80-41 過去の真実
「わたくしめも、若干ですが当時の状況は存じております」
アンが証言を行う。
「その頃、わたくしめは同僚5体と共に『ケウワン砦』に配属されておりました」
アンが言う『ケウワン砦』とは、今で言う『ケウワン遺跡』である。
現在の所属はエゲレア王国だが、当時はそこも『ディナール王国』である。
* * *
『ケウワン砦』の存在意義は『バックアップ』。
主戦場から少し外れ、巨大な転移門を持つこの砦は、軍団の派遣や民衆の避難に役立つ。
『魔導大戦』前期は、比較的穏やかな砦であった。
アンとその同僚は、砦に常駐する兵士たちを慰撫する毎日を送っていたのである。
「昨日届いた魔導兵器って、何だったんだ?」
「なんでも、『ギガース』と言って、決戦兵器の1つらしいぞ」
「そりゃあすげえや」
「まてまて。話は最後まで聞け。どうやら欠陥兵器で、一度起動すると敵味方の区別なしに暴れるらしいぞ」
「何だってそんなものを作ったんだ?」
「負けが確定した土壇場で起動して、敵に一矢報いる……ためじゃないか?」
「そんな事態、俺は嫌だぞ」
「それは俺だって嫌さ。だから起動させておいて、こっちは転移門で逃げればいいじゃないか」
「それもそうだな」
まだ『魔導大戦』前期は、前線以外ではお気楽な空気が流れていたのだった。
* * *
「……そんな会話を聞きました」
アンが語り終えた。
「うーん、一概に不謹慎とは言えない……のか?」
「そうだね、私的な時間での会話としたら普通かな?」
仁の疑問に答えたのはアーノルトだった。
「しかし、『ギガース』がそんな砦にも配備されていたんだね」
「ああ。おかげで苦労させられたよ……」
仁は、400年前にラインハルトやエルザと旅をした時のことを思い出していた。
「しかし、前期はまだ余裕があったんだな」
「うん。ローレン大陸まで攻め込まれたとはいっても、クリューガー大山脈の向こう側には国なんてなかったから。むしろ『魔族』の兵站が伸びるからこっちに有利だと考えているフシもあったね」
アーノルトの言葉に、仁が反論する。
「だけど転移というものが……」
「うん、そうなんだ。こちらにも向こうにも『転移』という手段がある以上、兵站が伸びて不利になる、ということはほとんどありえない」
「だよなあ」
いずれにせよ、一般人に被害が出ていないうちは、まだましだった、ということらしい。
「ですが、大陸暦3153年、初めて民間に被害が出てしまいました」
これはチェルだ。
「……アーノルト様がお作りになった83体目、84体目、85体目のゴーレムがそれを覚えています」
チェルには、アーノルトがこれまでに作り上げた全てのゴーレムと自動人形の知識と経験が集約されているので、こうした記憶もあるのだ。
* * *
大陸暦3153年。『魔導大戦』が始まって2年の月日が経過していた。
戦況は『人類』側に不利で、戦線は次第に南下してきていた。
それでも、『クリューガー大山脈』に陣地を築き、徹底抗戦をしているうちはよかった。
5月15日、ついに『魔族』は『クリューガー大山脈防衛線』を突破した。
またたく間に南下を再開した『魔族』は、現在のフランツ王国、当時の『フランシス地方』をあっという間に蹂躙したのだ。
住民の避難も進めていたものの間に合わず、1万人を超える民間人が犠牲となった。
* * *
「伝え聞いております。その時、わたくしめのいた『ケウワン砦』にも、避難民の方々が大勢いらっしゃいましたから」
アンが補足説明を行った。
そしてロルも、
「わたくしめのいた『クロゥ砦』にも避難民の方々がいらっしゃいました」
と、当時のことを語った。
「そのあたりから、だんだんと人々の生活が圧迫されていったんだろうな」
「うん、ジンの言うとおりだよ。当時僕のいたボロロンでも、なんとなくピリピリした空気になっていったし、娯楽の類を自主規制していったりもしたっけね」
「なるほど、一般大衆もだんだんと自覚……というか、思い知らされて来たんだな」
そのあたりから『中期』と呼んでいいのかもしれない、と仁は言い、そこにいたメンバーは皆同意したのである。
「そうすると『後期』は『人類』が押されっぱなしの期間だな」
「そうなるね」
ここでグースが発言。
「このあたりで、シオンさんやマリッカさん、ロロナさんたちのお話も伺ってみたいなあ」
これにはシオンが反応する。
「そうね。私は当時生まれていなかったから、伝え聞いた話になるけれど」
* * *
これは、『魔導大戦』が勃発する以前のこと。
『魔族』の住むゴンドア大陸は北にあり、冬が長い。
その年の冬はいつになく長く、厳しかった。
本来なら雪解けが始まる3月の終わり。
まだ北の地は雪に覆われていた。
そんな頃、過激派で聞こえた『狂乱』の氏族と『灰燼』の氏族の間で話し合いが持たれた。
「こんな北の果てに住むのをやめて、南の肥沃な地を目指そうではないか」
「うむ。もっともだ。で、具体的にはどうする?」
「もちろん、侵略だ。我らは強い」
「そのとおりだな。脆弱な人類など一捻りだ」
と、まあ、おおよそそんな内容ではなかったかと思われる。
もちろん、反対する者もいた。
『森羅』の氏族や『福音』の氏族たちだ。
「いや、戦争はいかん。互いの血が流れる。それよりも交易を行い、食糧を輸入すればいい」
「そのとおり。理性を持って話し合いをすべきだ」
だが、そんな意見は黙殺される。
「何を甘いことを言っている!」
「そんな弱腰では舐められるだけだ!」
過激派たちは耳を貸そうともしなかった。
そして、不思議なことに、半月も経つと、穏健派というべき者たちが意見を翻したのだ。
「考えてみれば、我々にはそれだけの力がある。今振るわないでなんのための力か。子孫のために、南の大地を勝ち取ろうではないか」
「おお、それでこそ我が同胞」
過激派たちは穏健派が意見を変えたことをおかしいとも思わず、戦争の準備を進めていったのだった。
そして、大陸暦3151年4月24日。
パズデクスト大地峡を越え、『魔族軍』総勢2000人がローレン大陸に攻め込んだのだった。
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