ地が多く、食料の自給率が非常に低かったのだ。(代わりに鉱山で生計を立てていた)
そのため、食料を現地調達することができず、500人の『魔族』は飢えることになる。転移魔法でも500人分の食料の運搬は困難だったのだ。
そしてそこへ、レナード王国正規軍5000人が押し寄せた。
彼らは強かった。
戦闘用ゴーレムも50体加わっており、『魔族』側の第1次部隊500人は3割以上の172人と『百手巨人』2体を討ち取られ、撤退を余儀なくされたのである。
しかし、『魔族』側も黙ってはいなかった。
第2次戦力は第1次の倍の1000人が投入されたのである。
しかも、『魔族』側のゴーレムも10体加わっていた。
3回目の会戦は互角だった。
いや、食料が不足気味の分、『魔族』側がやや不利といえた。
だが魔法に長けた『魔族』は、様々な手を尽くし、『人類』側を翻弄する。
「転移のできる者は深夜『人類』側の食料庫に忍び込み、できるだけ多くの食料を持ち出してこい」
「はっ」
「我らは、奴らが夜の警戒を軽く見るよう、日中の攻撃をメインとする」
「わかりました」
そんな作戦会議がなされたのかどうか。
互角以上に戦っていたレナード王国側だったが、次第に押され始める。
戦線は徐々に南下し、レナード王国軍は『マグス岬』付近まで押し戻されていた。
幸いなことに戦闘は内陸部で行われていたので、『マグス岬』付近が戦火に見舞われることはなかったが。
戦線はさらに南下し、大陸暦3152年にはダース川、その翌年3153年にはネトー川の北まで押し込まれてしまった。
しかし、ネトー川を渡ってからの『魔族』はこれまでにない熾烈な抵抗を受けた。
レナード王国首都ディアアが近く、必死の抵抗がなされたからだ。
戦線は膠着状態となった。
だがこの時は、既に穀倉地帯の半分を『魔族』に占領されており、食糧事情は大幅に改善されている魔族軍だったので、時間は『魔族』の味方だった……。
* * *
『ここまでが、まあ前半ですね』
老君は語りを一時停止した。
「ありがとう、老君。これで大分『魔導大戦』の流れが理解できたよ」
『それはようございました』
「ここらで一休み入れるか」
「はい、お父さま。ではお茶のご用意をさせていただきますね」
礼子は配下の双子ゴーレム、ルーナとソレイユを呼び、手伝わせる。
アーノルトもまた、チェルを手伝わせよう、と言った。
礼子・ソレイユ・ルーナ・チェルで給仕を行ったので、1分足らずで全員分のお茶が入ったのである。
「お父さま、どうぞ」
「お、ありがとう」
「アーノルト様、どうぞ」
「ありがとな、チェル」
仁は礼子から飲み物の入ったコップを受け取り、一気に飲み干した。
「ああ、うまい」
仁向けに飲み頃の温度になっていたそれは、滑らかに仁の喉を潤してくれたのだった。
「それにしても」
『長老』ターレスが口を開いた。
「こうして、様々な立場にいる者たちが集まって、過去の出来事をまとめるということはなかなかできることではないぞ、ジン殿」
「そう……かもしれませんね」
「うむ。ゆえに、この集まりは歴史的なエポックになるであろう」
「大袈裟じゃないですか?」
「何の、大袈裟なものか。……それにそういう評価は後世の者が決めることである」
「それは、確かにそうですね」
こうした休憩をはさみ、『魔導大戦』のまとめは続いていく。
* * *
「それでは、もう一度吾が少し語るとしよう」
『長老』ターレスが立候補した。
「お願いします」
「うむ」
そして『長老』ターレスは語りだした……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210825 修正
(誤)語り言えたシオンは少し悲しそうな顔だった。
(正)語り終えたシオンは少し悲しそうな顔だった。
(旧)旧レナード王国は、当時はまだ『レナード王国』と呼ばれていた。
(新)旧レナード王国は、当時はまだ繁栄しており、ディナール王国と並んでローレン大陸の二大強国と言われていた。
20210827 修正
(旧)「当時の『北方民族』は、だいたいだけれど5万人くらいの人口だったらしいんですの
(新)「当時の『北方民族』は、だいたいだけれど18万人くらいの人口だったらしいんですの




