80-37 思いがけない出会い
「ここが、蓬莱島……ジンの拠点にして、魔法工学の聖地、か……」
「素晴らしい場所ですね」
蓬莱島をざっとひととおり説明し終わると、アーノルトは少し放心したようになった。
「……『魔導大戦』で技術は失われたかと思っていたが、ここに受け継がれていたんだね」
「それでも、途絶えた技術も多々あると思う。アーノルトたちが協力してくれれば、さらにそうした知識を未来に伝えていけると思うんだ」
「そうだね。ぜひ協力させてほしい」
「望むところさ」
そして仁は、アーノルトとチェルに『仁ファミリー』の証、『仲間の腕輪』を贈った。2人共『白に青いライン』だ。
機能の説明をすると、アーノルトは感心し、チェルは感激した。
「これは凄いな……」
「わたくしにまで……ありがとうございます」
「今日は急な話だったから、他のメンバーがいないんだ。今度ゆっくり紹介するよ」
「うん、頼むよ」
あまり時間もないので、来た時と逆のルートで『ハリケーン』に戻る一行。
ちょうど『ハリケーン』は海の上に出たところだった。
「お帰りなさいませ、ご主人様、アーノルトさん。もうじき『アヴァロン』です」
「うん、ちょうどいいタイミングだったな」
『ハリケーン』の窓から『アヴァロン』が小さく見えてきていた。
「あれが『アヴァロン』か。なかなかすごい施設だな。ええと、『始祖』が遺した施設を改造したんだっけ?」
「そう。元は『始祖』が作ったメガフロートなんだ。管理魔導頭脳は『アーサー』っていう」
「降りるのが楽しみだ」
「あとちょっとだよ」
* * *
「ようこそ、ジン殿。……そちらがアーノルト殿ですな?」
空港に降りた仁たち一行を出迎えたのは最高管理官トマックス・バートマン。
「アーノルトです、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
トマックス・バートマンとアーノルトは握手を交わした。
「さて、それではこちらへどうぞ」
専用自動車でまずは『世界会議』本部へ。そこの会議室へと案内された。
「ジン様、お久しゅう」
「え……」
そこには、意外なことに『懐古党』の名誉顧問エレナが待っていたのである。
どうやら『魔導大戦』というキーワードが飛び交う昨今の状況に、いても立ってもいられずにやって来たらしい。
「あ、ああ、エレナ、久しぶり。……紹介するよ。アーノルトと……」
「チェルですわ。どうぞ、お見知りおきを」
「エレナと申します。これからどうぞよろしく」
いずれ『懐古党』に紹介しようと思ってた仁は、この偶然に驚いていた。
ところで、『白髪の自動人形』チェルを見た時、エレナの双眸がほんの僅かに細められたのだが、それに気が付いたのは礼子だけであった。
* * *
打ち合わせの出席者は最高管理官トマックス・バートマン、最高管理官副官イルミナ・ラトキン、最高管理官秘書フィオネ・フィアス、それに『懐古党』名誉顧問エレナ。
「概要はセルロア王国より聞いております」
トマックス・バートマンが切り出した。
「なんでも、また新たな地下施設が見つかったのだとか」
これには依頼された仁が答える。
「そうなんです。『オノユニ山』の西、そしてボーダー川の源流部地下に」
「ほほう」
仁は宰相から預かった資料を配り、説明を始めた。
「この地下へ行くには転移魔法陣を使い……」
「ふむふむ」
「管理魔導頭脳はなく……」
「ははあ」
「……そのため、通称『島基地』に関しましては『アヴァロン』に管理をお任せしたいということのようです」
契約は1年毎の更新としたい、という意向も説明する仁。
「なるほど、検討させてもらいましょう」
「そうしてください」
『アヴァロン』側としても断るべき理由はないので、セルロア王国からの申し出は受ける方向で行くという。
仁としても『先触れの使者』としての役割を果たせたのでほっとした。
そしていよいよ本題である。
「彼、アーノルトは自動人形です。チェルも同様です」
「……聞いておりますが、人間にしか見えませんな」
チェルの場合は『白髪』というわかりやすい特徴があるので一応人間ではないらしい、とわかるようだ。
「チェルは生まれたときから自動人形ですが、アーノルト殿の記憶は『魔導大戦』時の技術者です」
「なんと!」
「つまり、当時のことを知っている方、ということですね、ジン殿?」
「そうです」
「これは……」
感心し、驚嘆するトマックス・バートマン以下3名。
だがエレナは、少し寂しそうに微笑んでいた。そして、小声で一言、呟く。
「……ェンナ」
「はい? エレナさん、今、なんと?」
アーノルトがその言葉を耳にし、エレナに尋ねる。
エレナは相変わらず寂しそうな笑みを浮かべたまま、
「シェンナ、と申しましたわ」
と答えた。
「……先生の名を、どうして?」
「先生?」
「はい。……僕が私淑していた先生の名前です」
「あなたが?」
「はい」
「シェンナお母さまに?」
「はい。……そうですか、あなたをお作りになったのはシェンナ先生でしたか!」
笑みを浮かべるアーノルトに、エレナが答える。
「ええ、今のボディを作ってくださったのはジン様ですが、原型を作ってくださったのはシェンナお母さまです」
「そうでしたか……!」
ここでエレナは、仁やトマックス・バートマンの方を向き、
「申し訳ございませんが、少しだけお時間をいただけませんか?」
と言うのだった。
もちろん仁たちはそれを承認する。
そしてエレナは、
「アーノルトさん、シェンナお母さまについて、あなたがご存知のことをお教えいただけませんでしょうか?」
と懇願した。
「ええ、いいですよ」
快諾したアーノルトは、少し考えてから口を開いた。
「シェンナ先生は、確か大陸暦3071年生まれだった、と思います」
「ええ、そのとおりですわ。続けてください」
「先生の生家は大商人だったかで裕福で、先生は幼い頃から魔法工学が好きで勉強していたと聞きました」
「はい」
「そして長じてからは自動人形の製作に打ち込んだということです」
「……」
「何10体もの自動人形を作り続けた先生は、当時もう1人いた技術者に勝るとも劣らない……いや僕はシェンナ先生の方が上だと思っていますよ」
「わたくしもそう思いますわ」
エレナは満面の笑顔を浮かべていた。700年という歳月の果てに、自分を産みだしてくれた母親、シェンナの真価を理解してくれている者とついに出会ったのだから……。
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